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コンサルタント起業のリアル、こうやって仕事をとりなさい

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
物流に関してだけは誰にも負けないという自負もありました(写真:アフロ)

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

このところ、第二次、第三次の起業ブームが起きています。個人がサラリーパーソンから独立し、士業やコンサルタント、また個人事業主として食っていくとき、どのような困難が待ち受けているのか。私は一人の独立した人間として、他の先人たちに興味を持ちました。彼らはどのように独立して、食えるにいたったのか。それはきっと起業予備軍にも役立つに違いありません。さきほど、「第三次の起業ブーム」と入力しようとしたら、「大惨事」と変換されました。まさに大惨事にならない起業の秘訣とは。物流コンサルタントの仙石惠一さんにお話を聞きました。

――仙石さん、今日はどうぞ宜しくお願いします。

よろしくお願いします。私は56歳です。会社を辞めて自分でビジネスを始めて間もなく丸3年となります。社会人生活の中で今が最も充実しています。本当に独立して良かったと思っています。年齢を考えると起業は遅い方でしょう。しかし起業については入社して間もなく考え始めていました。大学時代にはまるで考えてもみなかったことを入社早々に考え始めたのは、サラリーマンとしての仕事に少なからず疑問を抱いていたからです。

――どうして、すぐに会社を辞めて自分でビジネスを始めなかったのでしょうか。

これがなかなか最初の一歩を踏み出すことができませんでした。それから31年が経過し、ようやく鳥かごから抜け出すことができました。なぜここまで時間を要したのか。なぜいい年をして起業に踏み切ったのか。そして今はどのような思いで毎日を過ごしているのか。皆さんが多分興味を持つであろうことについてお話ししようと思います。

――それでは、自己診断について教えてください。

はい、最初に皆さんが独立起業できるかどうか、簡単な自己診断をしてみましょう。図1をご覧ください。ここに10個のチェック項目を挙げました。まずはこれについてお答えください。これらはいずれも起業するにあたっての必須項目であるため、すべてにYesと答えられることが必要です。もしNoの項目があれば、今からその部分を補強して起業することをお勧めします。次に図2についてチェックしてみましょう。自分が今から始めようとする仕事が実際に成功につながるか否かをある程度予測できます。これらにできるだけ当てはまる仕事を選んでいきたいのです。

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――悶々と過ごしたという会社員時代についてお聞かせください。

私なぜ入社早々に起業について考え始めたのかというと、それは日々行っていた業務に起因します。大手自動車メーカーに入社し、最初に就いた仕事は地方工場の生産管理でした。元々大学では経済を専攻し、好景気の下、深く考えることもなく、また苦戦することもなく就職活動が終了しました。ここまでは順調のはずでした。

しかし配属先が地方にある工場で、作業着を着て日々を過ごすことに違和感を抱き始めるまでに時間はかかりませんでした。文系としてなじみのない生産管理という仕事と、都会育ちの自分にとって耐えがたい地方勤務です。都会の真ん中に本社がある会社にあって、文系だからという理由で本社勤務を疑わなかった若者の浅はかさ。誰から見ても「甘い!」と言わざるを得ない状況だが、自分自身としてはもう起業を考えざるを得ないという短絡な発想。しかしこれは必ずしも悪いことではありませんでした。なぜなら起業に向けての準備を始めた自分がいたからです。

入社後3年で販売店出向に行くことになりました。いわゆるカーセールスです。毎月のノルマに追われながら勉強を続けてきました。そして母校のMBA試験にチャレンジし合格!ここで踏ん切りをつけて退社、となればよかったのかもしれないが、優柔不断な自分にはこのチャンスの女神の後ろ髪を掴むことはできませんでした。

そして出向が終わり戻ったセクションはIE(Industrial engineering )という、工場効率化を担うまさに理系集団でした。はっきり言って望んでもいないセクションではあったが、このあたりから少しずつ流れが変わってきました。なぜならIEというスキルを身につけることができたからです。この知識が今の自分を支えるということを当時は考えもしませんでした。そして念願の本社へと転勤が決まったのは入社8年後の30歳の時でした。就いた仕事は「物流管理」です。会社の中では極めて地位の低いポジションでした。物流には興味がなかったわけではなく、しばらく社内でノウハウの蓄積に乏しい物流について、IEで培った知識を武器に科学的にしくみづくりを行いました。振り返ってみれば、この仕事のプロセスこそが今の自分の土台になっているのです。

その後、購買部門へ異動となったり、海外勤務などを経験したりし、一定のポジションと年齢に達した時点で関連会社へ転籍となりました。その時点で既に自分は物流のプロであるという意識が定着していました。物流に関してだけは誰にも負けないという自負もありました。これが自分の生きる道だとも思ったものです。最終的に背中を押されたのが転籍先の会社で総務の仕事に就いたことでした。社会に出て31年目の春にその会社を退職し、物流コンサルタントとしての道を歩き始めました。

――会社での過ごし方について、アドバイスをいただけますでしょうか。

皆さんは会社の中で何をしていますか?「仕事に決まっているじゃないか!」という声が飛んできそうだが、それは当たり前の話です。仕事以外で何をしているのか考えてみて欲しいのです。「人脈づくり」、これはなかなかいいことだと思います。社内人脈、社外人脈を問わず、必ず生きてくることだからです。「何かの勉強」、これも重要です。仕事自体が勉強なのかもしれません。

私の場合、仕事が変わるたびに、その仕事から何かしらを学ぼうと考えてきました。いやな仕事であっても、そこから学ぶことの1つや2つはあるはずです。これを皆さんには意識して取り組んでいただきたいです。給料をもらって仕事をしながら「人脈」や「スキル」を身につけられるというサラリーマンならではのメリットは享受するべきです。将来、会社から外に出た時にそれらがいかに役立つことか驚くことでしょう。

一般的にサラリーマンを5年もやっていれば「コンサルタント」として自立できるスキルは身に付いていると考えられます。それを欲している人は必ずいます。極論を言えば、何かについて知っている人は、それを知らない人にとってはコンサルタントの先生です。自分のスキルなんてたいしたことは無い、と思っている人は、それは大いなる勘違いであることに気づくべきです。本当にたいしたことが無いのであれば、厳しい言い方をすれば「あなたが真面目に仕事をしてこなかった証明」ということになるでしょう。でも心配は要りません。世の中、ちょっとした知識でも重宝がられることは多々あります。問題はそれを欲している「お客様」をどうやって探し出すか、ということです。

――休日の過ごし方についてはどうでしょうか。

一般的なサラリーマンは平日を会社で遅くまで過ごし(仕事をしているかどうかは別として)、休日は家族サービスで旅行や買い物、食事に出かける、という生活パターンになるでしょう。しかし入社5年目くらいまでは少なくとも土日のどちらかは自分の充電タイムとして勉強に充てた方がよいです。私は土日の片方は資格試験の勉強に充てることが多かったです。その甲斐もあり30代で国家資格を3つほど取得し、その他の公的資格、民間資格も取得することができました。自分の業務に直結する勉強でもよいし、将来に備えた別の勉強でも構いません。少なくとも勉強する習慣だけは身につけておいた方がよいことは間違いありません。

――仙石さんが取得した資格についてお話しいただけますでしょうか。

私は勉強の成果として、社会保険労務士、行政書士、1級ファイナンシャルプランニング技能士等を取得することができました。これらの資格は独立可能資格と言われています。つまり資格取得後、すぐに会社を辞めて自分で事務所を構えることが可能なのです。その意味でサラリーマンでも取得可能かつ一定の収入を確保できる資格を身につけておくことは損ではありません。勉強の過程でいろいろな知識を学ぶことができます。そして合格すれば精神的に安定することもメリットです。何か会社であった時も「この資格を活用して起業が可能」だと思えるからです。一種の保険のようなものだと考えられます。

さらに私の場合、起業前5年程度は在職しながら休日に社外の勉強会に参加しました。ここで広げた人脈が独立後も大いに役立ったことは言うまでもありません。人脈を生かし、講演や執筆活動を開始することができ、それが一定の収入へとつながっていきました。そして執筆していた記事から、在職中に大きなコンサルティングの仕事が舞い込んできました。これが最終的に会社を辞めて物流コンサルタントとして起業するトリガーになったのです。在職中から土日を活用し、目的を持った行動をとっていれば、必ず将来につながるということを知っておいていただきたいです。

――資格取得は起業の切り札になるのでしょうか。

私はいくつかの国家資格を取得した旨はすでにお話ししました。資格予備校に行くとそこには同じ志を持ったサラリーマンらしき人たちが大勢います。同じ志とは「この資格を取得していずれは自分も起業する」という夢です。たしかに資格は精神安定剤としての役割を果たしてくれます。いざとなったらそれで起業は可能だからです。ただしそれで儲かるかというと話は別です。

私の周りには社会保険労務士や行政書士の仲間がたくさんいます。じゃあ彼ら、彼女らが大いに儲けているかというとそうでもなさそうです。とかくこのような士業の方は「社会保険労務士をやる」、「行政書士をやる」という方向に向きがちです。つまり企業の代わりに社会保険の手続きを行ったり、会社設立の書類作成や届出を実施したりするのです。

最近独立された方に顕著なのがダンピングです。自ら低価格で受注し、業界のイメージ低下を招いています。そんなやり方で儲かるはずはないのだが「書類作成は作業(work)」にすぎず、仕事(job)ではありません。だから高い値段で受注しづらいのです。「代書屋」をやっている限り儲けていくことは難しいです。もし士業で儲けたいのなら「社会保険労務士(行政書士)知識を活用」し、コンサルティングを行うべきです。これは他の士業でも同様です。国家資格を取っただけでサラリーマン時代以上の収入を得ることは簡単ではありません。

私の場合は物流コンサルティング業に専念するため、書類作成や届出関係の依頼があった場合は他の士業の方にお願いすることにしています。社内で人事評価基準を見直したい、管理職の研修を実施したいという要望にはお応えしています。よく士業の大先輩が基本は書類作成であり、届出業務だからそれをしっかりやらないといけない、という話をします。しかし限られた時間で高付加価値の仕事をする観点から、皆さんには「作業」よりも「仕事」をしっかりと実行されることをお勧めします。

――仙石さんにとって、資格取得とはなんでしょうか。

まとめると資格取得は、さまざまな知識吸収プロセス、取得後の精神安定剤としての機能、そしてそれを活用したコンサルティング業務へとつなげるのであれば価値はあります。ただし資格取得が独立起業の切り札になるかといえば何とも言えません。少なくとも私の周りにはそれだけで儲かってウハウハの人はいません。

――家族をどう説得すればよいのでしょうか。

私は結婚前からいずれは自分で仕事を始めるから、という夢を語っていました。30代で資格取得をしたことも、人脈を広げるために週末勉強会に参加したことも、そして在職中から一定の収入を伴う活動をしていたこと(もちろん、社内で申告したうえで)も説得材料として効果的であったと思います。

皆さんが起業をするというとまず9割方反対されるのではないでしょうか。その急先鋒が家族や友人など身近な人たちです。家族は安定を求めているからです。ではサラリーマンは本当に安定しているのでしょうか。仕事をしてもしなくても、毎月一定の給与が口座に振り込まれるから経済的には安定しているのかもしれません。多分、多数のサラリーマンは自分の働きに対して過分の給与をもらっていることでしょう。社会保険は半額を会社が負担してくれています。法定福利費や福利厚生費などを含めると、会社は現金支給額よりもはるかに多くのコストがかかっているのです。起業すれば当然のことながらこういった要素は全くなくなる。全額自分で負担することになるからです。

――では精神的な安定はどうでしょうか。

これを読まれている方は多少なりとも精神的安定に不安があるのかもしれません。会社にいる限り自由度は小さいです。自分の思いの通りにことを進められないことは日常茶飯事です。最近では会社にいながらメンタル疾患にかかってしまう人が増えています。サラリーマンは精神面では必ずしも安定しているとは言い難いです。男性の方であれば奥様から「我慢してでも会社を辞めないで」と言われます。「子供も社会に出るまであと10年あるから。家のローンもまだ残っているし……。」このような会話が家庭内で交わされます。現実問題です。

皆さんにアドバイスできる点を挙げておきます。まず「夢」について周りにことあるごとに話をしておくこと。起業計画とあわせて「住宅ローンの早期返済」と「学資の確保」はやっておこう。そして金融資産も生活費2年分程度は確保しておくこと。さらに起業の前段階として、皆さんの価値を具体的に示すことです。それは何か。在職中に「ファーストキャッシュ」を手に入れることです。執筆でも講演でもいいのです。もちろん、何かを販売することでも構いません。それがあると無いとでは家族に対する説得力に大きな差が出ます。「ほら、これだけ稼げるでしょ」と言えなければなりません。

身近な人ほど皆さんを心配してくれます。だから起業に対してはだいたい否定的な発言が多い。表現は良くないが、このような人たちを「ドリームキラー」と呼びます。「お前なんか成功できるわけがない」と言ってくれるその人は起業の経験はあるのでしょうか。先に示した準備ができているならば、ドリームキラーの言葉は聞き流した方がよいです。ただしこういった周りの言葉に心乱れるようなら、現時点での起業は思いとどまった方がよいでしょう。

――起業して仕事はあるのでしょうか。

仕事はつくるものです。サラリーマンの場合、仕事は与えられるものだったのかもしれません。しかし自分で起業すれば仕事はいくらでもつくりだすことができます。ではその仕事にバリューはあるのでしょうか。お金をいただくことはできるのでしょうか。先にも触れたように、コンサルタント業であれば、皆さんが今まで経験してきたことがバリューとなり、お金をいただきながら実施していくことはそれほど難しくはないと思います。

自分の知識、ノウハウを発信する方法は雑誌や新聞への投稿、本の出版、ブログやメルマガなど、今やツールは多岐にわたります。ここでニーズを持つ人とつながることでファーストキャッシュを手に入れることはそれほど難しくないでしょう。金額の多寡を別とすれば、講演を行うことで顔も売れていきます。コンサルタントはいかに露出度を上げ、多くの人たちに知ってもらえるかがカギなのです。

――具体的に露出度を上げる方法について、ぜひ教えてください。

一つめは、業界紙に執筆することです。

皆さんの持つノウハウを欲しがっている人の目に留まりやすいのが業界紙です。あなたが人事のスペシャリストであれば、人事・総務系の雑誌に、生産効率化であれば工場系の雑誌に執筆することが望ましいです。

二つめは、講演エージェントに登録することです。

セミナー講師を派遣するエージェントが多数存在します。その中でも自分に合いそうなところに登録しましょう。ウエブ登録が一般的だが、そのエージェントを訪問し、自分を売り込むことは必須です。ほとんどの人が訪問していないので、これは効果的です。その際にあなたができるセミナーの提案書を2~3持参することを忘れずに。

三つめは、コンサルティング会社に登録します。

セミナーエージェントと同様にコンサルタントを派遣する会社も存在します。そういった会社に登録することも忘れずに。この場合は原則として面接があるので、不合格となれば登録できません。登録できたらその会社主催の勉強会に積極的に参加し、自分の存在をアピールしましょう。いろいろなコンサルタントの考え方を知るチャンスでもあるので、自己成長にもつながります。

四つめは、ブログ、メールマガジンを発行します。

これは最も簡単な方法です。ただし発行日を決め、その日には確実に発信することです。時々続かずに中途半端な状態になっているものも見かけるが、これだけは避けましょう。継続は力なり、中途半端は逆効果なり、読者にあきれられることに無いようにしましょう。

五つめは、セミナー、勉強会に顔を出しましょう。

自分の分野のセミナーや勉強会の一つや二つはあるはずです。そこに通うことで顔を売ることもできます。いずれその場で講演を依頼されることもあるでしょう。仮にもしそのような勉強会が無かったとしたら……。その場合はぜひ自分で企画しましょう。勉強会への集客も勉強になるのです。

六つめは、ネットワークを持つことです。

人脈は宝です。自分ができなくても代わりにやってもらえる仲間を持つことは非常に重要なことです。今からいろいろな人と接してネットワークを築いておきましょう。仕事のやり取りも出てくることだろうし、何か困ったことがあればお互い助け合えることでしょう。今までは会社という組織に守られてきたが、これからは自分だけが頼りです。だからそこ、常に安心できるネット―ワークを持っておくことは必須なのです。

このように活動することで仕事をつくり出していきます。実際に成約につながるかどうかは別として、まったく仕事の声がかからないとうことはまず無いです。もしそのような状態にあるとしたら行動量が足りないと考えましょう。

――仙石さんの初仕事について、お聞かせください。

はい、私の起業後の初仕事は、某電機メーカー系の物流会社からいただいたコンサル案件。きっかけは上記一つめのパターンです。在職時代に連載していたある会社の広報誌を読まれたご担当の方から、ぜひ記事に書いてあることを自社で実現して欲しいと言われたことでした。無名の私が難なく受注できたこと、しかも少なくない対価を支払っていただけたことを考えると、メディアの効果は大きいと感じたものです。

次に仕事に対していただく対価であるが、起業すればすべて自分で決めることになります。この対価基準、つまり「売値」を決めておきましょう。自分のバリューを見極め、自分が納得する水準で決めること。自信があるのであれば1日100万円でも構いません。競争相手が多数いるレッドオーシャンだと1日数万円というケースも出てくるでしょう。インターネットで調べればどれくらい自分の競争相手が存在するのか見当がつきます。「あなたにしかできない仕事=高額」、「誰でもできる仕事=低額」となることは容易に想像がつくことです。

――では、どのような分野を狙うのがよいのでしょうか。

大抵今まで自分がやってきた仕事の延長線上にコンサルタントビジネスは見つかるものです。人事の仕事をしてきた人なら「人財育成コンサルタント」、接客業を中心にやってきた人なら「マナーコンサルタント」といったようにです。ただし先にも触れたが、あまりにも多くの競争相手がいるようだと、余程特徴を出さないと苦戦することが目に見えています。

私は「物流コンサルタント」だが、物流という比較的マイナーな業種であるがゆえに人財層も薄く、得をしているように思います。もし皆さんが会社の中でマイナーなセクションに就いていると、それはチャンスかもしれません。私がニーズの割に専門家が少ないと感じているものに「梱包」があります。梱包は物流業務の一部であるが、会社の中での地位も低く、人財が育っていません。このような業務に就いている人が独立起業すれば大ブレークする可能性もあります。それ以外に思いつく「得しそうな主な業務」として「固定資産管理」、「業務のアウトソース」、「機密情報管理」、「業務の標準化」などが挙げられます。今自分の会社にある業務を列挙し、自社でできていること、他社の力を借りながらやっていることを整理してみると、ニーズが少しは見えてくるでしょう。

業務の観点だけではなく、業種の観点からも見ていくとよいです。たとえば「5S」というものがあります。これは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字の5つのSを示しているが、製造業では当たり前に実行されている管理手法です。しかしその他の業種ではこの日本にあってもまだまだの感があります。特に医療関係では悲惨な状況と聞いています。もし皆さんの中で5Sに携わってきた人ならば、他業種でそれを導入支援するビジネスは「アリ」だと思います。現に私の知人で病院専門の5Sコンサルタントがいます。

私は製造業出身であるため、当たり前のように導入されている「標準化」が物流業ではまだまだ導入されておらず、その支援を行っています。このように、自分の所属する業界では当たり前のことが、他業界ではまったく着手できていない要素がたくさんあるということを知っておいていただきたいです。

――地域の観点も重要なのでしょうか。

はい。今まで日本で仕事をしてきた人たちにとって当然の技術が、他国ではまだまだというケースも数多く見受けられます。もし皆さんが現業系の仕事をしてきたとしたらここに大きなチャンスがあります。海外では日本の技術を求めている。設計開発といった技術だけではなく、「現場管理」技術も同様なのです。製造業で退職になった現業の方が、東南アジアで現場指導を実施することで、現役当時を大きく上回る収入を得ているケースも多々存在します。仕事の範囲は日本だけではないことは事実です。私も活動のフィールドを海外にも広げるために、改めて語学を勉強しようと思っています。

これでも自分には仕事が無いのでは、と感じられるでしょうか。努力無しに仕事が入ってくるほど甘くないのは事実でしょう。かといって視野を広げればニーズは山のようにある。少しは自信を持って起業を考えてみましょう。キーワードは「今の延長線上」、「マイナー業務」、「他業界」、「海外」です。特に社内で地位の低い部署でくすぶっているあなたにとっては「チャンスは無限大」、人生大逆転は考え方次第です。

――読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。

皆さんには夢があると思います。それを実現することで人生はより有意義になっていくことでしょう。そして「今」はその夢に向けての途上のどのあたりに位置するのでしょうか。よく言われることだが、明日死ぬとしたら後悔の無い毎日を過ごせているかどうか考えてみるとよいです。特に仕事面で充実しているかどうか。1日の時間の半分は仕事関係に割かれていると思われます。この時間が充実しているかどうかは人生自体の充実度と密接な関係にあります。

今サラリーマンをやっているとしたら本当に充実した日々を送っているでしょうか。私はサラリーマン自体を否定するつもりはありません。何せ31年間もサラリーマンをやってきた自分がいるわけだからです。ただしそのあり方に疑問を抱いたために独立起業しただけのことです。皆さんもこの記事を読まれているということは、サラリーマンにとどまらず、自分で何かをやりたいと考えているからでしょう。仕事における「夢」をお持ちだと思います。私は仮にサラリーマンで終わっていたらきっと後悔していたと思います。

――お金について、お話しいただけますでしょうか。

はい、では少し「お金」について少し考えてみましょう。起業する意義は人それぞれだが、「お金」についてはその中でも重要事項であることに違いありません。皆さんの中にはお読みになった方もいらっしゃると思うが、ロバートキヨサキ氏の「金持ち父さん 貧乏父さん」という有名な本があります。この本の中に仕事を4つのカテゴリーに分けたクワドラント(図3)という概念があります。

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その4つとは「従業員」「自営業者」「ビジネスオーナー」「投資家」です。私たちはこのいずれかに属しているが、もし「金持ち」になりたいのであれば、「ビジネスオーナー」か「投資家」に属する必要があるということが論じられています。私は「自営業者」に属するが、まず「従業員」から一歩ステップアップしたレベルということになります。夢は個人個人で異なるため、あまりこのクワドラントにこだわる必要はないかもしれません。まず小さく自営業者から始めることも手です。もちろん、最初から法人としてスタートしても構いません。ただし一つだけ言えることは、せっかく起業するのであれば、会社員時代の収入を上回ることがファーストステップだと思います。これができれば家族を安心させることもできるのだから。

「自由」、これは起業にあたってのキーワードになります。一方で「責任」、これも同等以上に重要です。自由にできるということは、自分の行為にすべての責任がかかってきます。それでもやはり起業には魅力があります。会社ではできなかった大きな仕事ができるかもしれません。多くの人に喜んでもらうこともあるでしょう。いろいろな人から頼られます。多分やりがいは大いに感じることだと思います。そしてそれに応えていくためにさらに自らを鍛え上げ、成長していきます。ある意味でスポーツに似ているところがあります。

――最後にこれだけはお伝えしたいこと、をお聞かせください。

それは「願いは必ず実現する」ということです。今の自分をつくっているのは過去の自分の行為です。これは紛れもない事実。ということは、将来の自分をつくるのは今の自分の行為だということになります。私も56歳。この事実は今までの自身の経験値から言えることだが、どうやら自然の法則でもあるらしい。皆さんは今まで起業に向けていろいろと考え、さまざまな準備をしてきたかもしれません。そうだとすればかなりの確率で起業は成功するでしょう。まだ準備が不足しているのであれば今からやればいいだけの話です。

成功を考えていれば時間がかかるか否かはあるにせよ、成功するしかないのです。ネガティブ思考は一掃しましょう。そうすればあなたの起業は必ず成功することは間違いありません。さあ、かごから飛び出し大空をはばたいて行こう!

<プロフィール>

仙石惠一(せんごく・けいいち)

物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。

1982年大手自動車会社入社。

生産管理、物流管理、購買管理を担当。

物流IEとして物流効率化企画業務、新工場物流企画業務に携わる。

物流購買担当者として調達物流改革を実施。ジャストインタイム調達と大幅物流コスト削減を実現。

2005年から3年間、中国に駐在。現地物流会社改善指導実施。

荷主会社対象の物流効率化や物流会社対象の荷主獲得手法などをテーマに講演多数。

日刊工業新聞、月刊工場管理、月刊プレス技術、流通ネットワーキングなど連載多数。

URL:http://www.keinlogi.jp/

メルマガ:http://www.mag2.com/m/0001069860.html

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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