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無料で仕事を取れるか、起業家は営業に注力せよ

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
私がプラス思考で考えるようになってから、ビジネスが加速しました(写真:アフロ)

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

このところ、第二次、第三次の起業ブームが起きています。個人がサラリーパーソンから独立し、士業やコンサルタント、また個人事業主として食っていくとき、どのような困難が待ち受けているのか。私は一人の独立した人間として、他の先人たちに興味を持ちました。彼らはどのように独立して、食えるにいたったのか。それはきっと起業予備軍にも役立つに違いありません。さきほど、「第三次の起業ブーム」と入力しようとしたら、「大惨事」と変換されました。まさに大惨事にならない起業の秘訣とは。公認会計士の李顕史さんにお話を聞きました。

――独立したい人からの相談をうけるそうですが、そのあたりのお話しを聞かせていただけますか。

会社を辞めたい、独立したい。こんな相談が年に2,3件私のもとに舞い込みます。理由を聞くと、今の会社では夢がない、上司が使えない、会社の現状が閉塞している、他にも理由があるでしょうが、ざっとこんなところでしょうか。とりあえず、現状から脱出したいというのが、独立したい本音だと思います。

一方で、「独立1年目から簡単に1千万円を稼ぐ方法」といったセミナーや書籍が巷にあふれています。独立して簡単に1千万円稼ぐ方法があれば、学びたい人は大勢いるでしょう。現実に会社員で年収1千万円以上稼ぐ人はわずか4.2%です(平成26年国税庁民間給与実態調査)。ちなみに女性で年収1千万円を超えている人は1%未満です。簡単に1千万円を稼げるなら、独立する人は大勢いるはずです。

しかし、現に独立している人は少ないです。楽して稼げるは少ないんですが、ただ稼いでいる人がいるのも事実です。国税庁の申告所得税標本調査結果によると、事業所得者は163万人、このうち1千万円以上稼いでいる人が12万5千人もいます。1千万円以上稼いでいる人の比率は7.6%で実は給与所得者よりも比率が高いのです。だから、「独立1年目から簡単に1千万円稼ぐ方法」といったセミナーや書籍は嘘ではないようです。

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なお、税理士として一つ突っ込むと、1千万円以上稼ぐ人は会社設立を勧めています。仮に給料で1千万円稼ぐのと、個人事業用として1千万円稼ぐのでは、税金が115万円も違うからです(当然、個人事業主の方が、税金が高い)。

――営業がもっとも大変なのでしょうか。

そうですね、独立して何が大変かというと、他の人も書いている通り仕事を取ることです。今までは組織に所属していたから、経理部・人事部といったバックオフィス部門にいた人たちも給料がもらえました。営業のように直接には会社の収益に貢献していなくても、会社になくてはならない部門だから、間接的な貢献の対価として給料がもらえるのです。これが独立するとそうはいきません。全部自分でやらなければなりません。同業の競合がいるから競合分析も必要でしょう。だから、一度立ち止まって考えて欲しいのです。

読者は自分自身のことをどのくらい知っているのでしょうか。敵を知ることは難しいが己を知ることはもっと難しいのである(『道をひらく』松下幸之助著より)。松下幸之助はこうも続けています。「己を知らなかったら戦いには必ず敗れる。連戦連敗、その敗因は我が身にありである」。

――独立して思うことについて、ぜひお話しいただけますか。

ベネッセの社長である原田泳幸さんは、テレビ東京「ガイアの夜明け」でこのように発言しています。場面は、経営に苦しむ旅館の社長に対しての回答です。「新規顧客獲得のためにどのようなことをしていますか。既存顧客のためにどのようなことをしていますか」。このように答えています。つまり、何をどのように実行したのか、実行した結果、成功したのか失敗したのかは問わない点に注目して欲しいです。

独立して思うのは、セミナーや勉強会に参加して満足している人が多いことです。知識をインプットすること自体、否定はしません。自分で成功をイチから築くよりも、先行事例をヒントにした成功への近道になるからです。いわばお金で時間を買う感覚です。ところが、起業家向けやセミナーや勉強会で得た知識をそのままにしておく人が大変多いです。そのような人に話を聞いてみると、セミナーや勉強会に参加している自分に満足していている人が非常に多かったです。聞くだけ、参加するだけでお金が入るなら、だれも苦労しません。平たくいうと、PDCAができていないのです。

――ではどのようにすれば良いのでしょうか。

私もよく起業したい人、独立したい人から相談を受ける時に、具体的に何をどのようにすれば良いのか、数字に落としこむことを勧めています。1年でいくら稼ぎたいのか、そのためには経費がいくら必要なのか、利益と経費を足すと売上になります。だから、売上はいくら必要なのかまで、自分の頭で考えてもらうようにしています。つまり、通常の利益計算と逆をいく思考です。

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卵が先か鶏が先かではありませんが、利益から考えるのか、売上から考えるのかでは雲泥の差です。ぜひ利益から考えて欲しいです。独立したら売上をあげる、仕事をとるのが目的でなく利益をあげて生活していくのが目的なはずです。売上思考ではなく、利益思考で考えて欲しいです。

――初仕事を獲得する具体的方法を教えていただけますでしょうか。

はい、手っ取り早く仕事を獲得するのは、紹介です。事実私も仕事の9割が紹介で回っているし、飛び込みは少ないです。しかしコネがないと紹介も受けられません。コネも実績もない人間には仕事を発注しないのが現実です。その中で、実績を作る方法があります。それは無料で仕事を引き受けるのです。無料とはいえ、安かろう・悪かろうでは話になりません。無料で獲得した案件でも一生懸命仕事し、通常料金以上の品質・成果物で納品するのです。無料で仕事を引き受ける際、一つだけ取引先に条件をつけることが重要であります。その条件とは、今回は無料で作業する代わりに、誰か仕事を紹介してください。と伝えるのです。紹介を拒否されれば、御社のことを実績として実名で宣伝として使わせてくださいでも良い。実名でというのがポイントです。宣伝に使ってよいかと伝えて、断られた経験は、私は2社しかありません。ほとんどの取引先は承認してくれます。それがたとえ上場企業であっても、です。

――その無料の最初の1件はどのように見つければよいのでしょうか。

この質問には私はこのように回答をしています。無料でも仕事をみつけられないようであれば、独立は止めた方が良いです。そもそも、仕事を獲得する能力がないのだから。

――最後に李さんがどうやって初仕事を獲得したかご紹介いただけますでしょうか。

私の場合、独立したらいきなり仕事が来ました。人手が足りないから手伝ってくれと言われ、そのままクライアントに半年間常駐することになりました。これが私の初仕事です。常駐している間、営業することもありませんでした。そこで評判を聞きつけた人がまた別の仕事を紹介してくれました。今まで書いてきたことが元も子もないようですが、これが私の現実です。

一方で独立しても仕事を獲得できず、会社員に戻る人もいます。仕事を紹介してもらえるような私のような人と、仕事を紹介してもらえない人との違いは何かを考えました。仕事ができるかどうかは関係なく、むしろ人柄・性格が大きく左右しているのではないだろうか。私も仕事を紹介する時に感じることで、紹介にはリスクがつきまといます。

仕事を紹介する人と一緒に働きたいかどうかが、大きく左右するといっても間違いありません。誰でも嫌いな人と一緒に仕事をしたくはありません。むしろ、仕事も楽しくしたいし、私もそう思っています。そして一緒に仕事をしたいと思われるような性格に変えられると思うし信じています。何事もプラス思考で前を向くことが大切だと感じます。現に私がプラス思考で考えるようになってから、ビジネスが加速しました。

<プロフィール>

李顕史(り・けんじ) 公認会計士 税理士

李総合会計事務所所長。一橋大学商学部卒。公認会計士東京会研修委員会副委員長。東京都大学等委託訓練講座講師。あらた監査法人金融部勤務等を経て、2010年に独立。金融部出身経歴を活かし、経営者にとって、難しいと感じる数字を分かりやすく伝えることに定評がある。また銀行等にもアドバイスを行っている。

事務所URL:http://lee-kaikei.jp/

初出:「会社を辞めたぼくたちは幸せになったのだろうか」の一部を大幅に加筆して掲載

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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