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「同人誌即売会で内定取り消し」という嘘記事が話題に…。コミケ出展経験者に就活時の注意点を聞いてみた

酒井一樹就活SWOT代表

日本国内で「同人誌即売会」といえば、「コミケ」です。wikipediaによると「コミックマーケット準備会が主催する世界最大規模の同人誌即売会」がコミケであると説明されています。毎年2回、8月中旬(夏コミ)と12月下旬(冬コミ)に開催されるもので、数万件の団体が出展、60万人もの個人が参加するそうです。

しかし現在、ある個人ブログで「コミケに参加する学生は就活で内定を取り消される」という嘘記事が掲載され、話題となっています。(しかも、真に受けてしまっている方もいらっしゃるようです)

> 同人誌即売会に行った大学生が、入社予定の会社から内定取り消しされた――こんなブログ記事が話題になっている。 事実の書かれたニュースではなく、いわゆる「釣り」の創作記事だが、事実と勘違いした人もいて「これで内定取り消しっていいのか?」と騒ぎになり、創作と知っている人からは冷ややかな意見が寄せられている。(J-CASTニュースより)

出典:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131219-00000006-jct-ent

周知の事実かもしれませんが、上記記事で言及されているブログは「嘘ブログ」です。しっかり読めば嘘だとわかるものなのですが、タイトルだけを読んだ方は誤解してしまう危険もあります。

そこで今回は、この件についての注意喚起を行うついでに「就活とコミケ」について考察してみたいと思います。

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▼そもそも「コミケ参加者」とは?

「出展側(サークル参加者)」としてコミケに参加しているという社会人の方(以下、Yさん)にインタビューを行い、「コミケに参加する学生が就活で内定を取るにはどうしたらいいか、何に注意すべきか」に迫ってみた。以下、Yさんの話を交えながら、解説をしていきたいと思う。

まずYさんによると、コミケ参加者といっても何パターンかに分類できるという。

・同人誌などを販売する「サークル参加者」

・企業スペースへの出展や取材を行う「企業参加者」

・コスプレを行う「コスプレ参加者」

・ボランティアでイベント運営を行う「スタッフ参加者」

・それ以外の「一般参加者」

などが主な分類であるらしい。

ちなみにコミケは、「コミックマーケットにおいて参加者は対等であり、「お客様」は存在せず、皆がコミックマーケットの参加者」という理念があるそうで、同人誌を売る側も、買う側も、どちらも参加者ということになるとのこと。

今回、Yさんは「サークル参加者」「スタッフ参加者」としての経験をお持ちであるため、主にその立場から「就活でのアピールポイント」などを聞いてみた。

まず始めに「コミケ参加者が就活でアピールすべきこと」を、その次に「コミケ参加者が就活で注意すべきこと」を記載したい。

▼コミケに参加する学生が、就活でアピールできる事は?

まずサークル参加者について聞いてみたところ、「言うまでもなく、サークル参加者は同人誌、同人ソフトなどの制作スキルがアピールできる」とY氏は語る。

一般的に、同人ソフトはWindows上で動くアプリケーションとしてCDやDVDに焼いて販売されている。

当然ながら、C言語やC++、C#などの言語が操れる学生は、ITエンジニアとして採用市場でも強い。「.NET」やVBになると少しツブシは利かなくなるものの、それでも「プログラミング言語を駆使して自らの作品を作り上げた」という経験は評価されやすいだろう。

◎作品づくりは立派な「プロジェクト」

しかし、プログラミングができる人材の市場価値が高いのは当たり前であり、これはコミケ参加者に限った話ではない。

そこでY氏が指摘してくれたのは、「納期通りにプロジェクトを遂行する事」や「コストと売上をバランスさせて、赤字を出さないようにする事」ができていれば、プログラマーではなくとも就活時のアピールポイントになるということだ。

言うまでもなく、コミケに出展するということは、コミケ当日までに「販売する同人誌や同人ソフト」を完成させなければいけない。

同人誌なら、印刷などの工程も考えて、いつまでに発注するか?いつまでに原稿を仕上げるかなど、納期を意識した行動を取らなければならないのである。

それができなければ、せっかく出展する資格を得たとしても、作品をコミケで販売することはできない。納期を意識して行動をすることはビジネスの基本でもあり、十分アピールポイントになるはずである。納期を守るためにどのような工夫・努力をしたかも棚卸ししておくべきだろう。

また、コミケに出展して作品を販売するということは、作品を作る段階ではお金がかかる。印刷費用などの「原価」はもちろん、コミケ参加費・宿泊費・交通費などの「販管費」も無視できない。大半は赤字サークルであると言われているものの、大きな赤字を出し続けていれば、その活動に継続性は無い。その中で黒字化をするための工夫・努力ができていれば、それは就活でも評価に値するだろう。

この中で、「いくら稼いだのか」はあまり重要ではない。もちろん、創意工夫の結果大きな黒字を出していればそれは評価されると思われるが、それよりも大事なのは、どのような事に意識して、自らの活動を「経済的に成立させたか」という点である。

◎ファンとコミュニケーションを取ることもポイント

また、コミケで成功するためには、「サークルホームページやブログ、SNSを活用しての情報発信も欠かせない」という。

就職先の職種によっては、ウェブマーケティングのノウハウは仕事に直結するものであり、直接関係の無い職種であったとしても「顧客とコミュニケーションを取る」という行動は、ビジネスの中で活きる部分があるだろう。

サークルホームページへのアクセスが増えると、ウェブ上で作品を販売したり、広告でマネタイズできる可能性もある。

「何万団体も参加する中で、どうやって自分たちのブースに目を留めてもらうか考える」という経験も実際のビジネスで応用できる可能性がある。そういった情報発信の活動に、目標値を設定しながらコミケ活動をするのも良いだろう。

また、複数名で取り組んでいるのであれば「チームとして1つのものを作り上げた経験」もアピールできる。

▼ボランティアとして参加した場合は?

もう1つ、ボランティア参加についてもY氏に体験談を聞いてみた。

そこで見えてきたのは、「来場者数60万人規模のイベントを、有志で運営しているにも関わらず、それに対して事件・事故の発生が非常に少ない」という事である。

「弁護士、医者など様々な専門家が、生粋のオタクであり、ボランティアとしてコミケに参加している」ということもその要因であるという。しかしそれを抜きにしても、60万人規模のイベント運営が非常に大変なものであることは想像に難くない。

「興味本位で1回参加しただけ」ではあまりアピールポイントにならないかもしれないが、目的意識を持ち、継続的に参加していれば、「その中で自分がボランティアとしてどのような貢献をしたのか、何を自発的に考えたか」を語ることもできるだろう。その経験は十分に就活でアピールして良い内容になるはずである。

なお、あるボランティアスタッフ(弁護士)の方は、「コミケットは表現において自由な場であらなければならない。自由を守る立場を貫いていかなければならない」というコミケの理念に共感し、ボランティアスタッフに加わったと語っている。

http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2012_03/p49.pdf

他のボランティアである医者、弁護士、有名企業の社員なども話す機会があるらしく、社会人と話をしたい学生にとっては有意義な「社会勉強の場」にもなる。

◎アルバイトとして関わるという手も?

なお、ボランティアとは別に「警備のアルバイト」として参加するという関わり方もあるという。

ただし「コミケの警備」と明示して募集されているわけではないそうで、経験者は「警備会社のアルバイトに応募したらコミケの警備に配置された」と語っている。

興味のある方は、「コミケ開催日のビッグサイトでの警備アルバイト」を探してみるのも良いかもしれない。(時給は高く、夜勤を含めて1日15000〜20000円程度の収入になることもあるとか)

▼注意すべきことは?

また、Y氏に注意点も聞いてみた。すると「特に面接官が女性の場合ですが、内容によってはドン引きされる事がある」という。

熱い想いを持っているがゆえに、熱く語りすぎてしまう方もいらっしゃるようだが、「相手がオタク文化に対してどの程度免疫があるか?」という事も探りながら、出すべき情報を加減するべきなのかもしれない。

自分をアピールするための面接であって、好きなキャラをアピールするための面接ではないということには十分注意して欲しい。

また、件の嘘記事では「著作権への配慮」が問題とされていた。

実際、面接において「著作権についてはどう思うの?」と意見を求められる可能性はゼロではない。

これは法律違反だとか、そういった否定的な意味ではなく、純粋に興味として意見を求められる可能性もあるという事だ。

そういった場合の自分なりの見解は用意しておいた方がいいかもしれない。

「自分なりの意見を、論理的に説明できるかどうか」は、社会に出てから常に必要となるスキルだからである。

編集部では、インタビューに応じてくれたY氏に「二次創作の同人誌」についての意見も聞いてみた。

「実際商業誌でプロになっている方も、最初は二次創作の同人誌からスタートした方が多い。そういった方を育てる場にもなっており、業界全体としてはプラスになっている。」

(なお、念のため書いておくと、コミケは二次創作の同人誌ばかりが売られているわけではなく、一次創作物も多い)

「コミケで話題にならないような作品はビジネスとしても成功しない」といい、二次創作の同人誌とオリジナルは「持ちつ持たれつ」の関係になっているという。

また、Y氏によると「主要な出版社のグループ会社はほとんどコミケに参加している」と言う。

(一例として、出版社の角川書店・電撃(メディアファクトリー/角川書店)・ガガガ文庫(小学館)、講談社ラノベ文庫(講談社)、アニメを放映するフジテレビ、TBSなど)

漫画家の赤松健氏は、自身のブログで下記のような意見を、専門家の意見とともに記載している。

参考:「二次創作同人”小説”」が合法って本当?

http://kenakamatsu.tumblr.com/post/55869087710

もちろん、版権元が「二次創作物を作らないで」と言っている場合、配慮は必要であろう。例えば、ウォルトディズニー関連のキャラクターは「取り扱い注意」であるとして有名だ。

※そんなディズニーが今年初めてコミケに企業参加するというニュースが最近話題になっている

http://animeanime.jp/article/2013/10/25/16053.html

また、「まどマギ」「けいおん」などの著作権を持つ芳文社が「2次創作を禁止した」とネット上で話題になったことがある。

しかしこれも真相は、

あくまで「悪質な著作権侵害」から作者を守るためのもので、健全なファン活動としての二次創作を規制する目的はない

出典:http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1303/21/news147.html

と語られている。

何を持って悪質かという線引きは専門家でも難しいが、少なくとも件の嘘記事のように「コミケに参加しただけで内定取り消しになる」というような事はまず無いと言って良いだろう。

今冬のコミケに参加される方も、安心して参加していただければと思う。

出典サークル活動に関する就活記事まとめ

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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