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テレビ番組の視聴率をニュースで扱うのは不毛だ〜Twitterの声が作り手の糧になる〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:アフロ)

視聴率を視聴者が気にすることには意味がない

最近、視聴率をネタにした記事をよく見る。今クールのドラマがはじまってからも、数多く見受けられた。

→「とと姉ちゃん」平均視聴率24・6%記録 また過去最高更新

→フジ日9「OUR HOUSE」第2話視聴率は5・0%に微増

→松潤主演ドラマ「99.9」の第2話が19・1%と高視聴率 前週より3・6%UP

→ 春の「火曜10時」ドラマ対決、第2RはTBS系「重版出来!」が巻き返し

自分の好きな番組の視聴率が高いとうれしいし、逆に低いと残念な気持ちになる。記事にする側もそんな前提で書いているのだろう。だがいま、テレビ局や番組関係者はともかく、視聴者が視聴率を気にすることにはほとんど意味がなくなっている、と私は感じている。視聴率はもはや”自分と同じような人の感覚”を必ずしも反映していないからだ。

その前に視聴率の”基礎知識”を紹介しておきたい。まず、記事によく取りあげられる視聴率はほとんど関東の数字だ。視聴率は地域ごとに測定されており、関西には関西の、福岡や札幌などの各地域にはそれぞれの視聴率が存在する。このところ地域による数字の差は広がっているようでもある。だから「○○○の視聴率が10%を切った!」という記事を見て、それが日本中に当てはまると思わないほうがいい。

さらに視聴率には”誤差”がある。これは視聴率を測定するビデオリサーチ社がきちんと説明している。番組の視聴率が10%だと2.4%の誤差が生じるそうだ。詳しくはこちらを読んでほしい。

→ビデオリサーチ社WEBページ「標本誤差」

だから10%の視聴率は実は12%かもしれないし8%かもしれないのだ。この誤差についてはテレビ局や関係者は知っているはずだ。知っていても、1%に一喜一憂するのが人間というものだろうが。

そして”基礎知識”で重要なのが「代表性」だ。視聴率なんてネットで調査すれば簡単じゃないか。そう思う人は多いだろう。でもことはそう単純ではない。日本の人口分布をきちんと反映させたサンプルで調査をしないと意味がないのだ。そのことを「代表性」と言い、ビデオリサーチ社はこの「代表性」を担保した調査を行うので業界標準となっている。ネットで安易に調査しても若い層に偏った結果になりがちだ。世帯視聴率はそれぞれのテレビ番組が「関東ではこれくらい視聴された」と言える数字でなければならない。サンプルの抽出がきちんとしていないと結果がブレてしまうのだ。

人口分布の偏りを視聴率は反映している

視聴率は日本の人口分布をきちんと反映している。広告取引に使うためには、それが重要だ。でもだからこそ、視聴者が気にしても仕方ないのではないか、と私は言いたいのだ。

人口ピラミッドの出典は総務省統計局の「人口推計」
人口ピラミッドの出典は総務省統計局の「人口推計」

視聴率の区分は、性別(M=男性、F=女性)と世代(20-34才=1、35才-49才=2、50才以上=3)でとらえられる。F1なら若い女性、M3は年配の男性、ということだ。この区分を、総務省統計局のWEBサイトにある人口ピラミッドに重ね合わせてみたのが上の図だ。

50才以上が44%もいる。若者(F1、M1)は17%しかいない。50才以上の半分が見たら44%÷2=22%になるが、若者の半分が見ても17%÷2=8.5%にしかならない。

さらに、男性より女性のほうが在宅率が高くテレビをよく見る傾向がある。だから視聴率はF3に大きく左右されてしまう。私はこれを「テレビのおばさん化」とあるところで書いたが、視聴率が大きく動く時はF3が移動した時なのだ。いまや視聴率を支配しているのは”おばさん”たちだ。

ここであらためて言いたいのだが、視聴率はあくまで広告取引に使うために存在している。決して番組そのものの評価ではないのだ。それでも、ひと昔前なら視聴率は人気のバロメーターだといえたかもしれない。人口ピラミッドがいまほどいびつでないころならそう言えただろう。

だがいまや、上のような状態だ。そのことをよく認識したうえで視聴率に関する記事を読んだほうがいいと思う。そうすると読み方も違ってくるだろうし、視聴者まで数字に一喜一憂する必要がないことにも気づいてもらえると思う。一喜一憂するのはテレビ関係者に任せて、自分が気に入ったならそれでいいと思えばいい。

あなたの思いはソーシャルメディアで届ければいい

そうは言っても、せっかく気に入った番組の視聴率が悪いのはいい気分ではないだろう。また、出演者や制作者はつらいのではないか、と心配になるかもしれない。だったら、Twitterでつぶやけばいい。「今回も面白かった!」「○○○さんの演技サイコー!」「毎回脚本が練れてるなあ!」よいと思ったことをつぶやけばいいと思う。

というのは、制作者は思いのほかTwitterを見ているのだ。

フジテレビの番組に『新・週刊フジテレビ批評』という、テレビについて語る番組がある。今年1月の放送で、ヒットを飛ばす人気脚本家三人の鼎談の回があった。非常に驚いたのだが、あれだけヒットを生み出す時代の寵児たちが、いま視聴率が取りにくいことに悩んでいるのだ。そして、Twitterの声を非常に気にしているのだと言う。

→大ヒット脚本家3人「ドラマ放談」

視聴率しか指標がなく、でもそれが取りにくいと、別の評価軸を探す。Twitterは視聴者の生の声が聞けてよいのだろう。クリエイターはどれだけヒットメイカーになってもやっぱり評価を気にするのだ。

だからおそらく、あなたが番組についてつぶやけば作り手たちに届く。その声が糧になり、脚本家たちは頑張るかもしれない。視聴率による評価が難しくなったこの時代に、視聴者の声が直接番組づくりにプラスになるなら、それはむしろ素晴らしいことではないか。

いまTwitterを分析していろいろ役立てようという動きがある。そのうち、視聴率とは別に本当に番組評価のもとになるかもしれない。そんな可能性も視野に、自分の好きな番組について視聴率なんか気にせず、積極的につぶやくといいと思う。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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