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自分で自分を炎上させてしまった舛添都知事が挽回する方法

境治コピーライター/メディアコンサルタント
選挙で掲げたスローガンは「東京世界一」何で世界一なのだろう(写真:ロイター/アフロ)

「NEWS23」で舛添都知事はすべてを事務方のせいにした

5月9日の夜、なんとなくテレビを見ていたら、TBSの「NEWS23」に舛添都知事が出演していた。豪華な海外出張や、週末の公用車使用が問題になっているので、その釈明だろうと思った。私はこの問題にさほど興味もなく、まあうまいこと謝罪するのだろうなとぼーっと見続けた。キャスターはあれこれとつっこむ。かなり具体的に、一泊20万円近くの宿泊費は高すぎでは、とか、観光案内に500万円はいかがなものか、などと数字を出していく。あらためて、あまりの高さに私は驚いた。

だがさらに驚いたことに、舛添都知事はほとんどすべてを事務方のせいにした。自分は認識していなかったが事務方がやったこと。私から注意しておく。え?謝罪しないの?「反省している」というような言い方は何度か出たが、ついに最後まで「ごめんなさい」のひと言もなかった。むしろ、事務方はよくないのでこれからあらためさせる、と自分はまったく悪くないという姿勢を崩さない。

これはひどい。さほど気に留めてなかった私でさえ、都民として怒りが湧いてきた。あまつさえ「かかった経費は良い仕事をして返します」との言い分には、いやそういう問題じゃないだろう!と声に出して言ってしまった。良い仕事をすれば経費をかけても良いはずだ、という論理は、公務に就く立場としてまったくおかしいと思う。ファーストクラスの飛行機に乗ることについては、到着したらすぐ仕事するためには必要だと、最後まで言っていた。そのまま受けとめると、今後もファーストクラスの利用をやめないのだろうか?

案の定、猛烈な炎上。わかりやすい分析結果

これはさぞかし炎上してるだろうなと直感した。「みるもん」というアプリがあって、テレビ番組のツイートの盛り上がりがチャンネルごとに色でわかる。「NEWS23」を見てみると、案の定まっかっかだった。

こういう時、Yahoo!ユーザーには簡易に分析する方法がある。検索窓に「舛添」と入れ、検索ボタンではなく検索窓の上にある「リアルタイム」の文字を押す。するとツイッターで「舛添」を検索した結果が出てくる。しかも、リアルタイムにどんどん流れていく。ひとつひとつを読んでいくと、どれもこれも怒りのツイートだ。

「舛添」は珍しい名字なので、出てくるツイートはほぼまちがいなく、舛添都知事のことだ。当然ながら次々にツイートが出てきて速い速度で流れていく。

さらに画面の右手には簡易な分析結果がいくつか出てくる。まず一番上には、24時間以内の「舛添」ツイートの件数が折れ線グラフで表示される。放送一時間後では、こんな感じだった。

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これを見ると、この放送でいかに「舛添」ツイートが爆発的に増えたかわかるだろう。シーンとしていたのに、寝た子を起こしたかのようだ。

グラフ表示は時間の区切り方で3パターンある。この一週間でどうだったかで見ると、こんな感じだ。

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連休中、せっかくみんなが忘れていたのに、わざわざテレビに出て自分で自分に火をつけてしまったことがよくわかる。

もうひとつ、一カ月間の表示もある。

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連休前、4月29日に大きな山がある。これは27日発売の週刊文春に公用車での湯河原通いが報じられ、それをテレビが一斉に報じた結果だ。例によって、文春が火をつけてテレビが増幅したのは今年に入っての様々な事件と同様の動きだ。

さらに別の分析結果も表示されている。ツイートの内容を分析してどんな感情が多いのかを見せてくれるのだ。

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見事にみんな怒っている。「ひどい」「困る」「ふざけるな」というワードが多いようだ。ツイッターには人びとの気持ちがわかりやすく率直に表れるのだ。

そして極め付けは、これだ。

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私が解説するまでもなかった。ツイートに多いのは「事務方」。怒りが多いことと併せてとらえると、事務方のせいにしたことに大勢が怒っている、と言っていいだろう。

ツイートの分析で、ここまでわかりやすくはっきりした結果が出てくることもそうそうない。もっと専門的なツールでないと見えないことも多いのだが、このケースでは、「舛添」が珍しい名字だったことが大きい。そして何より、誰がどう見ても「事務方のせいにしてひどい」と感じてしまうコメントだったということだ。自分の立場を悪くするためにわざわざ出演してしまったのだ。かなりみっともない。

待機児童最多自治体の長として、保育園問題への取組みで挽回を

舛添都知事は、思い返せば「東京世界一」のスローガンで当選している。すっかり忘れてしまっていたが、このスローガンをどう実行してきたのだろう。そもそもこのスローガンはわかりにくいし、どこかバブル再燃への願いにも感じられて私は好きになれなかった。当選したのははっきり言って、反原発候補も出てきて東京で反原発の意味もわかりにくく、誰が何でどう争っているのかよくわからないうちに、政党公認を多くとった舛添氏が当選した印象だった。

でもさらに前を思い返すと、舛添要一氏は国政で長らく厚生労働大臣を務め、社保庁改革や薬害肝炎への毅然たる対処でけっこう功績があった。その頃は、評価もされていたと思う。そんな功績も、すっかり忘却の彼方に追いやられるほど、この二週間で名声が地に落ちてしまった。今回のテレビ出演はそれを決定的なものにした。

だがまだ、挽回できるはずだ。スローガンになぞらえば、東京はいま世界一保育園が不足している。これを逆転させ、世界一子育てがしやすい都市にしてほしい。これまであまりそういう風に言われてこなかったが、都内の保育園不足、保育士不足に先頭に立って対処すべき立場だったはずだ。市川市は千葉県だから管轄外だが、同様の反対運動が起きている町は都内にたくさんある。政治家の問題も浮上している。

保育園は迷惑か 反対運動に元防衛庁長官、スリーエフ社長の名も(週刊朝日・4月20日)

ここに上がっている町で、元政治家が反対運動に加わっているのなら、元自民党の政治家として解決に動いてはどうだろう。他の町でも、反対運動の調停を都知事自ら動いてはどうか。反対派は行政と対立するので、区の職員ではなかなか説得できないようだ。都知事としてまず反対派の意見をよく聞いてあげたうえで、実際にどうすればいいか働きかけるべきではないか。それが自治体の長というものだろう。

経費を使っても良い仕事をすればいいと本人は言っていた。だったらいまや東京都最大の問題として表面化した保育園不足を解決し、良い仕事を成し遂げてほしい。そうなれば「東京世界一」の公約も果たせると言えるのではないだろうか。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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