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「グダグダ紅白」がツイッターでもっとも盛り上がったのは「ゴジラマイク」だった

境治コピーライター/メディアコンサルタント
数値はデータセクション社「TV Insight」より

紅白のグダグダ演出は確信犯だった?

2016年大晦日の「第67回NHK紅白歌合戦」は今さらここで説明するまでもないくらい、「グダグダ」だったと多くの人が言っている。試しにYahoo!で「グダグダ 紅白」と検索すると838,000件もの検索結果が出てきた。ここまで同じ形容詞が使われることも珍しいと思うが、まさに「グダグダ」は今回の紅白にぴったりの言葉だったと思う。

これについて批判的な記事が数多く見られるが、中にはツッコミどころ満載の紅白にすることでツイッターで話題にさせ視聴率増を狙った確信犯の演出だったのでは?との説もあるようだ。実際、前年と比べて視聴率はわずかながら上がっている。確かに、ツイッターを眺めながらテレビを視聴するスタイルはかなりの人がやっているし、大晦日は日本テレビ「笑ってはいけない」と紅白の間を行ったり来たりする視聴が一定数の人びとには当たり前になっているのではないか。だとしたら、その「行ったり来たり」のきっかけとしてツイッターが機能しそうだ。それを見込んだ演出だというのもあながち的外れでもないかもしれない。

そこでこの記事では、NHKにそういう意図があったかは置いといて、今回の紅白がツイッターでどれだけ盛り上がったかを検証していきたい。

テレビのツイッター分析記事ではいつもデータ提供してもらうデータセクション社の「TV Insight」というツールがある。番組ごとにツイッター分析ができる優れもので、業界向けツールなのだが、これを使って調べてみよう。

昨年より明らかに増えているツイート数

上の画像をもう一度見てもらおう。2015年と2016年の紅白について、放送中のツイートを対比した表だ。一目瞭然だが、ツイートをした人、ツイート数そのもの、両方ともに大きく増えている。これを見ると、意図的だったかどうかはともかく、今回の紅白の構成や演出は明らかにツイッターで盛り上がったのだとわかる。

ちなみに日本のアクティブユーザー数は増加傾向で、ツイッター社によれば2015年12月の月間利用者数が3500万人だったのに対し、2016年9月には4000万人に増えているそうだ。ただ5割とか7割とかのレベルではないので、やはり前回よりも「盛り上がった」結果の数字だと見ていいだろう。

後半で畳み掛けるように盛り上がりの波が

データセクション社の「TV Insight」では、分ごとのツイッターの盛り上がりをグラフ化して見ることができる。そこで、今回の紅白の「盛り上がりポイント」を細かに確認してみたい。

まず前半のグラフがこれだ。

2016年紅白ツイッターグラフ(19時台)
2016年紅白ツイッターグラフ(19時台)
2016年紅白ツイッターグラフ(20時台)
2016年紅白ツイッターグラフ(20時台)

始まってしばらくは無風状態。「欅坂46」や「くまモン」「けん玉」などで盛り上がり、紅白らしく歌う場面を盛り上げる流れだ。図の中の「F」の部分は「ピコ太郎」の登場で盛り上がった部分。そのままニュースに突入して前半が終了している。

これがニュース後の後半が始まった21時台になると様相が一変する。

2016年紅白ツイッターグラフ(21時台)
2016年紅白ツイッターグラフ(21時台)

ツイートの山がたくさん立っている。「I」の山は「シン・ゴジラ」が上陸し長谷川博己演じる矢口蘭堂が会見するシーンだ。この辺りから紅白らしからぬ空気が俄然漂っていく。

2016年紅白ツイッターグラフ(22時以降)
2016年紅白ツイッターグラフ(22時以降)

22時以降は山がさらに増え、高くなっていく。「まさかのマクロス」「硝子の少年」などと歌についてのツイートと、「ゴジラ撃退」「パイプオルガン」などのツイートが入り混じり、10時台半ばの「恋ダンス」で一旦ピークを迎える。そしてもっとも山が盛り上がったのは22時50分、武田アナの「ゴジラマイク」だった。

「武田アナが壊れた!!!」「武田さん可愛いすぎる」「武田アナ何やってんすか」などのツイートが一気に飛び交う。

こうして見ていくと、紅白らしからぬ演出を視聴者は楽しんでいるようだ。だが合間合間に呆れ気味のツイートも散見された。特に最後の結果に戸惑ったツイートは多かった。視聴者と会場の投票では白組が圧勝だったのに、審査員の投票で紅組の優勝が決まったのだ。司会の二人が球を投げるタイミングが合ってないのを突っ込むツイートも多かった。この最後の印象は大きかったのではないだろうか。

ということで、いろいろ投げ込んだ「ネタ」がツイッターでの反応を大きく広げたのは間違いない。特に武田アナの「ゴジラマイク!」は日頃のニュースとのギャップが驚きを呼んで最大の盛り上がりとなった。グダグダ紅白がツイッターを盛り上げたのは間違いないといって良さそうだ。

視聴率につながったかは確認できず

では一部で言われているように、ツイッターで盛り上がったことが視聴率増につながったのだろうか。ツイッターのメイン層は若者なので、その層の視聴率が上がっていればそうだと言えるかもしれない。だが、筆者が得た情報によると若者層のデータが増えた形跡はない。グダグダ演出が視聴率を上げたかどうかは、確認できないというのが結論だ。

筆者の個人的な印象だが、次から次へとネタが繰り出されるせわしなさの方が際立ったと思う。一つ一つの歌をじっくり聴かせ、演出も歌の見せ方を凝る方がよかったのではないだろうか。個人的には、桐谷健太の「海の声」にまつわるエピソードや椎名林檎の「青春の瞬き-FROM NEO TOKYO」の先進的な演出はじっくり堪能できてよかった。

さてそれとは別に、裏番組である日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!大晦日年越しSP」、いわゆる「笑ってはいけない」についてもツイート数を見てみよう。

笑ってはいけないツイート数比較
笑ってはいけないツイート数比較

ツイートした人数やツイート数が2割増えている。そして注目したいのは、一人当たりツイート数が前年とさほど変わらない点だ。これは筆者が解釈するに、それだけ熱心に見てツイートする人が2割増えたということだと思う。

紅白の場合は、一人当たりツイート数が1割減った。つまり紅白は広く薄く見られたのに対し、「笑ってはいけない」の方は熱心な視聴が増えていると言えるのではないだろうか。マンネリという人もいるようだが、筆者は大物俳優・西岡徳馬が「乳首ドリル」を完コピした場面に大笑いしながら感動すら覚えた。一つの路線を突き進む番組作りがファンを増やしているのだと私は感じている。

NHKの紅白が、来年どうなるかはわからないが、この「笑ってはいけない」の姿勢との違いは考えるべき点ではないかと思う。いずれにせよ、今年の大晦日も今から楽しみだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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