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ドラマ「カルテット」は、ソーシャルと録画があるからこそ何度見ても楽しめる

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「カルテット」最終回の日に「シン・ゴジラ」Blu-rayが届いた意味とは?

ツイッターで盛り上がった「カルテット」最終回

この21日に最終回を迎えたTBS「カルテット」。これまでの様子は前回の記事で解説したが、最終回もツイッターで大いに盛り上がった。

→前回記事「消費するのか、咀嚼するのか。TBS「カルテット」が示すドラマの新しい楽しみ方。」

前の週に終了した「嘘の戦争」と比べると、視聴率は低かったわりにツイッターでいかに盛り上がったかわかる。「嘘の戦争」のツイッターもこれはこれでかなり盛り上がった方なので、「カルテット」がいかにバズったかというものだ。

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最終回はどこで盛り上がったか、データセクション社の分析ツール「TV insight」で可視化してみた。番組終了後も深読み大会が続いている様子を11時20分まで見てもらおう。

画像はTV insight 画面
画像はTV insight 画面

盛り上がっていたA〜Fのポイントは・・・

A:抱き合う真紀とすずめを、さらに後ろからハグする家森

B:コンサートを真紀が提案。それぞれ名前が世間に知れてしまった中、家森は”Vシネ俳優”を持ち出す

C:想定外の、ありす登場。人生チョロかった!

D:第二の唐揚げ問題。サンキュー、パセリ

E:エンディング。終了に悲鳴をあげるファンたち。

F:放送後も余韻に浸ったり、「帽子の女」の謎を語り合ったり盛り上がり続ける

といったものだった。

おそらく今日(22日)も、ツイッターで「#カルテット」を検索すると一日中盛り上がり続けていることだろう。

いよいよ繰り広げられる”深読み大会”

これも前回の記事で書いたが、このドラマほど深読みツイートが飛び交ったこともないだろう。最終回ももちろん、いよいよ活発に深読み大会が展開された。

まず紹介したいのが、深読みとはちょっと違うがこのドラマならではの発見だ。

第1話では結成したばかりのカルテットがショッピングセンターで演奏し「ドラクエのテーマ」を奏で、たまたま居た中学生二人が反応する場面がある。セリフもなく、普通は忘れてしまいそうなシーンだ。

最終回のコンサートでも「ドラクエのテーマ」が演奏されると、会場にやはり中学生がいて喜んでいる。それが同じ男の子たちだった。コンサートを知って来てくれたのだ。

実は私は、最終回が終わった後も名残惜しくて録画してある第1話を見直していてたまたま発見したのだった。このツイート主は、私のようにわざわざ第1話を見返さなくても覚えていたのだろう。恐れ入った。

そしてこのことは、二重に意味を持つ。ある事件の発覚で世間の視線にさらされたカルテットがあえてコンサートを開く。興味本位で集まる人の中にも、きっと音楽そのものが届く人がいるはずだ。そんな思いで開いたコンサートだった。案の定、途中で帰ってしまう人も大勢いたが、残って聞き入っていた中に、くだんの中学生がいたのだ。

「きっと届く人もいる」というメッセージが複合的に響いてくる。カルテットの音楽が中学生に届いたのと同じように、視聴者の中には中学生に気づいた人もいた。きっと届く人もいる、というメッセージをドラマの制作者たちが込めたであろう小さな繋がりが、ちゃんと届いたのだ。そこに気づいた時、私は胸が熱くなった。

諦めずに続けていれば、きっと誰かに届く。このドラマの大きなテーマが見えてくる。

もう一つ紹介したい、まさに深読みツイートがある。コンサートの場面で客席の「野球帽をかぶった女」が一瞬だけ映る。その前の場面に出てきた「手紙の主」であることが匂う。

放送終了後の深読みツイートには「帽子の女は(主題歌を作った)椎名林檎では?」というものがあった。それは違うのではないかと私は思うのだが真相は不明だ。そしてそんなことよりそこに意味を”深読み”した人がいた。

私はソーシャル上で友人たちと「帽子の女=椎名林檎説」を議論していたのだが、その中の一人がこのツイートを教えてくれた。そうか、椎名林檎説も正しいし、このツイートも正しい。そういうことなんだな、と私は思った。深読みは真偽を確認することより、その人なりの楽しみ方があればそれでいいし、その深読みからドラマ以上のメッセージを受け取ってもいいのだ。そんな物語の噛み締め方を、「カルテット」は提示しているのだと思う。

裏側まで咀嚼するのは「シン・ゴジラ」も似ている

さて話が変わるが、「カルテット」最終回と同じ21日に、「シン・ゴジラ」のBlu-rayが届いた。全然関係ないわけだが、私はそこに妙に符合を感じた。

私が注文したのは3枚組の特別版で、本編とは別にプロモーション映像やイベントの時の映像、プリヴィズやVFXなどメイキング映像も豊富に見ることができる。「シン・ゴジラ」も深読みツイートが飛び交ったし、「カルテット」同様、二度三度と噛みしめるように楽しめる。私は劇場で四回鑑賞したが、もっと味わおうと特別版Blu-rayを購入した次第だ。

ところで「カルテット」の公式ツイッターでこんなツイートがあった。ぜひ映像を再生してほしい。

これは第9話で四人が興じる遊びで「スティックボム」というらしい。私もこのドラマで初めて知ったが、第9話放送後に売り切れ続出になったそうだ。

ドラマでは、この映像ではなく、この遊びをみんなで楽しんでいる場面で、すずめがスマートフォンで撮影している姿が出てくる。そのスマホ映像は実際にも撮影されていて、それを公開しているのだ。

この映像に私はそうとうびっくりした。普通、こういう映像はテレビドラマは公開しないものだった。最近TBSをはじめとしてソーシャルを上手に使うドラマは増えているが、このような”内輪の映像”を視聴者に見せるのは一種のご法度だったのではないだろうか。

だがファンとしては見たい。これも「カルテット」というドラマの一部なのだ。「シン・ゴジラ」の特典映像を見たいように、この映像も見たい。それがファン心理というものだし、そういう時代になってきたのだと思う。

ソーシャルと録画の時代に、咀嚼されるドラマは価値を持つ

こうして見ていくと、「シン・ゴジラ」が画期的だったのと同じくらい、「カルテット」は新しい楽しみ方が発見できるコンテンツだと思う。「シン・ゴジラ」で「発生可能上映会」という掟破りなイベントをやったように、「カルテット」も10話ダイジェスト上映会でも映画館でもやれば賑わうに違いない。

そしてそんな噛みしめるような楽しみ方ができるようになったのは、ソーシャルメディアと録画機のおかげだと思う。最終話の中に第一話との繋がりを発見しても、録画がないと確認できない。そんな過去話同士の繋がりを録画機があれば何度でも味わえ、見るたびに違って見えるだろう。そしてそんな複雑な繋がりも、ソーシャルによる共有知で発見できる。

ただ、そんな複雑な物語は視聴率は取りにくい。「一人が何度も楽しめること」は視聴率という指標の前では意味がないのだ。

映画の場合は、何度も楽しんでもらえばその分、興行収入が増える。「シン・ゴジラ」や「君の名は。」のヒットには、少なからずこの複数回鑑賞が寄与したはずだ。

もしこのような"咀嚼型"のドラマにビジネス価値を与えるなら、見逃し配信を一週間に限定しないほうがいい。ソーシャルでの盛り上がりに気づいても、全話が見れないと「第6話のこの場面は第2話に伏線があった!」という発見を確認できない。

もし「カルテット」の見逃し配信を1クール分ずっとやっていれば、かなり前の回を何度も何度も見る人が続出しただろう。その分、CM視聴にカウントされるのだから、ビジネス機会が膨らむ。「シン・ゴジラ」が複数回鑑賞で興行収入をあげたのと同じ効果が予想できる。

見逃し配信は2015年秋にTVerが立ち上がってからようやく最近認知されてきたが、そろそろ次の展開を考えるべき時ではないだろうか。そのほうが「新しい楽しみ方」には向いていると思うのだが。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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