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またもやオスカーを逃したレオナルド・ディカプリオ。彼はアカデミーに嫌われているのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

今年のアカデミー賞で、レオナルド・ディカプリオがまたもや受賞を逃した。過去に5回ノミネートされていながら、受賞歴は一度もない。

「タイタニック」が作品賞に輝いた年には、共演のケイト・ウィンスレットが主演女優部門にノミネートされたのに、ディカプリオは無視されている。そんなこともあってか、以前から日本のメディア関係者には「ディカプリオはアカデミーに嫌われている」と信じる人が多い。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」での演技は、彼のキャリアの中でも最高級のものだっただけに、今回、マシュー・マコノヒーに賞をさらわれたことで、さらにその確信は強まったかもしれない。

結論から言うと、ディカプリオは、決してアカデミーに嫌われてなどいない。まだ39歳にしてすでに5回もノミネートされていることが、何よりの証拠。年に大量の映画が製作される中で、候補に上がるのは、それぞれの部門でたった5人。圧倒的な数のアカデミー会員に演技を認められなければ絶対にくぐり抜けられない難関だ。「でも、毎回受賞を逃しているではないか」と言うかもしれないが、ディカプリオの最高のコラボレーターである巨匠マーティン・スコセッシは、「レイジング・ブル」(80年)で初めて監督部門にノミネートされたのに、2007年に「ディパーテッド」で受賞するまで、一度も実際に賞を手にしてはいない。アル・パチーノも、初めてノミネートされたのは「ゴッドファーザー」(72年)だが、受賞に至ったのは「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」(92年)だった。その間、7回も賞を逃しており、その後は一度もノミネートされていない。

何度もオスカーを取っているイメージがあるロバート・デ・ニーロも、実は受賞は2回だけ。最後に受賞したのは「レイジング・ブル」で、33年前だ。18回のオスカーノミネーションを誇るメリル・ストリープも、受賞したのはそのうち3回。本人もジョークにしているように、史上最高のノミネーション記録をもつと同時に、逃した回数も誰にも負けないのである。ウィンスレットもノミネート6回目にしてようやく受賞したし、今年、主演女優部門にノミネートされたエイミー・アダムスも、これが5回目のノミネーションながら、受賞歴は一度もない。

こういった例がたくさんあるにも関わらず、ことディカプリオに関してだけ「なぜ賞をもらえないのか」とみんながやきもきするのは、彼の受賞を願う人がそれだけ多いということだろう。賞には、運と勢いが大きく関わってくる。今年受賞したマコノヒーは、かつてロマンチックコメディや娯楽アクション映画専門で批評家から見向きもされなかったのに、2011年を境に大きくキャリア転換し、業界を驚かせていた。「ダラス・バイヤーズクラブ」での主演男優賞受賞の背後には、昨年アメリカ公開された「Mud-マッド-」や、出演時間は短いものの印象に残るパフォーマンスを見せた「ウルフ・オブ・ウォールストリート」など、いろいろな積み重なりがあると思われる。今年は、マコノヒーの年だったのだ。ディカプリオの年が、もしもこの後もずっと来なかったとしても、アカデミー会員がそれをちゃんとわかっていて、回してきてくれるはず。「セント・オブ・ウーマン」のパチーノは、果たして「ゴッドファーザー」や「セルピコ」より良かったか?スコセッシの最高傑作を挙げる時、誰もが「ディパーテッド」を挙げるだろうか?

心配無用、ディカプリオは、いつかきっとオスカーを取る。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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