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離婚すらおしゃれにしてしまう、グウィネス・パルトロウのブランド戦略

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

グウィネス・パルトロウが、夫クリス・マーティンとの破局を発表した。破局のニュースそのものと同じくらい、いや、それ以上に話題を呼んだのが、その言い回しだ。

パルトロウは、破局を“コンシャス・アンカップリング(conscious uncoupling)”と表現。日本語に訳するならば、意識的にカップルをやめる、とでもなるだろうか。“離婚”“別居”という言葉には、悲劇的でどろどろしたイメージがつきまとうが、コンシャス・アンカップリングと言われると、さらりとした感じがする。アメリカ人にとっても耳に新しい言葉で、そこもまた、大人の女性のトレンドセッターを担ってきたパルトロウらしい。この言葉を考え出したのはパルトロウではなく、キャサリン・ウッドワード・トーマスというセラピストなのだが、今後しばらく、少なくともアメリカでは、流行語としてあちこちで聞かれることになるだろう。

「恋におちたシェイクスピア」でオスカー主演女優賞に輝いたパルトロウは、近年、料理本を出版したり、ウェブサイトgoopを成功させたりするなど、映画以外の分野で活躍している。20代の頃からファッション・アイコンとして知られ、2003年に結婚し、二児の母になってからは、ヘルシーで美味しい料理が得意で、インテリアのセンスや知識欲もあり、忙しくてもワークアウトを欠かさず完璧なボディをキープしている、いわば現代の理想の女性像を築き上げてきた。

両親は大物テレビプロデューサーとトニー賞女優。裕福な家に育ち、子供の頃から感謝祭はスティーブン・スピルバーグ一家と一緒に祝ってきたお嬢様。ブラッド・ピットと婚約していたこともあり、晴れてゴールインした相手は、コールド・プレイのリードシンガー。そんな夢のような人生に、“離婚”などという醜い言葉で泥を塗ることは、許されないのだ。

パルトロウとマーティンの資産は、推定2億8000万ドル。ふたりとも「Forbes」誌の「最も稼ぐセレブリティ100人」のリストに入っている(パルトロウは71位、マーティンは14位。)夫妻は、L.A.、マンハッタン、ハンプトン、ロンドンに不動産を所有。ロンドンの家は、広げるつもりで後に隣も購入しており、最近はさらにマリブに1400万ドルの家も購入した。

破局はしたものの、夫妻はまだ離婚の手続きは始めていない。離婚に踏み切る場合、10年間結婚していた夫妻の財産は、カリフォルニアの州法にもとづき、二分割されることになる。もっとも、結婚前に、セレブリティの間では常識である“プレ・ナップ”ことprenupital agreement(離婚した場合の財産分与の契約)が交わされているであろうし、これだけ巨額のお金がからみ、子供がふたりいるとなると、離婚条件の交渉には、相当の時間がかかるはずだ。その過程が楽しくハッピーであるはずはない。しかし、「私たちはこれからもずっと家族であり続けますし、いろいろな意味で、私たちふたりは、今、以前よりもむしろ近しいのです」と語っているパルトロウのこと。どんなケチな条件をふっかけられようが、公ではきっと、美しく優雅であり続けるだろう。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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