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なぜだかぱっとしない、“新生映画スター”シュワルツェネッガーのキャリア

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

“俳優”アーノルド・シュワルツェネッガーが苦戦している。

2003年の「ターミネーター3」でハリウッドを引退し、政界に入ったシュワルツェネッガーは、カリフォルニア州知事を二期務めた後に、「ラストスタンド」で俳優に本格復帰。しかし同作品は北米で9位デビュー、トータルの北米興行成績もたった1200万ドルというがっかりの結果に終わった。その次の「大脱走」も、北米公開初週末の売り上げは980万ドル。そして、今週末公開された「Sabotage」は、その2作を下回る540万ドル、7位デビューとなりそうなのだ(確実な数字は西海岸時間月曜日朝まで出ないものの、ハリウッドでは、それを待たず、金曜の数字をもとに推定し、ほぼ正確にその週末の興行成績を発表するのが通例。)復帰後の彼の作品では、最低のオープニング成績となる。

州知事を務めていた頃、シュワルツェネッガーは、映画界へのカムバックをまったく考えていなかった。筆者が「ラストスタンド」で復帰しようとしていた彼を2012年秋にインタビューした時も、任期中に映画界を恋しく感じたことはなかったと断言、「州知事として、トム・クルーズ主演作の現場を訪れたことがあったが、ワイヤーに逆さまに吊るされ、エイリアンだかなんだかと戦っているトムを見て、もう逆さまに吊るされるなんて絶対ごめんだ、あれはさんざんやってきた、と思ったよ」と振り返って笑っていた。すべてを変えたのは、元ライバルで友人のシルベスタ・スタローンが監督、脚本、主演を兼任する「エクスペンダブルズ」へのカメオ出演。シュワルツェネッガーの出演シーンはひとつしかなく、撮影は土曜日で、州知事としての勤務時間に支障はまったく与えなかったらしいが、ごく短いそのシーンは、観客にとってうれしいサプライズだった。その反響を見たスタジオや映画の投資家が彼のスターとしての将来性を再認識し、州知事引退後の出演作の話が押し寄せたのだとシュワルツェネッガーは説明している。

復帰作「ラストスタンド」は、年を取って、もはや昔のアクションヒーローではない彼自身をうまく重ねたユーモアのある作品で、筆者は正直、かなり楽しんだ。Rottentomatoes.comを見ても、北米の批評家の60%があの映画は気に入っている。「大脱走」は49%、「Sabotage」は22%と批評家の評価はかんばしくないが、「Sabotage」の観た一般人は平均Bを与えており、観客の受けは決して悪くない。世界での人気も根強く、「ラストスタンド」は世界興収の75%、「大脱走」は81%を北米外から稼いでいる。主演ではなく、ほかに大勢のアクションスターが登場する「エクスペンダブルズ」は、続編も成功。今年は「エクスペンダブルズ3」のほか、自らプロデューサーも兼任する低予算映画「Maggie」の北米公開が控えており、「ターミネーター5」の撮影もまもなく始まる予定だ。

1986年に結婚したマリア・シュライバーとは、現在離婚調停中。末っ子がメイドとの間にもうけた子供だったことが発覚するなどゴシップが絶えない一方で、なかなか父親似の長男パトリック(20)が俳優の道に進み始めるなど、楽しみもある。現在、66歳。ボディビルダー、アクションスター、政治家という人並みはずれたキャリアを築いてきた彼の第四の人生は、完璧とは言えないものの、まだ終わってはいない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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