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ポルノ業界からも見限られた、ますます厳しくなるハリウッドでの映画製作事情

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

映画の都ハリウッドで、映画がほとんど作られなくなってきている。大作映画やテレビドラマの撮影が、税金優遇制度のせいでほかの国や州に奪われる、いわゆる“ランナウェイ・プロダクション”はずいぶん前から大きな問題だったが、最近ではポルノ映画の撮影も激減し始めたのだ。

もっとも、ポルノ映画の場合、原因は税金優遇制度ではなく、俳優にコンドームの使用を強制するL.A.独自の法律。AIDS予防を目的としたこの法律が通過した翌年の2013年は、L.A.内でのポルノ映画の撮影が、前年に比べて9割も落ち込んだ。もともとこの法律に大反対していたポルノ映画のプロデューサーたちが、規制を避けて、ネバダ州やフロリダ州、東欧や南米などに撮影場所を移したためだ。日陰的存在ながら、ポルノは年間40億ドルの売り上げをL.A.にもたらしてきた大きな産業。製作の激減は雇用の激減を意味し、地元の経済にかなりの影響を及ぼすことになる。

ポスト・プロダクション業界も犠牲者のひとり。スペシャル・エフェクトはハリウッドの得意技だったが、次第にカナダ、イギリス、インドなど海外のエフェクトスタジオに仕事を奪われるようになり、近年ではデジタル・ドメインやリズム&ヒューズなどL.A. の有名なエフェクトスタジオが倒産を強いられた。今年6月には、ソニーが系列のイメージワークスの拠点をバンクーバーに移すと発表。これを受けて、ビジュアルエフェクト専門アーティストたちの間では、税金優遇制度をもって仕事を奪っていく国には貿易規制を与えるべきだとする運動が起こっている。しかし、貿易規制は、ハリウッド映画を海外で配給する上で弊害となる可能性があるため、実現は難しそうな気配だ。

少し前まで、ハリウッド映画の撮影を奪っていくライバルはバンクーバーやトロント、東欧、オーストラリアくらいだったが、近年はルイジアナ、ジョージア、ニューヨーク、ケベック、イギリス、アイスランドなども、魅力的な税金優遇制度をもうけて積極的にハリウッドの撮影を誘致している。今年初めには、「ハングオーバー!」のロケで大きな宣伝効果を実感したネバダ州も税金優遇措置の法律を通過させており、状況は厳しくなる一方だ。

目の前から仕事が消えていくのを傍観していられないL.A.の映画関係者が、同じような税金優遇制度を作ることを積極的に州政府に働きかけてきたにも関わらず、アーノルド・シュワルツェネッガーが州知事だった時ですら、前進はほとんど見られなかった。カリフォルニアにも税金優遇制度があることはあるが、全体予算が少ない上、条件が厳しく、もらえるかどうかは抽選で決まる仕組みで、現実的にはほぼ期待できない。つい最近の抽選では、326個のプロジェクトが抽選から漏れ、それらの製作の多くが州外に流れている。カリフォルニア映画委員会の試算によると、2010年から現在までに州が受けた損失は20億ドル。現場で生計を立てる地元の住民は、どんな映画もかなわないホラーとサスペンスに直面しているのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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