Yahoo!ニュース

7作目の初週末興収は約4億ドル。一時はビデオスルーもありえた「ワイルド・スピード」が成功を続ける理由

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

「ワイルド・スピード」シリーズ7作目「ワイルド・スピード SKY MISSION」が、来週17日、日本でも公開になる。北米を含む他国では今月3日に公開され、公開初週末に全世界で3億9160万ドルを売り上げた。これは当然、シリーズ最高記録。シネマスコア社の調べでは観客満足度も「A。」車のアクション映画といえば男性客がほとんどだろうと思いがちだが、公開初週末に訪れた観客は、男性が51%、女性が49%と、ほぼ半々だった。

主要キャラクターのブライアンを演じるポール・ウォーカーが撮影途中で亡くなり、ウォーカーへの追悼を捧げるべく、ファンが押し掛けたというのも、今作の場合、もちろん大きい。しかし、4作目以来、このシリーズは、毎回興行成績を伸ばし続けており、5作目からは、批評家からの支持も高まってきている。同じ登場人物が出るオリジナル作品が7作続くだけでもハリウッドではあまりないことだが(『ハリー・ポッター』は原作が大ベストセラー、スーパーヒーロー物はたいてい主演俳優が交代している、)回を増すごとに売り上げも批評も向上するとなると、さらに稀だ。

こんな成功は、スタジオも、プロデューサーも予測していなかった。2001年に公開された1作目は、L.A.のストリートカー・レースのシーンを描く映画として、当時は無名だったウォーカーとヴィン・ディーゼルを主役に配し、大手スタジオとしては中規模の3800万ドルのバジェットで製作されている。それが北米だけで1億4400万ドルを売り上げると、スタジオは2作目の製作を決定。しかし、ディーゼルも、1作目の監督ロブ・コーエンも降板を決めた。ディーゼルは、「続編を作ると映画の品格が落ちてしまうから続編は作るなとスタジオに言った」と当時を振り返っている。

ディーゼルのいないまま、ウォーカーを主演に据えて作られた2作目は、公開初週末こそ良い数字を上げたものの、最終的な数字は1作目をやや下回った。批評家の受けも悪く、スタジオとプロデューサーは、 “若返り”を狙い、ウォーカーもはずして、新キャストで東京を舞台に「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」を製作する。今作はビデオスルーにする可能性も話し合われたが、最後のシーンにディーゼルがカメオ出演を承諾したことで、シリーズの方向性が大きく変わることに。「僕が3作目にカメオ出演をしないなら、もうこのシリーズは作らないとスタジオは言った。逆に、僕が出てくれれば、4作目以降は、僕が好きなように作っていい、とも。そして僕は、このシリーズを、神話にしたいのだとスタジオと言ったんだ」と、ディーゼルは語っている。

その“神話”の始まりが、4作目「ワイルド・スピードMAX」だ。1作目のキャスト4人(ディーゼル、ウォーカー、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター)らを呼び戻した「〜MAX」を作るに当たって、ディーゼル(この時点からプロデューサーの肩書きも得ている)は、その先2作までのストーリーを最初から構築している。「当たったから、またもうひとつ作ろう」というアプローチではなく、「なるほど、前作のあのシーンには、こういう意味があったのか」と、後になって思わせる要素が、あちこちに散りばめられることになるのだ。5作目以降は、ジャンル自体も自然に方向転換をし、世界を舞台にした、大規模なハイスト(強盗)映画にシフトしていった。

同時に、人間ドラマの部分も濃くなっていく。5作目以降は、「家族」「兄弟の絆」というテーマが貫かれ、6作目ではラブストーリーの要素も強くなった。そこに惹かれたのは、女性観客に限らない。ディーゼルも、「15歳になる知り合いの息子が、6作目を見終わった時、最初に聞いてきたのは、『レティの記憶は戻るのかな』ということだった。車や、アクションが一番好きな世代なのにね」とうれしい驚きを表明している。ラブストーリーは、この7作目で、ますます感動的になる。

しかし、「ワイルド・スピード」の一番の売りが、派手な車のアクションであることは、間違いない。とくに5作目からは、誰も想像すらしなかったような極端なアクションが次々に登場。「これを上回るものを次に出してこられるのか?」と思いきや、またもやありえないことをやってみせては、観客を興奮させてくれる。その規模の大きさとスリル、豪快さは、ぜひビッグスクリーンで堪能すべきもので、それもまた、人を映画館に呼び込む理由になっていると思われる。現実離れしたスタントを観客が素直に楽しめるのは、共感できるキャラクターがしっかりと築かれていることが大きいだろう。

4、5、6作目を三部作のつもりで作ったディーゼルは、2013年10月、筆者が7作目の撮影現場を訪れた時(ウォーカーも現場におり、敵との銃撃シーンを撮影していた、)「7作目は、リセットに当たる。ここからまた新しい三部作が始まるんだ」と語っていた。7作目で初登場するカート・ラッセルのキャラクターも、今回はミステリアスなままだが、この後、重要な役割を担っていくと明かしてくれている。

ウォーカーが亡くなったことで、次の三部作にどのような変更が生じるのかは、わからない。ウォーカーへ敬意を表する意味もこめて、今作のラストは、過去2作と違い、「次に続く」という形にはなっていない。だが、スタジオは、少なくともあと3作、製作する姿勢でいるようだ。

ウォーカーの死を悲しむのではなく、彼の人生に「ありがとう」という気持ちを捧げるような今作には、マッチョな男性ファンをも涙ぐませるものがある。さらに、アクション、ロマンス、コメディの要素も充実で、間違いなくシリーズ最高傑作だ。撮影中に主要俳優が亡くなるという困難に、これほどまでに誠意と繊細な配慮をもって立ち向かったディーゼルとジェームズ・ワン監督には感服するばかり。この後、シリーズは、これまでのように、さらに向上し続けることはできるのか。全世界のファン、そして天国にいるウォーカーもきっと、そうであることを期待している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事