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中国企業が「GODZILLAゴジラ」の製作会社を買収。ハリウッドと中国の関係はどこまで深まる?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハリウッド版「GODZILLA」の出演者。この映画の製作会社を中国企業が買収する(写真:REX FEATURES/アフロ)

「GODZILLAゴジラ」「パシフィック・リム」「ダークナイト」などを製作したレジェンダリー・エンタテインメントが、まもなく中国の手に渡ろうとしている。買い手は、不動産大手の大連万達グループ。合意は来週にも結ばれる予定で、買収価格は40億ドルと推定されている。レジェンダリーには日本のソフトバンクも投資しているが、投資分を売却することで合意したと報道されている。

レジェンダリーは、2000年、金融や投資の世界で成功を納めたトーマス・タルが設立。2005年にワーナー・ブラザースと共同出資、共同製作の契約を結び、「インセプション」「マン・オブ・スティール」「インターステラー」「タイタンの戦い」などを製作した。2014年にはワーナーを離れ、ユニバーサルと同じような契約を結び、昨年の大ヒット作「ジュラシック・ワールド」などを製作している。

急速に伸びる中国市場に足場を確保するため、タルは早くから動きだし、2011年には、ジョイントベンチャー会社レジェンダリー・イーストを香港に創設した。中国との共同製作にすることで、中国政府が外国映画に対して課している年間高回数の制限から逃れるのが目的だ。似たような動きは、近年、ほかにも見られ、たとえば「ハンガー・ゲーム」などをヒットさせたライオンズゲートは、昨年、湖南テレビと15億ドルの共同製作契約を結んでいるし、ドリームワークス・アニメーションは、中国の観客にアピールする作品を作るべく、中国の投資家とオリエンタル・ドリームワークスを2012年に創設している。

しかし、今回のディールは、ずっと意味が大きい。中国企業がハリウッドの製作会社のオーナーになるのは、史上初めてのことだ。大連万達の経営のもと、レジェンダリーは、外国映画の枠からはずれるだけでなく、政府のセンサーシップを避けたり、中国人にアピールするマーケティングを考案したりすることが可能になる。大連万達は中国最大の映画館チェーンを所有しているため、スクリーンの確保も容易だ。同社はまた、国内に、30個のサウンドステージとポストプロダクション施設をもつ、“世界最大の映画スタジオ”を建設中で、一部は2017年にもオープンする。

中国の興行成績は、昨年1年で50%も伸びた。映画館の建設ラッシュが続いていることもあり、来年中には、北米を抜いて、世界一の映画市場になる見込みだ。一方で、アメリカの市場は、ほぼ頭打ちの状態。昨年は国内興行成績が上昇したが、3DやIMAXなど単価の高いチケットがより多く売れたことも大きな要因で、観客動員数が著しく増えたわけではない。ハリウッドのスタジオが中国に目を向けるのは当然のことだが、とりわけレジェンダリーが作る映画は、言語や文化の違いを超えて受けやすいタイプのもの。今回の契約で、レジェンダリーの作品は、さらに大きく海外興収を伸ばすことになるだろう。

アメリカの観客にも、なんらかの影響がありそうだ。今後、レジェンダリーの映画で中国のロケ地や中国人スターを目にすることは、増えていくだろう。大連万達は以前からアメリカ進出に対して野望を明らかにしてきており、次にまた何か大きな行動に出る可能性も十分あるし、ほかのハリウッドの製作会社も追従を考えることもありえる。世界の映画業界地図は、明らかに変化しつつあるのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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