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オスカー作品賞は「マネー・ショート」VS「スポットライト」?ディカプリオ受賞はほぼ確実

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
有力作「マネー・ショート」のプロデューサー、ブラッド・ピット。(写真:ロイター/アフロ)

オスカー作品賞の行方が、少し見えてきた。

米西海岸時間昨夜発表された映画俳優組合(SAG)賞でアンサンブル賞を獲得したのは、「スポットライト 世紀のスクープ。」一方、その4日前に発表されたプロデューサー組合(PGA)賞は、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」が受賞した。そのふたつの賞の間には、「マネー・ショート」と「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が、編集に対して与えられるA.C.E.エディ賞を受賞している。

PGAとSAGは、オスカー予測の上で、もっとも重要な鍵となる賞。PGAを受賞した作品は、過去8年連続で、オスカーの作品賞も受賞している。PGAが、アカデミーと同じ投票形式を採用していることも、オスカー予測の上で重視される理由だ。SAGとオスカーの作品賞の一致は、50/50といったところだが、アカデミー会員の中で、俳優は、約2割という、ほかよりずっと大きな割合を占める。プロデューサーがアカデミーに占める割合は8%程度だ。

「スポットライト」「マネー・ショート」は、どちらも、編集部門、脚本/脚色部門にもノミネートされている。これもまた重要な要素。脚本/脚色部門にノミネートされていないのに作品賞を取った例は、過去60年、「タイタニック」(1997)と「サウンド・オブ・ミュージック」(1964)しかない。今年のオスカー作品部門にノミネートされている8作品の中では、「マッドマックス」と「レヴェナント/蘇えりし者」が、脚本/脚色部門に候補入りを逃している。また、編集部門にノミネートされなかった映画が作品賞を取ることも非常に稀で、昨年のアレハンドロ・G・イニャリトゥの「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」が覆すまでは、「普通の人々」(1980)にさかのぼるまで、例がなかった。今回、「レヴェナント」は、脚本/脚色、編集という、ふたつの重要な部門に漏れたわけだが、イニャリトゥが去年に続いて常識を破ってみせる可能性も、もちろん、なくはない。

「スポットライト」「マネー・ショート」は、共に実話で、時事的かつシリアスなテーマをもつ。前者は、カトリック教会が長年隠蔽してきた子供への性的虐待を暴いたボストン・グローブ紙のジャーナリストたちを描くもの。後者は、リーマンショックが起こる前に、住宅ローンの破綻を早々に見抜いていたウォール街の男たちについての話だ。「スポットライト」は、ヴェネツィア、テリュライド、トロント映画祭で高い評価を受け、早くからアワードシーズンでの健闘が期待されていた。「マネー・ショート」は、11月のAFIで初めてお披露目され、後になって急に勢いを増してきた形。監督が「俺たちニュースキャスター(日本劇場未公開)」「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」などコメディばかりを手がけてきたアダム・マッケイだということが、当初、多少の偏見をもたせたかもしれないが、実際に映画を見てみて、難しくなりがちな金融界の話を、わかりやすく、感情的に語ってみせた彼らならではの力量に、感心させられた人は少なくないだろう。

この2作品からは、クリスチャン・ベール(『マネー・ショート』)とマーク・ラファロ(『スポットライト』)が助演男優部門、レイチェル・マクアダムス(『スポットライト』)が助演女優部門に候補入りしている。ベールとラファロの受賞可能性は微妙、マクアダムスの可能性は、かなり低いと言える。SAGの助演男優賞は、イドリス・エルバ(『Beasts of No Nation』)が、助演女優賞はアリシア・ヴィキャンデル(『リリーのすべて』)が受賞した。過去3年、SAGの受賞者4人は、全員、オスカーも受賞している。今年は、エルバがオスカー候補入りを逃していることから(その事実も、『白すぎるオスカー』バッシングに大きく貢献した、)少なくとも助演男優に関しては同じ結果にはならないが、ほかの3人は間違いなくそれぞれの部門で最有力候補と言える。

とりわけ、レオナルド・ディカプリオが、今年、6度目のノミネーションにして、初のオスカーを手にすることは、ほぼ確実だ。このアワードシーズン、ありとあらゆる主演男優賞に輝いてきているディカプリオは、早くからこの部門のフロントランナーだったが、昨夜のSAG受賞で、その立ち位置は、確固たるものとなった。1820年代、熊に襲われて重傷を負った主人公(ディカプリオ)が、真冬の大自然の中、仲間に置き去りにされるというこの映画で、ディカプリオは、常に過酷な状況に置かれ、少ないせりふで、見事に感情表現をしている。この演技は十分、オスカーに値するものだが、20年以上映画に出演し、人気スターとしても実力派としても認められてきた彼だけに、そろそろあげなければというムードもあるだろう。授賞式まであと1ヶ月、まだまだいろいろと驚きはありそうだが、何か起こるとしたら、この部門以外だ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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