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ハリウッドの圧力が成功。ジョージア州知事、ゲイ差別の法案に対し拒否権の行使を宣言

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジョージア州知事ネーサン・ディール(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ時間28日(月、)ジョージア州知事ネーサン・ディールが演説を行い、法案757に対して拒否権を行使すると宣言した。署名の期限は5月3日だったが、ディズニーやNetflixをはじめとするハリウッドのスタジオが、「ディール州知事が署名して法案が成立したら、ジョージアでは撮影しない」と声明を出してから(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160326-00055857/)、1週間もたっていない。法案757は、LGBTコミュニティへの差別を容認するものだとして、ハリウッドの内外から、強く批判されていた。

以下に、ディール州知事の演説の一部を挙げる。

法案757は、通常の法案よりも、ずっと強烈な感情を呼び起こしました。おそらく、連邦裁判所、とくに昨年夏に同性婚を合法化した米国最高裁判所の行動に、私たちの宗教コミュニティの多くが不安を感じたせいでしょう。法案757は、宗教のリーダー、組織、また信仰をもつ人が、やらなくてもいいとする行動を列挙するものです。たとえば、自分の信じる宗教の教えと相反するなら、結婚式を行ったり、結婚式に出席したり、教会の従業員を雇ったり、教会の敷地を貸したりしなくてもよい、などとあります。

(中略)

今日、宗教コミュニティの一部の人が、ある種の権利や保護を政府から授かりたいと思うのは、皮肉なことのように思われます。宗教の自由が、人間の作った政府でなく、神から与えられたものであるならば、憲法第1条(言論の自由)に、「放っておく」ことを加えるべきです。そうでない行動を法律が取ろうとすると、たとえ意図的ではなかったにしても、誰を入れて誰を入れないかが、差別を生むことになりかねないからです。それは、あまりにも大きいリスクです。

この法案に賛成する宗教コミュニティの人たちの何人かから、私の道徳的信条と私の人間性を疑問視されるという侮辱を受けました。そしてこの法案に反対するビジネスコミュニティの人たちの何人かからは、州からビジネスを撤退させるという脅しを受けました。私は、侮辱も、脅しも、好きではありません。ジョージアの人々は、感情に流されるのではなく、しっかりとした理由にもとづいて判断するリーダーが必要です。それが、私のやろうとしていることです。

(中略)

法案757に対する私たちの行動の目的は、宗教コミュニティを守ったり、雇用を増やせるよう企業にやさしい州にすることだけではありません。これは、私たちがどんな州であり、どんな人々なのかを象徴するものです。ジョージアは、温かく、歓迎の心をもつ、愛に満ちた人々が住む州なのです。

(中略)

私たちは、家族とコミュニティの生活をより良くしていくため、努力をします。それが、ジョージアです。このままであり続けるために、私は、自分にできることをやるつもりです。その理由をもって、私は、法案757に拒否権を行使します。

この演説を受け、ディズニーはすぐに、「この法案に関して、ディール州知事が正しい決断を下したことに、拍手を送ります。私たちは、これからも、ジョージア州で映画の撮影を続けていくことを、楽しみにしています」と声明を発表している。ディズニーは、現在、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」続編をジョージアで撮影しており、もしこの法案が成立したら、ロケ場所をほかに移すと警告していた。ディール州知事は、演説の中で、「企業にやさしい州にすることだけが目的ではない」としているが、会計年度2015年にハリウッドがジョージアにもたらしたビジネスは、金額にして17億ドル(約1,929億円。)ディール州知事は、とりわけジョージアへの撮影誘致のために尽力してきた人でもある。

ジョージア在住の映画製作関係者は、今ごろ胸をなで下ろしていることだろうが、闘いはまだ終わっていない。先週、ノース・カロライナの州知事パット・マッコリーが、やはりLGBT差別を容認する新しい州法に署名したのだ。この法律のもと、ノース・カロライナの雇用者や企業は、人種、宗教、年齢、“もともとの”性別を理由に差別をしてはならないが、性的嗜好が理由の差別は許されることになる。また、この新しい法律のせいで、性同一性障害の人は、自分が信じる性別のトイレを使っていいとする、来月にも施行される予定だった政令も覆された。

この法律が成立した直後、ロブ・ライナーは、「この憎悪に満ちた法律が撤回され、ノース・カロライナのLGBTの人たちが平等な尊厳をもって扱ってもらえるようになるまで、私はノース・カロライナで映画の撮影を行いません」と宣言している。ノース・カロライナも昔からロケによく使われてきた州で、「かけひきは、恋のはじまり、」「ハンガー・ゲーム」1作目、「アイアンマン3」など、多くの映画が撮影されてきた。しかし、2014年に映画やテレビの撮影に対して与える税金優遇措置を大幅にカットされたことで、ノース・カロライナでの撮影は競争力を落としており、ジョージアにかけたのと同じプレッシャーをかけても、どれだけ影響があるかはわからない。ハリウッドにとどまらず、幅広い方面から、より効力のある対抗手段が生まれてくることを望みたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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