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映画並みにドロドロなメディア王のお家騒動。元愛人は2,500万ドル(27億円)を獲得か

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
パラマウント、MTVなどを抱えるビリオネア、ソムナー・レッドストーン(92 )(写真:ロイター/アフロ)

パラマウントの親会社ヴァイアコムとメジャーネットワークCBSの会長を務めてきたメディア王ソムナー・レッドストーン(92)をめぐるお家騒動が、結末に向かいつつある。レッドストーンの元愛人マニュエラ・ハーザー(51)とレッドストーンの間で、来週にも示談が成立しそうなのだ。

近年、高齢で体が弱り、ヴァイアコムにもCBSにも姿を現していないレッドストーンは、ハーザーと、もうひとりの愛人シドニー・ホーランド(44)に、自分の健康管理の責任者を務めさせていた。だが、昨年8月、レッドストーンはホーランドを、10月にはハーザーを追放。11月、ハーザーは、この解雇を不当とし、レッドストーンにはすでに判断能力がないとして訴訟に出た。これを受けて、一部の株主がレッドストーンの健康状態を明らかにするよう要求。株価にも影響を及ぼすなど、ウォール街までをも巻き込むパニックを引き起こすことになった。レッドストーンは2月にヴァイアコムとCBSの名誉会長に退いている。

一連の出来事は、資産50億ドル(約5,437億円)を持つレッドストーンの女性関係と家族内の不和を浮き彫りにすることになった。レッドストーンとハーザーの出会いは、1999年、映画プロデューサー、ロバート・エヴァンスの自宅でのディナーパーティ。その後交際が始まるが、レッドストーンは2002年に2番目の妻ポーラ・フォーチュネイトと再婚する。夫妻が2008年に離婚すると、ふたりの関係は再び深まり、3年前からは、ホーランドと共に、シルベスタ・スタローンの家の隣にあるレッドストーンの豪邸に住むようになった。

ライバル意識は持ちながらも独特の絆をもつこのふたりの愛人のことは、業界関係のごく一部の間では、知られていたらしい。昨年、ふたりは、「ソムナー・レッドストーンをコントロールするのは誰なのか」と題する「Vanity Fair」誌のインタビュー記事に登場している。当然、レッドストーン一家やヴァイコムにとっては、かなり恥ずかしい露出だった。この記事が出てまもなく、ホーランドが別の恋人を隠し持っていたことが発覚し、レッドストーンはホーランドとの関係を断ち切る。ひとり残ったハーザーは、レッドストーンが亡くなったら、この2,000万ドル相当の家と現金5,000万ドルをもらうつもりでいたが、自分も突然に切られるはめになり、訴訟という行動に踏み切ったらしい。

だが、ふたりは、すでに十分すぎるほどレッドストーンから金銭的恩恵を受けている。昨年、「New York Post」紙は、レッドストーンとの関係のおかげでホーランドは900万ドルから1,000万ドル近くを貯めたと報道した。レッドストーンに追い出された後、彼女がしばらく超高級ホテルのビバリーヒルズ・ホテルに住んでいたというところからも、お金には困っていなかったと想像がつく。ハーザーも、再びつきあいを始めてまもない2009年に、レッドストーンに新居を買ってもらったと自ら語っている。ハーザーの娘キャサリンがCBSのドラマ「Madame Secretary」の役を得るなど、別の形での恩恵もあった。レッドストーンの長女シャリー・レッドストーンは、ハーザーが2009年から昨年10月までにレッドストーンから受け取った現金や物は、7,000万ドルに相当すると宣言している。

ヴァイアコムとCBSの副会長を務めるシャリー(61)のほかに、レッドストーンには長男ブレントがいるが、彼はどちらの子供とも、長年、不仲状態にあった。ブレントは彼の事業に関わっておらず、シャリーが自分の後を引き継ごうとしていることがわかると、レッドストーンは、彼女が所有するすべての株を10億ドルで買い取ると申し出ている。レッドストーン親子の折が合わないのをいいことに、ハーザーとホーランドは意図的にレッドストーンの子供や孫たちを近づけないようにし、年老いて、体も頭も以前のように機能しなくなっている彼の生活をコントロールしていったと、レッドストーン側は見ている。ハーザーを追放してからは、家族がレッドストーンの家に戻った。家族のスポークスパーソンは、「ソムナーの家族は、彼を定期的に訪問し、彼を話せることに満足を感じています」と語っている。

示談の条件は、ハーザーがレッドストーン一家とのつながりを断ち切るかわりに、2,500万ドル(約27億1,800万円)を受け取るというものになるようだ。レッドストーン側も、ハーザー側も、示談でできるだけ早く解決したいという点では一致している。争いが長引き、裁判になると、レッドストーンとしては家族の内情がさらに露呈されることになり、ハーザーとしては、レッドストーンの家に住んでいる間、どのような金の使い方をしたのかを詳しく説明する必要が出てくる。

しかし、みんながこの展開を望んでいたわけではない。レッドストーンはヴァイアコムとCBSの投票権の8割を所有する超重要人物。彼の健康状態は実際のところどうなのか、裁判で事実をはっきりと知りたいと望んでいた投資家や株主は少なくない。示談の報道が出た昨日、ヴァイアコムの株価は3%、CBSの株価は2.3%下がり、メディア・アナリストのマイケル・ネーサンソンは、ヴァイアコムの株を「買い」から「中立」に引き下げている。ここは、映画やテレビドラマではめったに出てこない部分。次に富豪のごたごた物語を書こうとしている脚本家は、今、頭の中でメモを取っているだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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