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ハリウッドの映画音楽ミュージシャンが怒っている。彼らの言い分、スタジオの釈明

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Rex Features/アフロ)

ハリウッドの映画音楽を作る音楽家とスタジオの衝突が続いている。アメリカ音楽家連盟(AFM)は、昨年から数回にわたり、メジャースタジオを訴訟してきたが、今月、そのひとつのケースに対してパラマウントが行った釈明が、問題の複雑さを浮き彫りにさせることになった。

争点は、いくつかの映画のサウンドトラックのレコーディングが北米外でなされたことと、過去の映画音楽の再使用が目立つということ。2010年のスタジオとAFMの合意により、北米内で撮影される映画のサウンドトラックは、北米内でレコーディングされることになっている。しかし、「インターステラー、」「ロボコップ、」「センター・オブ・ジ・アース2 神秘の島」「キャリー、」また来年公開予定の「Same Kind of Difference as Me」などの映画は、北米で撮影されたにも関わらず、海外でサウンドトラックのレコーディングがなされた。これを理由に、AFMは、ワーナー・ブラザース、MGM、パラマウントを訴えている。音楽の再使用に関しては、ソニー、パラマウント、フォックス、ユニバーサル、ディズニー、ワーナーらが訴えられた。過去にレコーディングされたサウンドトラックは、そのサウンドトラックが作曲された目的の映画の場面が使われる際、それと一緒に使用することのみが許されるということで、プロデューサーたちとAFMとの間に合意が結ばれている。だが、「Black & White/ブラック&ホワイト」には「タイタニック」の音楽が1分10秒、「Little Fockers(日本未公開)」には「ジョーズ」の音楽が18秒、「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」には「キャスト・アウェイ」の音楽が33秒使われたと、AFMの訴状は主張している。さらに、昨年末には、AFMが労働争議を起こしている会社シネマ・スコアリングにワーナーが作曲演奏の場を提供したとして、ワーナーのスタジオの前で、組合員と支持者がデモを繰り広げるという騒ぎも起こった。

ワーナーは、シネマ・スコアリングに場所を提供したという記録はいっさい見つけられず、そういった事実はないと言い返している。一方で、「Same Kind of Difference as Me」の件に関し、先週、パラマウントは、自分たちは同作品の製作者ではないとする文書を、裁判所に提出した。その書類によれば、「Same Kind of Difference as Me」は、原作小説の作家ロン・ホールが映画化のために設立したSKODAMフィルムズという会社が企画、製作、撮影したもの。お金が足りなくなった時、パラマウントが共同出資と配給に同意し、代わりにごく一部のオーナーシップをもらうことになったにすぎないということだ。小道具、大道具のレンタルや、セットの建築、監督組合、俳優組合などとの交渉はすべてSKODAMが担当した。SKODAMは作曲家にジョン・パエザーノ(『メイズ・ランナー』)を雇い、パエザーノがスロバキアでレコーディングするという選択をしたため、レコーディングは海外で行われることになった。したがってパラマウントが訴訟される筋合いはないというのが、パラマウント側の言い分である。

今日、映画の撮影は、ますます国際化している。ニューヨークが舞台のはずの物語が南アフリカやオーストラリアで撮影されたり、イギリス人という設定の役にアメリカ人がキャストされたり(その逆の例は、それこそ山ほどある、)日本人がウエスタンの美術監督を務めたり(種田陽平の『ヘイトフル・エイト』、)19世紀アメリカを舞台にした映画の音楽を作曲したり(坂本龍一の『レヴェナント 蘇えりし者』)といったことが、当たり前に起こるようになった。同時に、小規模あるいは中規模な大人向けドラマは大きく儲からないという理由でメジャースタジオが敬遠するようになり、「Same Kind of Difference as Me」の例が示すとおり、もともとインディーズとして始まった企画に、途中から、限られた投資を条件にスタジオが乗っかるというケースもよく見られるようになってきた。「リトル・ミス・サンシャイン」や「ハッシュパピー〜バスタブ島の少女〜」などはフォックスの作品のように思われているが、インディーズの映画祭であるサンダンスで、フォックス・サーチライトが出来上がった映画の配給権を買ったものだ。もちろん、これらふたつの映画の場合は「出来上がったもの」を買ったことが明らかなので、音楽家の組合が問題にすることはないが、もっと複雑なケースが、これからもたくさん出てくることは、間違いない。

ハリウッドのスタジオは、プロデューサー組合、映画俳優組合、脚本家組合をはじめとする各労働組合と、定期的に合意契約を更新している。その過程では、時に衝突も起こる。2007年の脚本家組合との揉め事が映画業界の経済に大きな打撃を与えたのは、記憶に新しいところだ。やっかいではあっても、スタジオのトップにとって、組合との話し合いは、ちゃんとやらなければいけない部分。AFMとの不和も、きちんと解決していかなければならないが、一方では「北米で撮影された映画の音楽は必ず北米でレコーディングされなければならない」という条件になぜスタジオが合意したのかと疑問視する声もある。しょせん音楽、と思い、当時、スタジオはそこまで考えなかったのかもしれない。そのツケは、意外にも重かったということか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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