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減量コンテスト番組の出演者が集団訴訟のかまえ。「後でまた太ったのは番組のせい」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「The Biggest Loser」は人気リアリティ番組(写真:ロイター/アフロ)

過激なダイエットの後にリバウンドしたのは、番組のせい。そんな訴訟を、自ら望んで減量コンテスト番組に出演した女性が、起こそうとしている。

問題の番組は、12年も人気を誇ってきたNBCのリアリティ番組「The Biggest Loser。」肥満の一般人男女が、トレーナーの指導のもと、ワークアウトや食事法改善を行って短期間に減量し、優勝者を決めるというものだ。アメリカではこれまでに17シーズンが放映され、世界各国でそれぞれの国のバージョンが放映されている。

集団訴訟を起こそうとしているのは、2005年の第2シーズンに出演したスーザン・メンドンカ。彼女は、番組放映中に90ポンド(40キロ)痩せたが、その後150ポンド(68キロ)リバウンドしたという。TMZ.comに対して語った映像で、メンドンカは、「コンテストに出ている間、体重を計る48時間前は、水もろくに飲めず、1日8時間ワークアウトして、1日800カロリーしか摂取できなかった。最近の研究にもあるように、あの番組は私たちをめちゃくちゃにしたの。あれは私の人生の最大のミスだった」と語った。彼女はまた、「ニューヨーク・ポスト」紙に対しても、NBCが同窓会番組を企画しないのは、みんな同じように太ってしまったからだとコメントしている。

彼女が言及している研究とは、アメリカ国立衛生所が行った、この番組の出演者14人(男性6人、女性8人)の、番組終了直後と6年後を比較した調査のこと。6年後、ひとりを除いて全員がリバウンドし、そのうち5人は、元の体重と1%しか変わらないところまで戻ったか、あるいはもっと太ったと、この調査は報告している。研究結果は、急激に体重を減らしたことが、新陳代謝に悪影響を与えたと指摘。同時に、参加者の57%は、元の体重よりも10%低い体重を保っているという事実も述べている。

この番組は、これ以外にも問題に直面している。番組のトレーナーであるボブ・ハーパーが、アメリカでは2004年に禁止されたハーブ系減量薬エフェドラを摂取させたと出演者の多くが証言したことで、ロサンゼルス警察が、最近、捜査を開始したのだ。番組に17シーズン出演してきた “ドクターH”ことロブ・ヒューゼンガ医師もそれを承認していたといわれており、ヒューゼンガは、この証言をした出演者ジョエル・グウィンと、その記事を掲載した「ニューヨーク・ポスト」紙を、米西海岸時間3日(金、)名誉毀損で訴訟した。

極端なダイエットを短期的に行って、一時的に体重を減らしても、ヨーヨーダイエットにつながって、むしろ長期的には痩せにくくなるというのは、かなり前から栄養や健康に関心をもつ人々の間では知られてきたこと。番組の関係者は、それをわかっていつつ、高視聴率を稼げるこの番組を制作したのだろう。アメリカでは、訴訟を避けるために、テレビであれ雑誌であれ、撮影前に承諾書にサインさせるのが通例で、この番組でも、メンドンカを含めた出演者は、「自分の責任で参加する」という旨の長ったらしい書面にサインさせられているはずだ。つまり、たとえこの集団訴訟を起こせたとしても、勝訴に持ち込むのは、相当に困難と思われる。

アメリカの男性の40%は標準とされる体重を超えており、35%が肥満に当たる。女性では、30%以上が標準体重以上で、37%が肥満だ。その数字は、過去20年間、良い方向に変わる気配を見せていない。肥満は、単に見た目だけでなく、糖尿病など深刻な病気につながる重要な問題であり、米国民の最大の関心事だ。自分と同じように太った人が、何十キロも痩せてみせるリアリティ番組が視聴率を稼ぐのも、無理はないだろう。

しかし、本当に持続できる減量は、ライフスタイル自体を健康的に変える、地味かつ堅実なものなのである。もちろん、そういう番組だったら、12年も続いていないだろうが。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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