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「ウルフ・オブ・ウォールストリート」が、今なおディカプリオを苦しめている

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

レオナルド・ディカプリオが、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013)に囚われたままでいる。公開から3年半たつ今になっても、この映画をめぐって、いくつかの問題が起きているのだ。

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、90年代初め、金融界で大儲けし、派手な生活を楽しむも、不正行為が暴かれて逮捕されてしまったジョーダン・ベルフォートの自伝本にもとづくもの。2007年、ディカプリオのプロダクション会社アピアン・ウェイは、ブラッド・ピットのプランBとの競り合いに勝って、映画化権を取得した。

だが、当初、この作品に興味を示していたワーナー・ブラザースがプロジェクトを降りてしまい、プロジェクトは足止めを食らう。そこへ助け舟としてやってきたのが、設立されたばかりのプロダクション会社レッド・グラニット・ピクチャーズだった。レッド・グラニットは、映画の内容には口を出さないという条件で、映画の全予算である1億ドルを出資。映画は5部門でオスカーにノミネートされ、レッド・グラニットは華々しいスタートを飾った。

しかし、最近になって、その1億ドルの出どころが追求され始めたのである。レッド・グラニットの創設者で会長のリザ・アジスは、マレーシアの首相ナジブ・ラザクの義理の息子。ラザク首相が、マレーシア国民のために始めた政府100%出資の投資会社、1マレーシア・デベロップメント(1MDB)にまつわる不正疑惑が明るみに出る中、用途不明なまま消えた70億ドルのうち、2億3,800万ドルがレッド・グラニットにわたり、その中の1億ドルが、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の製作費に使われた疑いが強まっているのだ。レッド・グラニットは、会社の資金は数多くの投資家から集められたものであり、公金の不正使用はしていないと主張しているが、アジスがビバリーヒルズとニューヨークに持つ高額な不動産が1MDBのお金で購入されたことも発覚している。

この腐敗を猛烈に批判しているマレーシアの国会議員トニー・プアは、プロデューサー兼主演のディカプリオも注意を払うべきだったと批判している。「レオナルドは、おそらく、どこからそのお金が来るのか知らないまま映画を作ったのだろう。だが、情報が公になった今、国際的な資金洗浄に率先して反対の態度を示すことで、彼はお手本になってみせることができるのだ」と、プアは「The Hollywood Reporter」に対して語った。レッド・グラニットが進めているジョージ・ワシントンの伝記映画「The General」に、ディカプリオが主演を検討しているという噂もあることから、マレーシアのフィルムメーカーで政治活動家のヒシャムディン・レイスは、「The Hollywood Reporter」に対し、「地球温暖化対策を訴えるならば、ディカプリオはこの問題に関しても語るべきだ。なぜなら第三諸国の腐敗という意味で、それらはつながっているのだから」とディカプリオを批判するコメントをしている。

これとは別に、この映画は、名誉毀損で訴えられており、ディカプリオは証言をしなくてはならなくなった。

訴えを起こしているのは、元ストラットン・オークモントのエクゼクティブ、アンドリュー・グリーン。グリーンの名前自体は映画に登場しないものの、P・J・バーンが演じたニッキー・“ラグラット”・コスコフのキャラクターは彼のことだとされている。映画の中で、コスコフはドラッグを多用し、同僚の頭を剃ったり、職場でセックスをしたりする。そのような描写のせいで、プロとしての彼の評判が汚されたとして、グリーンは、2014年、1,500万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こした。昨年10月、この訴訟はいったん棄却されたが、裁判所は、彼が再度訴訟に挑める余地を残したため、最近になって、グリーンの弁護士が、ディカプリオに証言を要求する書面を裁判所に提出している。これを受けて、ディカプリオ側の弁護士は、争点となっているのは脚本、あるいは現場での即興であると反論。前者の場合、責任があるのは脚本家のテレンス・ウィンターで、後者の場合は監督であるマーティン・スコセッシだが、いずれも証言をして、決着している。また、コスコフのキャラクターを演じたバーンや、原作本の著者であるベルフォートには、証言を要求していない。なのに、今、ディカプリオにそれを求めるというのは、悪意にもとづく行為だと、異議を唱えた。しかし、米西海岸時間16日(木)、裁判所はグリーン側の要求を認め、ディカプリオに証言を命じたのである。

「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は、公開時にも批判を受けた。一連の容疑で有罪となったベルフォートの弁護士トム・プロサリスの娘クリスティーナ・マクドウェル(もともとプロサリスだったが、父のせいで姓を変えることになった)は、北米公開時、「L.A. Weekly」に公開状を送っている。その中で、マクドウェルは、「マーティとレオ、これからマスコミのインタビューをたくさん受け、アワードシーズンに忙しいと思いますが、ここで真実を語らせてください。私たち姉妹と母に、何が起こったかについてです」とし、犯罪が暴露された後、お金を返すために家族はすべてを失い、家もなく、知り合いの家を転々としてカウチで寝たり、時には車の中で着替えたりしたなどという事実を詳細に語った。「今、またウォール・ストリートのせいで人が被害に遭おうとしている時に、この映画は、こういった詐欺が娯楽性のあるもののように見せようとしています」というマクドウェルは、「レオ、あなたはハイブリット車に乗るんでしょう?あなたがどんな映画を作るか決める時、自分がどんなメッセージを送っているか、考えますか?」と問いかけている。

手紙の最後で、マクドウェルは、全米国民に映画のボイコットを訴えたが、映画は全世界で3億9,200万ドルを売り上げるヒットとなった。しかし、舞台裏のドラマはまだ終わってはいない。“続き”は、本編よりもずっと地味ながら、同じくらい汚れたものになるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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