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アントン・イェルチン死亡事故:彼のグランドチェロキーはリコール対象車だった

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
事故現場となったイェルチンの自宅の門(写真:Splash/アフロ)

アントン・イェルチン(27)が、自分の車と門に取り付けられた郵便受けに挟まれて亡くなった事件で、新たな事実が浮上した。

イェルチンが運転していた2015年のジープ・グランドチェロキー・ラレードはリコール対象車で、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が、今年5月14日に、通知の手紙を送っていたことがわかったのだ。しかし、ディーラーで実際に修理作業が始まったのは先週になってからで、8月までにはすべてのディーラーで修理が行われているようにする計画だったらしい。イェルチンの車は、まだ修理がなされていなかった。

リコールの理由は、シフトレバーの不具合。イェルチンが所有していた2015年のモデルではEシフトが使われているが、従来のシフトのように、しっかり入ったという感触が得られず、ドライバーが「P」に入ったと思っていても、実際には「N」に入っていたりする事例が起きていた。今年4月12日の時点で、FCAは、この件に絡んで212件の衝突事故、308件の物的損害、41人の負傷者が出ていることを確認している。米国内での対象車両は81万1,586台。修理は、ドライバーが車を降りると、自動的にギアが「P」に入るソフトウェアをダウンロードするというものだそうだ。

この報道を受けて、FCA USは、米時間20日(月)、「FCA USは、イェルチン氏のご家族と友人の方々に、心からお悔やみを申し上げます。我が社は警察と連絡を取り合い、徹底した捜査を進めております。この悲劇の原因を推測するのはまだ早急です」との声明を発表した。

イェルチンは、来月22日北米公開予定の「スター・トレック BEYOND」を残してこの世を去った。ほかにも、ピーター・ディンクレイジと共演するSF「Rememory」、スリラー「Thoroughbred」の2本のインディーズ映画を撮り終えており、Netflixで12月に配信されるアニメシリーズ「Trollhunter」では主人公の声を務めることも決まっていた。

若い頃からハリウッドで活躍してきたイェルチンの突然の死は、ハリウッドに大きなショックを与えた。

「スター・トレック」2作を監督したJ・J・エイブラムスは、「君はすばらしかった。君は優しかった。君はとてもファニーだった。そして君は、十分長い間、ここにいてくれなかった。君のことが恋しいよ」とツィートしている。「〜BEYOND」でシリーズの監督を引き継いだジャスティン・リンも、「まだショックを受けている。アントン、ご冥福をお祈りします。君を知ることができた幸運な人たちの心の中に、君の情熱はいつまでも生き続けるでしょう」とツィートした。「スター・トレック」の共演者ジョン・チョーは、「アントン・イェルチンのことが大好きだった。彼は真のアーティストだった。好奇心旺盛で、素敵で、勇敢だった。すばらしい友人、すばらしい息子だった。本当に辛い」と書き、ザッカリー・クイントは「僕たちの大切な友人。僕たちの仲間。僕たちのアントン。最も心がオープンで、知的な好奇心を持った人」というメッセージを、イェルチンの写真付きでツィートした。

「Like Crazy(日本未公開)」(2011) でイェルチンを監督したドレイク・ドレマス監督も、「Variety」を通じて、次のようなメッセージを送っている。

「アントンは特別な人だった。僕がこれまでに出会った中で、最も誠実かつファニーな人だ。地に足がついていて仕事熱心なアーティストとはどういう人なのかを、彼は僕に教えてくれた。彼の笑いは、世界で最高だった。周囲に伝染する、ほっとするような笑い。誰かがイライラしていたり、まじめになりすぎたりしている時はとくに、彼は、わざと笑わせるようなことをしたものだ。アントンは、いろいろな意味で、僕の人生を変えてくれた。彼のことは決して忘れない。とてつもなく悲しいこの日、『Like Crazy』のファミリーは、アントンのご家族にお悔やみを申し上げます」。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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