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アントン・イェルチン死亡事故:フィアット・クライスラー、集団訴訟される

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX FEATURES/アフロ)

今月19日(日)、アントン・イェルチンが、愛車のジープ・グランドチェロキーと門の郵便受けに挟まれて死亡した事件を受け(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160620-00059016/)、ジープの製造会社であるフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が訴訟された。

原告は、カリフォルニア、フロリダ、オハイオに住む、2015年のジープ・グランドチェロキー所有者4人。自分たちと同じ状況にある人たちも代表する集団訴訟で、集団訴訟を専門とするシアトルの弁護士事務所が、米西海岸時間23日(木)、連邦裁判所に訴状を提出した。

イェルチンが所有していた2015年のグランドチェロキーは、シフトに欠陥があり、ドライバーがギアを「P」に入れたと思っても、実は「N」に入っていたという事例が多数確認されたことから、FCAはこの5月、リコールの通知を出している。だが、実際に修理が始まったのはイェルチンの事故が起こった直前で、通知を受け取っても、その時までに修理に出すことができていた人は非常に少なかったと見られる。イェルチンは、エンジンがかかったまま車を降りたが、その時、ギアは「N」に入っていた。イェルチンの自宅入り口から道にかけては傾斜になっており、車が勝手に動いたことで起きた事故だと考えられている。

訴状は、「自動車の安全機能で最も基本的なことのひとつは、シフトです。ドライバーが車を動かしたいと思う時まで、車は決して動いてはなりません。(中略)FCA US LLC(以下FCA)は、この基本的なルールを破りました」という文で始まり、イェルチンの事故が起こるまでに、300件以上の事故が報告されていたという事実を指摘。「この欠陥を直すのに、FCAは時間をかけすぎました。警告の手紙を出した時は、イェルチン氏にとって、遅すぎたのです。(中略)イェルチン氏を生き返らせることはできません。この欠陥車のために事故に巻き込まれたり、負傷したりした人たちの苦しみを失くすこともできません。しかし、この訴訟を通じて、原告は、FCAが、ただちに欠陥車の修理をし、シフトを交換し、BMWが取り付けているような安全装置をインストールして、これらの車の所有者に、欠陥のせいで受けた損害を補償することを要求します」と続けている。原告らは、陪審員による裁判を求めている。

イェルチンの事故以来、全米のジープのディーラーは、自分も同じ目に遭うのではとパニックした客の対応に追われているらしい。修理は、ソフトウェアをインストールするだけで、4時間程度で終わるということだが、すべてのディーラーで修理の準備が整っているわけではなく、7月まで対応できないディーラーもいる。現在対応できるディーラーも、60人が順番待ちに名を連ねていたりするため、ディーラーらは、とりあえずの対処として、事故を避けるためのアドバイスを客に提供しているとのことだ。

イェルチンの死亡証明書は、米西海岸時間22日(水)に発行された。死因は外傷による窒息で、死に至るまでの時間は短かったとある。捜査に当たった関係者も、イェルチンは、胸と頭を負傷しており、おそらく事故から1分以内に亡くなったと思われると語っている。イェルチンのグランドチェロキーの中から、ドラッグ、酒、処方薬などは発見されておらず、イェルチンにドラッグの使用歴はないと見られている。

イェルチンは、生後6ヶ月で、ソ連からフィギュアスケーターの両親と政治難民としてアメリカに移住した。ひとりっ子だった。最新作「スター・トレック BEYOND」は、来月22日北米公開予定で、20日にサンディエゴで行われるプレミアにも出席が予定されていた。このプレミアは予定どおり実施されるが、パラマウント・ピクチャーズは、22日にカンヌライオンズで行うはずだった「スター・トレック BEYOND」のイベントをキャンセルしている。これについて、パラマウントは、「私たちは、友人であるアントン・イェルチンが亡くなったことに、深い悲しみを覚えています。彼に敬意を表して、先に発表していましたカンヌライオンズでの『スター・トレック BEYOND』のイベントを、取りやめさせていただきます」と、声明を発表している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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