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銃を買うより中絶に厳しいアメリカで、人気コメディエンヌが過去の体験を告白

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
Netflix配信の「Chelsea」でも知られるチェルシー・ハンドラー(写真:REX FEATURES/アフロ)

Netflixでオリジナル番組「Chelsea」を持ち、映画「Black & White/ブラック&ホワイト」にも出演した人気コメディエンヌ、チェルシー・ハンドラーが、「Playboy」誌に衝撃的なエッセイを寄稿した。

妊娠中絶の経験があることは過去にも明らかにしていたが、「私の選択」と題するこのエッセイの中で、彼女は、一度ではなく二度中絶をしていることを告白。自分の行動が無責任であったと認めながらも、ハンドラーは、「41歳の今、あの子を生んでおけばよかった、とは思わない」「もし神様がいたとしても、神様は全員が出産することを望んだりはしないでしょう」と書いた。

アメリカ合衆国最高裁判所は、1973年に、妊娠を継続するかどうかを決めるのは女性のプライバシー権に含まれるとする「ロー対ウエイド」判決を出している。しかし、その後も、保守的な州は、中絶に対してさまざまな制限や規制をもうける州法を通しており、実際に中絶手術を受けることには、物理的にも、社会的にも、精神的にも、多くの困難がある。銃は許可証もなく簡単に買えるのに、中絶をするとなると、カウンセリングや、手術までの猶予期間を経なければならないと定める州が、多数あるのだ。そんな状況だけに、セレブリティであるハンドラーの正直な告白文は、大きな反響を呼んだ。以下に、抜粋を紹介する(エッセイの全文はここで読める:http://www.playboy.com/articles/my-choice-chelsea-handler

16歳で妊娠した時、私の未熟な脳に最初に浮かんだのは、中絶ではありませんでした。(中略)赤ちゃんを産めばいいじゃない、双子を産んで、語呂のいい名前をつけようか、なんて思ったのです。もちろん、まだ夜に帰宅するのに道に迷うような年齢で子供を産んで育てるなんて、ばからしいことでした。両親はそうわかってくれて、初めて親らしいことをしてくれ、私をプランド・ペアレントフッドに連れて行ってくれました。皮肉なことに、私は、中絶を受けることで、親に面倒を見てもらっている子供の気持ちを味わえたのです。(中略)

私が中絶したのは一度ではありません。同じ年に、二度やりました。相手の男は同じです。(中略)一度以上望まない妊娠をするのは、無責任です。それでも、よく考えて決定を下さなければなりません。(中略)41歳の今、「ああ、あの子を産んでおけばよかった」とは思いません。

ほかの多くの女性同様、私は、ロー対ウエイド判決のおかげで、間違った関係のもとに生まれた子供を育てることなく生きることができています。40年以上、私たちを守ってくれたこの法律を覆すという、できもしない約束をする政治家には、腹が立ちます。キリスト教の権利だとかなんだとか言って、守れない約束を言ってみせることに(ところで、もし神様がいたとしても、神は私たち全員が出産することを望んではいないと思います。)クリニックを閉鎖に追い込んだり、女性が中絶手術を受けられないような法律を通過させたりして、ロー対ウエイドの力を衰えさせようとすることには、もっと腹が立ちます。(中略)

この件に関して、アメリカが合意に達することは、たぶんないでしょう。でも人種差別や性差別と同じです。人種差別をする性格に生まれている人は、人種差別的なことを考えるでしょう。でもそれを行動に出すかどうかは別問題です。(中略)妊娠中絶は正しくないと思うのはかまいません。でもそれはあなたには関係のない問題です。私たちが決めることです。

この地球には73億人が住んでいます。慎重に考えて、自分は親にならないと決めた人は、賢い決意をしたと褒められるべきです。悪い親になる人ならとくに。私は悪い親になっていたと思います。(以下略)

このエッセイに対しては、「ひどい話。私は中絶の権利を認める派だけれど、中絶を避妊の代わりにした自分の経験を公表するなんて、セレブリティのやることとして最悪」「お腹の子をふたりも殺して全然後悔していないって?信じられない」「ウミガメやその卵、白頭鷲やその卵を傷つけるのは違法なのに、人間の胎児を殺すのは合法なんて、この世の中は間違っている」など、強い批判が寄せられた。一方で、「16歳で子供を産んでいたら彼女はどうなっていたと思う?どんな仕事に就けたと思う?どんな暮らしをしたと思う?子育てのお金を得られたと思う?」「人が彼女をひどく批判していることに驚かされている。彼女は自分にとって正しいと思ったことをしただけで、幸いにもそれが合法な国に住んでいる」「彼女は自分のおかしたミスについて語っているだけ。後悔しているけれど、選択肢があったことに感謝している。誇りには思っていない。彼女はこの問題に焦点を当てたいだけだ」など、弁護する声もある。「このような事態を避けるために、避妊教育を徹底すべきだ」「中絶しなくても養子縁組に出すという方法もある」といったような、中立かつ当然な意見も多数見受けられる。

これらの熱いコメントを見るかぎり、「問題に焦点を当てる」目的は、達成されたと言えるだろう。しかし、ハンドラー自身が言うとおり、この件に関してアメリカが合意に達することは、おそらくないだろうとも、あらためて感じさせられる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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