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「ゴーストバスターズ」レスリー・ジョーンズに差別と嫌がらせコメントが殺到

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「ゴーストバスターズ」をめぐる論争が、終わらない。映画の北米公開直後から、主要キャストのひとりレスリー・ジョーンズのもとに、差別や嫌がらせのツィートが相次ぎ、ジョーンズは、アメリカ時間18日(月)夜、ついにツィッターをやめると宣言したのだ。「今晩、涙とともにツィッターを離れることにしました。すごく悲しい気持ちです。私がひとつ映画をやったせいでこんなことになるなんて。映画が嫌いというならしょうがないけれど、私がこんな仕打ちを受けるのは、間違っています」とジョーンズは書いている。

この決断を下すまで、ジョーンズは、それらの差別コメントをまめにリツイートしていた。実際、それらの多くは、信じられないくらいひどい。堂々とNワードを使っているものや、彼女をゴリラになぞらえたもの、下品なイラストもあり、吐き気を覚えるほどだ。

ジョーンズは、最初、「こういうことを書く人にもお母さんやお姉さんやおばさんがいるんだと思うと、本当に嫌な気分」「他人を嫌うこんなメッセージを書く人は、きっと自分が嫌いなんでしょうね。最悪な日でも、私はこんなメッセージを送ろうとは思わないわ」などと強気に対抗を続けていたが、ある段階から、「もう何も感じられない。麻痺してきました。これらの写真やビデオを投稿するのに、この人たちは、実際、時間をかけているんですよね」「どうしてツィッターをやらないセレブがいるのか、前はわからなかったけれど、今、わかりました。ファンと素敵なコミュニケーションを取ろうと思っても、できなかったりするんですね。クレイジーな人たちがいるから」「俳優は人間じゃないと思っているのかもしれないけれど、考えてみて」となどと、辛い気持ちをにじませるようになった。それでも、「人種差別がないと思うほど私はバカじゃない。私が死んだ後にも、差別はあるでしょう。でも、人に、責任のある行動を取ってもらうようにするべき」「無視すればいいよ、世の中はこういうものだ、というのはやめて。そんなバカげたことはないわよ」と、立ち上がっている。

その間、ジョーンズは、特定のアカウントをブロックしたりするなど努力もしたようだが、別の誰かがジョーンズになりすまして彼女の名前で差別コメントを投稿するなど、事態はますます悪化していった。最後のほうでは、「ツィッターへ。言論の自由はわかるけれど、ある程度のルールはないの?こういうのを拡散して平気なの?」と、ツィッターに対しても抗議をしている。この一連の騒ぎを見て、「ゴーストバスターズ」の監督ポール・フェイグは、米時間18日(月)夜、#LoveForLeslieJのハッシュタグとともに、「レスリー・ジョーンズは、僕が知る最高の人間のひとり。彼女への個人攻撃はすべて、僕ら全員への個人攻撃を意味する」と、ジョーンズを支援するツィートを送った。#LoveForLeslieJは、たちまちツィッターのトレンドの上位に入ったが、それからまもなく、ジョーンズは、ツィッターをやめる決意をしている。

女性コメディアン4人で80年代の人気映画をリブートするこの企画には、発表当時から、ネガティブな反応が寄せられた。しかし、先週末公開されると、映画は北米で4,600万ドルを売り上げ、今やヒットメーカーコンビとなったフェイグとメリッサ・マッカーシーのどちらも、これでキャリア最高の公開初週末成績を達成している。Rottentomatoes.comによると、批評家の73%が褒めており、観客の感想調査もBプラス、若い世代だとAマイナスで、決して悪くない。こんなふうに「爆発的ではないがヒットで、評価もそこそこ良かった」という映画だと、普通、いつまでも論議されたりしないものなのだが、この映画の場合、筆者の周囲のジャーナリスト仲間の間でも感想が大きく分かれ、ネガティブな意見も聞かれる。筆者はどうかというと、最初のシーンから爆笑続きで、こんなに笑ったことはしばらくないというくらい笑わせてもらった。すごく楽しい映画で、何より、この4人の女性たちが最高だ。リース・ウィザスプーンも、映画のスチール写真とともに「この映画、最初から最後まで楽しかった。この女性たちは私のヒーローよ」というツィートをしている。

このリブートは、もちろんシリーズ化を念頭に入れてなされたものだが、実際に続編が作られるかどうかは、今後、北米や海外で数字がどこまで行くかを見てから決められると思われる。映画も、彼女らの本当の活躍はまだまだこれから、と感じさせる終わり方になっているし、公開前には、マッカーシーが、次もぜひやりたいという発言をしている。撮影現場が本当に楽しかったというのは、フェイグやほかのキャストも語っているところで、みんなマッカーシーに同感だろう。

続編が作られなくなった場合、その理由が数字なのだとしたら、しかたがないことだ。だが、一連の嫌がらせのせいで、ジョーンズがやる気を失ってしまったのであれば、そんなに悲しいことはない。そして、もしそのことを喜ぶ人たちがいるのだとすれば、本当に心が暗くなる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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