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アントン・イェルチンの両親、フィアット・クライスラーを訴訟のかまえ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX FEATURES/アフロ)

今年6月19日、自宅で自分の車に押しつぶされて亡くなったアントン・イェルチンの両親が、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)を訴訟する準備を進めているようだ。イェルチン夫妻は、自動車部品メーカーZFの北米支社、および自動車販売チェーンのオート・ネーションも訴訟するつもりでいるらしい。E!ニュースによると、訴状は、米西海岸時間明日(火)午前11時、ロサンゼルス高等裁判所に提出される予定とのことだ。

イェルチンの愛車だった2015年のジープ・グランドチェロキー・ラレードは、Eシフトに問題があり、今年4月までの段階で、多くの事故事例が報告されていた。FCAは、5月にリコール通知を出したが、実際に修理作業が始まったのは、イェルチンが事故に遭う直前で、事実上、対象車を所有するほとんどの人は、修理に持ち込むことができていなかった時期だった。

このシフトレバーの問題は、ドライバーがPに入れたと思っても、実際にはNに入っていたりすること。事故の起きた夜、イェルチンは、一度車を出したが、家の前の傾斜になっている場所で、なんらかの理由で車を降りたところ、車が動き出し、車と門の郵便受けに体を挟まれた。ギアはNに入っていた。イェルチンの事故死の5日後には、カリフォルニア、フロリダ、オハイオ州に住む2005年のジープ・グランドチェロキーの所有者4人が、FCAに対する集団訴訟を起こしている(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160624-00059210/)。

イェルチンの葬儀は、6月24日に、近しい人たちだけで行われたようだが、場所や出席者は明らかにされていない。イェルチンの遺作となった「スター・トレック BEYOND」が北米公開される数日前、イェルチンの両親は、「Hollywood Reporter」に全面広告を出した。広告の中で、夫妻は、「お花やプレゼントを贈ってくださったみなさま、お悔やみのお言葉をありがとうございました。私たちの愛する息子アントンの人生を祝福するため、足を運んでくださった方々にも、感謝します。あなたたちが息子を愛してくださったことを、心からありがたく思っています。自分がどれほど多くの人に愛されていたかを知って、彼は驚いていることでしょう。ありがとうございました」と書いている。

先月20日、サンディエゴで行われた「スター・トレック BEYOND」のプレミアでは、J・J・エイブラムスが、イェルチンのために黙祷を捧げた。エイブラムスはまた、「Toronto Sun」へのインタビューで、イェルチンが演じたチェコフをほかの俳優にやらせるつもりはないことも明らかにしている。「誰かに代わりをやらせるなんて、想像できない。それはアントンに対して失礼だ」と言うエイブラムスは、4作目までの間にチェコフが死んだことにするのか、どこかに行ってしまったことにするのかなどについては、これから考えるところだと語った。

一方、ポルシェを相手取った故ポール・ウォーカーの娘ミドゥ・ウォーカーの訴訟は、まだ続いている。

2013年11月30日、ウォーカーと、友人でビジネスパートナーのロジャー・ロダスが事故死した事件では、ミドゥのほかにウォーカーの父ポール・ウォーカー・Sr.、ロダスの妻などが、それぞれにポルシェを訴訟した。事故当時、車はロダスが運転し、ウォーカーは助手席に座っていた。ロダスの妻の訴訟は、今年4月、裁判所に棄却され、ポルシェの勝利に終わっている(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160407-00056332/)。ポルシェは、同社は直接カリフォルニアと直接関係がないとして、ロサンゼルス高等裁判所に出されたミドゥによる訴訟の棄却を嘆願していたが、先月、裁判長は、たとえ業者を通じてであってもポルシェがカリフォルニアで多くの収益を上げていることは明白であると述べ、ミドゥはこのまま訴訟を続行できるとの判決を下した。裁判所は、ミドゥ、ウォーカーの父、そのほかの人々によるいくつかの訴訟をまとめるべきかどうかについても判断しようとしているようだ。

ミドゥは、事故の原因はポルシェのデザイン上の欠陥にあると訴えているが、運転手のロダスにも一部の責任はあるとして、ロダス側から、1,010万ドル(約10億3,400万円)を受け取っている。この示談は2014年になされていたらしいが、表沙汰になったのは最近だ。1,010万ドルのうち、ミドゥが受け取るのは720万ドルで、残りは弁護士の取り分とのことである。弁護士は、ウォーカーが今も生きていた場合に稼ぐ金額に比べたら、これはあくまで小さな金額にすぎないとコメントしている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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