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メル・ギブソンの元恋人、ラジオ出演のせいで5,000万円を失う

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX FEATURES/アフロ)

たった数分、目立ったことの代償は、高かった。ラジオ出演は秘密保持の約束に反するものだと判断され、メル・ギブソンの元恋人オクサナ・グリゴリエヴァは、もらえるはずだった50万ドル(約5,000万円)をもらえなくなってしまったのである。

2011年8月、ギブソンは、彼の娘を産んだグリゴリエヴァに、合計75万ドル(約7,500万円)を払うことに合意した。ただし、ギブソンによるDVに関することは、今後いっさいしゃべらないという条件付きだ。支払いは3回に分けて行われ、1回目はこの合意が成立した直後、2回目は2013年9月15日、3回目は2016年1月1日と決められた。

しかし、2013年5月21日、グリゴリエヴァは、毒舌で有名なトーク番組ホスト、ハワード・スターンのラジオ番組に出演。番組の中で、スターンは、ギブソンが暴言を吐く録音音声がメディアに出たことに触れ、「(あの音声は)50回くらい聴いたよ。信じられなかった。女性をあんなふうに扱うなんて。それも、自分の子供の母親だよ」と、ギブソンを非難した。グリゴリエヴァは、スターンに「僕はずっと君の味方だ」と言われてうれしそうに「言葉になりません」と言った程度で、たいしたことは言っていない。

彼女がこのインタビューに出たことを知ったギブソンは、これは約束違反だとして、2回目の支払いを拒否した。裁判ではギブソンの勝訴となり、グリゴリエヴァは控訴していたのだが、控訴裁判所もギブソンの言い分を認め、2回目、3回目の支払いはしなくていいとする判決を出したのである。判決は、「この条件は、グリゴリエヴァが他人の発言までをもコントロールすることは要求していない」と認めながらも、「スターンによる『君が耐えてきたこと』というようなコメントに乗っかり、実際にギブソンがDVを行っていたとほのめかすのは、この約束に反するものだ」と述べている。

グリゴリエヴァは、この75万ドルは養育費だと訴えたが、ギブソンは月2万ドル(約200万円)の養育費を別に払っており、裁判所は認めなかった。2011年の合意では、このほかに、娘が18歳になるまでグリゴリエヴァと娘はギブソンの所有する家に住むことができ、家の修理費なども、1回5,000ドルまではギブソンが負担することなどが取り決められている。

グリゴリエヴァの自業自得は、これが初めてではない。

そもそも、グリゴリエヴァが雇った弁護士は、彼が暴言を吐く録音音声を公表しないことを条件に、ギブソンに1,500万ドルを支払わせる合意を取り付けたのである。しかし、あの音声を公開すればもっとお金を取れると思ったのか、土壇場になって、グリゴリエヴァはこの契約を反故にした。そして彼女は別の弁護士ふたりを立てて裁判所で勝負に挑んだのだが、その結果、彼女が受け取れる金額は75万ドルが妥当とされてしまった。さらに、裁判所は、ギブソンが娘を訪ねる権利ももっと与えるなど、彼女にとっては、余計な時間をかけて、かえって悪い結果となったのである。

すべては弁護士が悪かったのだと、グリゴリエヴァは、後に、このふたりの弁護士を訴訟している。一方、1,500万ドルの合意を取り付けた弁護士は、金額の10%をもらえることになっていたのに、彼女が反故にしたせいで自分は何も受け取れなかったと、グリゴリエヴァを訴訟した。

一連の争いの間、次々に違った弁護士を雇ってはクビにしたりしたことから、負債が43万ドルにも上ってしまい、2014年、グリゴリエヴァは個人破産を申請した。また今年3月には、ギブソンからの月2万ドルの養育費を10万ドルに上げさせてほしいと、裁判所に嘆願もしている。グリゴリエヴァには、ティモシー・ダルトンとの間に生まれた長男もおり、ダルトンからも月2,500ドルの養育費をもらっている。

「ブレイブハート」でオスカー監督賞を受賞し、続く監督作「パッション」「アポカリプト」も大ヒットさせて業界内の尊敬を集めたギブソンだが、2006年、飲酒運転で逮捕された時にユダヤ人差別発言をしたことで、大きなイメージダウンを受けた。そこから立ち直る間もなく、グリゴリエヴァとの醜い争いが起き、長く引きずることになっている。ここ2、3年は、「エクスペンダブルズ3」と「マチェーテ・キルズ」に脇役で出たが、いずれもヒットしていない。

しかし、12日には、久々の主演作「Blood Father」が北米公開される。5月のカンヌ映画祭で公開されたアクションスリラーだ。その次の監督作「Hacksaw Ridge」にも、期待が寄せられている。第二次世界大戦の沖縄を舞台にした伝記もので、出演はアンドリュー・ガーフィールド、ヒューゴ・ウィービング、ヴィンス・ヴォーン、サム・ワーシントンなど。ヴェネツィア映画祭でプレミア、北米公開は11月というスケジュールを見る限り、アワードシーズンで健闘を狙っていると思われる。その後には、オックスフォード英語辞典の作成についての実話を描く「The Professor and the Mad Man」で、ショーン・ペンと共演することも決まっている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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