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最近ごぶさたのオルセン姉妹、実は別のところで大活躍。女優の副業が本業になる時

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
今年のMETガラに出席したアシュレイ(左)とメアリー=ケイト姉妹(写真:REX FEATURES/アフロ)

メアリー=ケイト&アシュレイ・オルセンが、7月末、L.A.のど真ん中に、自らのファッションブランド“Elizabeth and James”の旗艦店をオープンした。これまでにもデパートやセレクトショップには入っていたが、このブランドの直営店ができるのは初めてのこと。しかも、場所は、L.A.で最も人気のあるショッピングエリアのひとつ“ザ・グローヴ”の、中央噴水の真ん前だ。

ショップには、姉妹がデザインした服のほかに、ふたりが好むもの、インスピレーションを受けるものなどが置かれている。たとえば、店を入ってすぐ左の壁には着物がディスプレイされ、中央のテーブルには和紙を使ったステーショナリーやセンスのいいソープ、棚にはいくつかの本などが並べられている。彼女らが厳選したヴィンテージのTシャツも売られている。

服の価格帯は、ジーンズが250ドル程度、ワンピースが300ドル台あたりで、姉妹のもうひとつのブランド“The Row”より、手が届きやすい。“The Row”の直営ブティックは、ニューヨークとL.A.にあるが、これまた最高に賃貸料が高いロケーションだ。

L.A.のザ・グローヴにオープンしたElizabeth and James
L.A.のザ・グローヴにオープンしたElizabeth and James

セレブがファッショニスタとしてもてはやされ、企業とコラボして自分の名前を冠したラインを出すのは、よくあること。最近でも、サラ・ジェシカ・パーカーとキャメロン・ディアスが、それぞれに企業とコラボをして靴のブランドを立ち上げている。過去には、スーパーモデルのクリスティ・ターリントンがプーマとヨガウェアのラインを始めたし、ハイディ・クラムもスキンケアブランドをデビューさせた(いずれもだいぶ前になくなっている)。マドンナと娘も、企業コラボのブランド “Material Girl”をスタートさせている。

おしゃれなイメージをもつ人気女性セレブとくっつくのは、企業にとって、簡単かつ華やかな新事業だ。セレブ側にとっても、自分のブランドを持ってみたいという夢を、それほどリスクなしに実現できる、おいしい方法である。

しかし、オルセン姉妹は、外から見れば副業であるはずのものを本当のビジネスにしてしまった、数少ない例だ。

赤ちゃんの時にテレビ番組「Full House」でデビューし、視聴者が見守る前で育っていったこの双子姉妹は、番組が終了する頃には、1話あたり8万ドル(約800万円)のギャラを稼ぐまでになる。6歳の時、彼女らのビジネスを管理する弁護士がCEOを務める彼女らの会社デュアルスター・エンタテインメントが創設され、数多くのストレート・トゥー・ビデオ作品がリリースされた。全部で47本出たそれらのビデオは、合計で7億5,000万ドルを稼いでいる。18歳になってからは、姉妹がこの会社のCEOに君臨している。

だが、人気の頂点にあった2004年、ふたりが主演とプロデューサーを兼任した劇場用映画「New York Minute(日本未公開)」は、3,000スクリーン規模で北米公開された映画としては史上最低の1,400万ドルしか売り上げられないという大恥に直面した。製作費は、その倍以上の3,000万ドルで、大赤字だ。以後は、いくつか小さな映画に、ほぼ話題にならない形で出演したにとどまっているが、その間、彼女らは、ファッションデザインに本当の情熱を見つけ、そのキャリアを築き上げてきていたのである。

姉妹が初めてビジネスとしてのファッションに関わったのは、ふたりが15歳だった2001年。安売り店ウォルマートとのコラボで、スポーツウェア、水着、靴、バッグ、ジュエリーなどを展開した。2006年、ふたりはバッジェリー・ミシュカの広告キャンペーンにモデルとして登場。同年、高級ライン“The Row”をデビューさせる。そして2007年には、“Elizabeth and James”がデビューした。このブランド名にある“エリザベス”は、ふたりの妹で、「GODZILLA ゴジラ」「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」などでおなじみの女優エリザベス・オルセンに由来するものである。筆者がエリザベス・オルセンをインタビューした時も、彼女は「一番好きなブランドはElizabeth and James。毎日このブランドを着たいくらいよ」と、姉たちのビジネスを応援していた。

今年、Netflixが、まさか今さらと思われるタイミングで「Full House」の続編「Fuller House」のストリーミングを開始したが、オルセン姉妹は、カメオ出演すらも断っている。ふたつのブランドを本当に自分たちの手で経営していくならば、もちろん、そんな時間はないだろう。つまり、今の彼女らにとっては、ファッションデザインが本業ということなのだ。

最初は副業に見えたものが本業になったという例は、ほかにもいくつかある。代表は、グウィネス・パルトロウのgoop.com。当初、彼女は、このサイトを立ち上げたことについて、「私は、ありがたいことに、世界のいろんな素敵なところで素敵なものに触れられる立場にある。それをみなさんとシェアしたいのよ。お金は、儲からないどころか、自分でコストを払うから、損している」と語っていた。だが、今ではサイトを通じておすすめ商品の販売も行っているほか、各ブランドとのエクスクリューシブなアイテムの制作も行い、大きな収益を上げている。また、goopは最近、北カリフォルニアのオーガニックスキンケアブランド“Juice Beauty”と投資契約を結び、パルトロウがメイクアップ部門のクリエイティブ・ディレクターに就任した。彼女も、女優としてはかなりごぶさた。「アイアンマン」や「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」(2015 )には出たが、どう考えても、もはや女優が副業である。

一方、ジェシカ・アルバは、第一子が生まれた時に、自分の望むような、安全かつおしゃれなベイビー用品ブランドがないことに不満を抱き、“Honest Company”を設立した。このブランドは急成長し、今では大手スーパーにも入っている。今年のうちに株式公開も見込まれていたが、表示に偽りありとの民事訴訟が起きたこともあって、ストップがかかった(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160313-00055371/)。このブランドから派生したコスメブランド“Honest Beauty”は、初のブティックを、“Elizabeth and James”と同じザ・グローヴに最近オープンしたのだが、数日前に筆者がチェックしたところ、この店は潰れてしまっていた。そんな障害があってもブランドの知名度は伸び続け、スクリーンでアルバを見ることは、あいかわらずほとんどないままだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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