Yahoo!ニュース

マイケル・キートン、65歳に。今、キャリアは絶好調

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
先月、”ウォーク・オブ・フェーム”の式典で祝福を受けたキートン(写真:REX FEATURES/アフロ)

マイケル・キートンが、今月5日、65歳の誕生日を迎えた。現在、「スパイダーマン:ホームカミング」を撮影中の彼が、この日をどのように祝ったのかはまだわかっていないが、すばらしい気分でいることは、間違いないだろう。

長いキャリアをもつキートンは、昨年、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で人生初のオスカー候補入りを果たし、今年も、作品賞に輝いた「スポットライト 世紀のスクープ」の主要キャストとして、アカデミー賞授賞式に出席した。先月は、ついに、ハリウッドの“ウォーク・オブ・フェーム”に、星に入った名前が遺されることにもなっている。次回作は、マクドナルドの創設者レイ・クロックを演じる「The Founder」。還暦を過ぎた今、彼のキャリアは、最も華やかなステージを迎えているのだ。

キートンはペンシルバニア州出身。7人兄弟の末っ子に生まれた。スタンドアップコメディアンを目指すが芽が出ず、ペンシルバニアのテレビ局で職を得る。その後、L.A.に移住し、1982年からテレビのコメディ番組に出演。ロン・ハワードが監督した番組「Night Shift」にも主演した。

そして88年、ティム・バートン監督の「ビートルジュース」に主演し、世界的スターとなる。今作には、ウィノナ・ライダー、アレック・ボールドウィン、ジーナ・デイヴィスら、当時勢いに乗っていた俳優が出演していた。翌89年には、やはりバートンが監督する「バットマン」で主役の座を得る。続編「バットマン リターンズ」にも主演するが、その後は、ぱっとしない時期が続いた。リンジー・ローハン主演の「ハービー/機械じかけのキューピッド」(05)や、「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」(10) などには出たものの、しばらくの間、ほぼ忘れられていたのは、否めない。

だが、過去にスーパーヒーローを演じた俳優が、ブロードウェイで舞台劇を演出し、キャリア復活を図る姿を描く「バードマン〜」で、大きな転機を得る。そもそも、かつてバットマンを演じた彼がこの役を演じること自体が、皮肉であり、屈辱と感じてもおかしくはなかったのだが、彼はあえてこのチャレンジを受け、見事、成功を収めてみせたのだ。筆者は、今作がニューヨーク映画祭で上映された時に取材をしているが、映画が絶賛されている気分を聞かれて、本当に満足そうに「最高だね」と言った時の表情を忘れない。その一方で、「意外に聞こえるかもしれないが」と前置きし、自分はこのキャラクターに、とくに共感も覚えなかったとも明かしている。彼がこの映画に惹かれたのは、以前から尊敬していたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの作品だったからなのだ。

「まるで役者をやる気にならなかった時期が、かなり長く続いていたんだ。自分がやっていることを、おもしろいと思わなくなっていたのさ。積極的に脚本を読むこともしていなかったし、心を惹かれるオファーももらわなかった。でも、何か良い話が来るまで、ある程度は業界と関わりを持っていないといけないから、少しは外に出てちょっとしたことはやっていたよ。ラッキーなことに、経済的にはなんとかなった。僕は半分スコットランド系だから、金の管理は得意なのさ(笑)。とにかく、僕は、心が本当にときめくような作品に出たかった。良いストーリー、良い共演者、良い監督。アレハンドロは、すばらしい監督だ」(キートン)。

しかし、仕事にかける情熱が冷めていた時期も、彼が過去に人々に与えた影響は、失われていなかった。「バードマン」をニューヨークのタイムズスクエアで撮影していた時、キートン自身が、そのことをあらためて実感している。

「撮影中に、クルーのひとりが、『ちょっと、これを見てくださいよ』と、たまたまそこにいた一般人男性を連れてきたんだよ。その男性は、上腕から手首にかけて、びっしりと『ビートルジュース』のタトゥーを入れていた。これはすごいと感心したが、その男性は、僕が何者か、気づかなかったんだ。『なぜこいつが俺のタトゥーを見たいのか、わけがわからない』という感じだった。そして、『仕事に行かなきゃならないんで』と、バイクにまたがって去っていったよ。あれはすごくおかしな出来事だったな」(キートン)。

来年公開の超大作「スパイダーマン」の後には、スリラー映画「American Assassin」が決まっている。今、また大忙しだが、いろいろな時期をくぐり抜けてきた彼は、この状態を当然のこととは受け止めていない。

「俳優には、良い時期もあれば、悪い時期もある。やはりこの道を選んだ息子にも、よく言うんだよ。『時の人』と呼ばれることもあれば、脇道にそれることもあるし、人気が落ちることもある。でも、彼がやりたいことをやっているんだから、父としては、それを喜ぼうとも思っているよ」(キートン)。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事