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シャイア・ラブーフが電撃結婚。“スピルバーグの秘蔵っ子”がたどった波乱の道のり

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
主演作「American Honey」でカンヌを訪れたラブーフ(写真:REX FEATURES/アフロ)

シャイア・ラブーフが、珍しく良い話でニュースを沸かせた。

米国時間10日(月)、ラブーフが、イギリス人女優ミア・ゴスとラスベガスで結婚したことが報道されたのだ。ふたりは「ニンフォマニアック」(2013)の撮影で出会っており、つきあいは長い。それでも、ここ数年、ラブーフに関するニュースは、たいてい、警察沙汰か、奇怪な行動についてだったので、なんとなく安堵感を持った人も、少なくないだろう。

14歳でディズニー・チャンネルの「Even Stevens」に主演し、「アイ、ロボット」(2004)「コンスタンティン」(2005)などの映画に出演した彼が“時の人”となったのは、2007年のこと。この年、ラブーフは、スティーブン・スピルバーグが製作する「トランスフォーマー」と「ディスタービア」で主役を演じる。翌年の「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」でもハリソン・フォードの次に重要な役を獲得。同年の主演作「イーグル・アイ」もドリームワークス作品で、すっかり“スピルバーグの秘蔵っ子”の肩書きを手に入れていた。この時、ラブーフは22歳。筆者は彼が20歳の頃から何度か取材しているが、当時、自分の成功について聞かれると、かなり冷めた感じで「僕は、とんでもなく運が良いだけだよ。なぜなのか自分でもわからない」と語っていた。

ラブーフは、L.A.の貧しい家庭の出身。「君が想像するレベルよりもずっとひどい貧困」だそうで、ラブーフは、当時、「演技を始めたのも生活のためだった」と告白している。ドラッグ中毒の父が彼にマリファナを試させたのは、彼が11歳か12歳の時だ。

2009年、「ウォール・ストリート」(2010)の北米公開前のインタビューで、「俳優になっていなかったら何になっていたと思いますかと聞かれると、彼は「わからない。犯罪者かな」と答えている。「たぶん、そうなっていたと思うよ。僕は、通った学校すべてで退学処分を受けているんだ。ほかにチャンスはなかったんだよ。僕の選択肢は、犯罪か撮影現場だけだった」と、これまた冷めた調子で語ったのは、今も強く印象に残る。

オリバー・ストーン監督からこの映画のオファーを受ける少し前、ラブーフは、私生活でトラブルに直面していた。2008年夏、ラブーフは、深夜のL.A.で赤信号を突っ切ってきた車にぶつけられ、彼の運転する車は廃車になっている。だが、事故当時、ラブーフも飲酒をしていたことが発覚し、彼は1年間の免停処分を受けた。この事故で、彼は、手にかなり大きな怪我を負い、その状態で「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」の撮影を続けなければならなかった。

そんなことが起こった後だったからこそ、ストーンが、シリアスな映画の重要な役をオファーしてくれたのは、ありがたかったのだ。「僕は、すごく暗いところにいたんだ。僕は23歳で、飲酒運転をして事故を起こしてしまった。でも、人間は失敗も起こすもの。僕も失敗を起こしてしまったというにすぎない。オリバーが突然ミラクルを与えてくれたわけではないよ。でも、彼は、僕に、『お前はバカだ。ちゃんと勉強しろ』と言ってくれたんだ。オリバーは、どんな先生よりも、僕に教育と良い影響を与えてくれたよ」。

「ウォール・ストリート」では、共演のキャリー・マリガンとのロマンスも花咲いた。しかし、その恋が1年ほどで破局すると、彼はまた問題行動を起こすようになる。2011年にはL.A.のバーで別の客と喧嘩騒ぎを起こし、駆けつけた警察に手錠をかけられた。それからまもなく、近所の別のバーで、壁に向かって立ち小便をし、出入り禁止を食らっている。そして2014年6月には、ニューヨークで、ミシェル・ウィリアムズとアラン・カミングが出演するミュージカル劇「キャバレー」の上映中に場内でタバコを吸い、突然大声で叫びだして、刑務所に入れられることになるのである。

同じ年のベルリン映画祭で「ニンフォマニアック」のプレミアが行われた時、彼は、頭に紙袋をかぶってレッドカーペットに登場している。その紙袋には「I AM NOT FAMOUS ANYMORE(僕はもはや有名ではない)」と書かれていた。その少し前には、彼が監督した短編映画「Howard Cantour.com」が盗作だったことが発覚。これは自分の作品の盗作だとするグラフィックノベル作家ダニエル・クロウズの主張をラブーフは認めたが、スカイライターを使ってL.A.の空に雲で「ダニエル・クロウズ、ごめんなさい」と謝罪メッセージを書かせたのがこれまた奇妙で、人は眉をしかめている(クロウズはサンフランシスコ在住である)。

しかし、その間も、彼の演技の才能を買う監督は絶えなかった。「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」(2011)以来、メジャースタジオの娯楽大作からは遠ざかっているが、カンヌ映画祭で上映された「欲望のバージニア」(2012)ではトム・ハーディ、ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラークらと共演し、2013年にはラース・フォン・トリアーの「ニンフォマニアック」、翌2014年にはブラッド・ピット主演作「フューリー」に出演している。「フューリー」のデビッド・エアー監督は、彼に、「スーサイド・スクワッド」(2016)への出演話も持ちかけたそうだ。その役は結局、別の俳優に行ったが、今年のカンヌ映画祭でプレミアされたアンドレア・アーノルド監督(『Fish Tank』/日本未公開)の最新作「American Honey 」で見せた演技には、彼のキャリアで最高と言ってもいいほどの絶賛が集まっている。現在撮影中のインディーズ映画「Borg/McEnroe」での役は、伝説のテニス選手ジョン・マッケンローで、これまた期待を感じさせる。

2009年のインタビューで、彼は、「僕は、自分自身よりずっと大きい映画に出てきた。僕が出なくても成功したに違いない映画に」と語っている。先月、ラブーフは、「Variety」に対し、自分と仕事をするようになった頃のスピルバーグは、監督というよりむしろ企業だったと、彼を批判する発言をした。「スピルバーグと作った僕の映画は、どれも好きじゃない。唯一好きなのは、最初の『トランスフォーマー』だけ」ともつけ加えている。

その発言の是非はともかく、今の彼が、自分の考えで自分の力を試そうとしているのは、たしかだろう。月曜日の結婚式の費用も、700ドル(約7万円)程度と、ハリウッドスターの世界からはほど遠いものだった。彼は、今、原点に戻ったのかもしれない。ちょうど30歳という節目の歳を迎えた彼は、これからどんな人生を描いていくのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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