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「スター・トレック」のクリス・パイン:「ラーメンはシンプルな豚骨に限る」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX FEATURES/アフロ)

運が良い俳優は、キャリアを大きく変える運命の役に巡り合うことがある。そのイメージが強くつきすぎてしまうという弊害が起こることも時にあるものの、そういったチャンスをもらえたことを後悔する俳優は、ほとんどいないだろう。

クリス・パインの場合、それは「スター・トレック」だった。「プリティ・プリンセス2/ロイヤル・ウェディング」(2004)でアン・ハサウェイの、「Just My Luck」(2006;日本未公開)でリンジー・ローハンの恋のお相手役を演じたパインは、2007年、J・J・エイブラムスがリブートする「スター・トレック」(2009)で、キャプテン・カークの役を得る。以後、彼は主役級となり、「エージェント:ライアン」(2014)や「ザ・ブリザード」(2016) などの作品で主人公をオファーされることになった。

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残念ながら、この2作品はいずれもぱっとしなかったが、この夏、彼が3度目にカークを演じた「スター・トレック BEYOND」は、全世界で3億4,000万ドル弱を稼ぎ、批評家からも温かく受け入れられている。4作目のゴーサインも早々と出た。

筆者がパインを単独インタビューしたのは、彼が次回作「ワンダーウーマン」を撮影していたロンドン。「スター・トレック BEYOND」の北米公開より前で、共演者アントン・イェルチンが亡くなることなど、想像もしなかった頃である。カジュアルながらさりげなくおしゃれな服装で知られる彼は、このインタビューで、ファッションへの興味や、アルマーニのメンズ香水の顔を務めること、さらに、いつかレストランをオープンしてみたいという夢について語ってくれた。

役を得た時から数えると、あなたはキャプテン・カークを9年も演じてきたことになりますね。カークと一緒に成長していった感じですか?

それは言えるかもね。俳優は、自分が演じるキャラクターと自分自身を完全に分けることができないものだから。今の自分が持つものをキャラクターに持ち込むのが、俳優の仕事だ。だが、カークは、この3作で、違ったふうに書かれてきている。1作目は、彼というキャラクターの基盤、つまり、スタート地点を設定するものだった。その頃の彼は、怒りを抱えていた。自分を証明したいとも思っていた。でも、時間がたった今、彼はずっと落ち着いている。今の彼は、静かに周囲を見渡して、自分はまだここにいたいのだろうかと、ふと思ったりする。これは本当に自分がやりたいことなのかと。

今作では、スコティ役で、長年の「スタトレ」おたくでもあるサイモン・ペグが脚本を担当しています。そう決まった時、あなたのほうから、自分の役について、サイモンに何か要望は出しましたか?

サイモンは、すごく早い時期に、「君たちのキャラクターについて何かアイデアがあったら教えてくれ」と僕らに言ってきたよ。でも、僕は脚本家じゃないから、「がんばってね」と言っただけだ。サイモンが脚本を書いてくれたのは良かったよ。僕らは毎日一緒に撮影現場にいるわけだから、質問があれば、すぐ彼に聞くことができた。実をいうと、何年も前に、J・J(・エイブラムス)に、テレビシリーズにあったような、カークがすごく暗くなる状況を入れてほしいと言ったことがあるんだけど、それはかなわなかった。

今作で一番楽しかったことは?

これを作ること自体だったかも。これまでの2作は、僕らが住むL.A.で撮影したけれど、今回はみんなでヴァンクーバーに行ったから、まるで夏のキャンプみたいだったんだよ。それに、今作で、僕にはバイクに乗るシーンがたくさんあり、その世界のプロから指導を受けることができた。それも楽しかったな。

今は、「ワンダーウーマン」を撮影中なんですよね?女性のお相手役に戻るのは、どんな気分ですか?

すばらしいよ。ただ、アクションヒーローというものを何度か演じてきているせいで、ついつい、その場の主役になろうとするようなことをやってしまったりして、パティ(・ジェンキンス監督)を笑わせちゃったりするんだが(笑)。ガル・ガドットは最高の女優で、ストーリーをしっかり押し進めてくれる。僕の仕事は、彼女を笑わせ、ロマンスのニュアンスをプラスすることだ。「ロマンシング・ストーン/秘宝の谷」(1984)のマイケル・ダグラスみたいな感じかな。ガルが演じるワンダーウーマンは理想主義者で、世界は白か黒かに分かれると思っている。僕が演じる男は、そんな彼女を見て、「それは変だよ」と思ったりする。そこからユーモアが生まれるんだ。

俳優業も順調ですが、アルマーニのメンズ香水の顔という、素敵な肩書きも得ています。

これもすばらしい経験だよ。アルマーニ本人はもちろん、香りを作る人たちにも直接会うことができて、香りというものについて、ずいぶん学ばせてもらうことができた。あのCMの撮影も、とてもクリエイティブで、刺激的だった。

さりげなくおしゃれなことでも有名ですが、以前からファッションは好きだったのですか?

前から興味はもっていたかもしれないけれども、映画業界においてファッションは重要な要素だから、俳優としての経験を積んでいくうちに、少しずつ学んでいったように思う。もともと僕は、ビジュアルなことに関心が深いんだ。インテリアデザインなり、建築なり、服なりね。今は、リネンに夢中。この間、ローマにいた時も、夏だというのに少し寒くて、リネンのものをたくさん買ったんだよ。バギーなリネンのパンツに古い靴を合わせる、みたいな。50年代か60年代初期の映画スターが、アルファロメオを海辺で走らせているようなイメージを浮かべて、そういう着こなしをするんだ。

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そしてあなたはかなりのラーメン通でもあるのだとか?

ああ、ラーメンは大好きだよ。ここロンドンでも、よくラーメン屋に行っている。とくに、ここ(ロンドンのソーホー地区)のすぐそばにある店で、僕は常連だよ。

どんなラーメンが好きですか?

シンプルな豚骨ラーメンが一番だね。チャーシュー、卵、海苔が乗ったもの。ラーメン好きは少なくないよ。L.A.には、かなりいる。僕がL.A.でよく行くのは、わが家から近いシルバーレイク・ラーメンだ。ダウンタウンの大黒屋も人気だが、あそこはいつもものすごく混んでいるから、たいていシルバーレイク・ラーメンに行く。L.A.では、ほかに、寿司屋のしぶ長が好き。オーナーのシゲは、自分がワインやイタリア料理好きだから、ワインリストもすばらしいんだよね。メニューにはないんだが、僕が時々シゲに「ボンゴレのパスタが食べたいな」と言うと、作ってくれたりする。リトル東京の鮨元も好きだ。混むのが難点だけどね。モントレー・パーク(注:L.A.ダウンタウンの東部にある、圧倒的に中国人が住む郊外の街)もおもしろいエリアだ。

そういう店に、普通に入って行くんですか?

もちろんだよ。誰も僕のことなんか気にしないよ。

相当グルメなようですが、それを何かに活かしたいと思っていますか?

ああ、ぜひ何かやりたいね。いつか自分のレストランをオープンしてみたい。レストランが難しいビジネスであることは、わかっている。でも、チャンスがあったらやってみたい。

あなたの店は、どういう店になるのでしょうか?

まだわからないけれども、食体験全体から考えると、僕はイタリアンが好きなんだよね。バジルの香りが好きなんだ。あの香りに、イタリア料理が象徴されているように思う。店の雰囲気も大事だ。ぴったりのムードをもつ、ぴったりの環境にしたい。すべての感覚を満足させたい。店に入った時、人に、証明の暖かさ、特定の木の感触、バジルの香りを感じてほしい。食べ物の味は言うまでもないが、プレゼンテーション、お皿、色、そういうもの全部が大事だ。そういうものをクリエートしてみたいよ。

「スター・トレック BEYOND」は21日(金)全国公開。

クリス・パイン Chris Pine1980年L.A.生まれ。父、母、祖母も俳優。カリフォルニア大学バークレー校卒。2003年、テレビドラマ「ER 緊急救命室」のゲスト出演でデビュー。最近の出演作に「アンストッパブル」(2010)、「エージェント・ライアン」(2014)、「イントゥ・ザ・ウッズ」(2014)、「ザ・ブリザード」(2016) など。

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L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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