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ハリウッドで俳優が16年ぶりにストライキ。今度の相手はビデオゲーム会社

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ストライキを呼びかけた組合のプレジデント、ガブリエル・カーテリス(写真:REX FEATURES/アフロ)

ハリウッド俳優が、16年ぶりにストライキを起こした。

今回彼らが闘う相手は、ビデオゲーム業界。映画とテレビの俳優組合SAG-AFTRAは、ゲームで声の演技やパフォーマンスキャプチャーなどの仕事を受ける場合の条件更新について話し合いを進めてきたが、米西海岸時間20日(水)、決裂に終わる。翌21日深夜、組合は、所属する俳優たちに、エレクトロニック・アーツ、WBゲームズ、ディズニー・キャラクター・ボイスを含む計11社のゲームに出演禁止を呼びかけた。月曜日からは、各ゲーム会社の前で、順番にピケを張る計画だ。

争点となっているのは、業界でいうところの“レジデュアル”。アメリカでは、映画、テレビ、CMなどに出演した場合、自分が出たものが再放送されたり、DVDになったりするたびに、俳優には、業界用語でレジデュアルと呼ばれる、再使用料が入る(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160203-00054071/)。近年、組合は、今や230億ドル規模の産業に成長したゲーム業界にも同じことを要求してきていた。

しかし、ゲーム大手企業は、レジデュアルのシステムを自分たちの業界に持ち込むことを拒否し、その代わりに、“追加の報酬”を払うことを提案。ひとつの仕事のために複数回にわたって呼ばれる場合、2度目からは最初に決められたギャラのほかにボーナスが出るというもので、ベースとなるギャラそのものも9%アップするとしている。組合も、彼らの提案におおむね納得した。だが、組合が、これを“追加の報酬”ではなく、“レジデュアルの買取り”と呼ぶと主張したことで、話し合いは暗礁に乗り上げる。

交渉に関わってきたゲーム業界の代表スコット・ウィットリンは、「俳優組合が金額そのものでなく、たったひとつの言葉回しのために組合員にストライキを要求したのは残念だ。私たちがオファーしていることを、まずは組合員の投票にかけてほしかった」と述べた。一方で、SAG-AFTRAは声明を発表し、「これは単なる言葉の問題ではなく、中級の俳優がこの業界で生き延びていけるよう、平等な支払いを要求するものだ」と主張した。さらに、「これらの会社は、とんでもない収益を上げている。彼らが気にしているのはそれだけ。つまり、より収益を上げることなのだ」と続けている。

レジデュアルは、俳優だけでなく、監督や脚本家にとっても貴重な収入源だ。新しい仕事にありつけない間も、過去の作品がテレビで流されたりすることで、生きながらえることができる。ケーブルチャンネルが登場したり、DVDの売り上げが上昇したりといったように、時代の流れの中で市場の状況が変わっていくたびに、組合は、組合員が不当に搾取されないよう、レジデュアルに関する契約内容の変更を求めて闘ってきた。2000年のストライキでも、俳優組合は、ケーブルチャンネルから以前よりずっと多くのレジデュアルを獲得することに成功している。

2007年から2008年にかけての脚本家組合(WGA)ストライキの主な争点も、DVDをめぐるレジデュアルだった。このストはおよそ100日間続き、この間、組合員である脚本家は、映画やテレビの仕事をいっさい行えなかった。仕事を断たれるのが苦しくても、脚本家たちはみんなで目的を達成するために耐え、また、俳優たちのうち何人かは、脚本家たちを支持するため、自らも仕事を拒否したりしている。ストの影響で、多くのテレビドラマは、そのシーズンに当初予定されていた数のエピソードを撮影できず、シーズンの短縮を強いられた。メジャーネットワークの多くは、脚本家を必要としないリアリティ番組に重きを置くよう切り替えることで乗りきっている。それは、ハリウッドに関係するすべての人にとって、暗く、辛い思い出となった。だが、その結果、脚本家たちは、求めるものを手にすることができたのである。

今回のストライキが、同様の影響を与えるのかどうかは不明だ。ゲーム業界は、映画やテレビと違って必ずしも組合所属の俳優を使わなければいけないわけではない。実際のところ、ゲーム業界が雇う俳優のうち、SAG-AFTRAに所属するのは、全体の4分の1程度と言われている。俳優組合がストをすれば、映画やテレビの撮影はただちにすべてストップだが、ゲームの場合はそうではない。

それでも、今後ますます拡大していくこの分野でも、組合員のためにほかと同じような契約を取り付けることは、組合側にとって、非常に大事なことなのである。自分たちがいかに真剣であるかを表明すべく、ピケは、SAG-AFTRAのプレジデントであるガブリエル・カーテリスが率いるかまえだ。最初のピケは、西海岸時間24日(月)午前10時30分、エレクトロニック・アーツで行われる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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