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マイケル・ムーアは正しかった。4ヶ月前に指摘していた、「トランプが勝つ5つの理由」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
マイケル・ムーアは7月にも、この選挙でトランプが勝つと予測していた(写真:Splash/アフロ)

「人生で、自分が間違っていてほしいとここまで強く思ったことは、これまで一度もない。」

政治や社会問題に鋭く斬り込むことで知られるドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアは、今年7月、早々と、自分のウェブサイトに、ドナルド・トランプの当選を予測するエッセイを投稿している(http://michaelmoore.com/trumpwillwin/)。筆者も当時それを読み、なかなか説得力があるなと思いながらも、ムーアがエッセイの中で指摘するとおり、「でも、アメリカの大多数があの狂った男に投票するなんていうことは、やはりないだろう」と思っていた。

選挙が近づくにつれ、ヒラリー・クリントンを支持するセレブが次々に派手なイベントを行い、CMに出演して(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161104-00064069/)、ハリウッドはクリントン一色になる。討論会でのトランプの支離滅裂ぶりはジョークのネタになって「サタデー・ナイト・ライブ」は記録的視聴率を上げ(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161007-00062983/)、選挙前の数々の調査でもクリントンが多少なりともリードしていることが報道されて、選挙当日、ハリウッドの業界人は、クリントンのために祝杯を上げる気分でいっぱいだった。

そこへきて、この結果である。信じられない出来事に震えながらも、思い出してムーアの書いたエッセイを読み直してみると、彼が言っていたことは、すべて正しかったとわかった。

「悪いニュースを知らせる人になってしまうのは残念だが、昨年夏にも、僕は、ドナルド・トランプが共和党の指名を受けるとはっきり言ったよね。今、もっと悪いニュースを告げよう。この11月、ドナルド・J・トランプは、当選するよ。卑劣で、無知で、危険な、時に道化師、常に狂ったこの男が、僕らの次の大統領になるんだ」という文で始まるこのエッセイで、ムーアは、これを信じない人たちは「バブルに包まれている」と指摘している。人が家でXboxを使って投票できるならヒラリーが勝つだろうが、投票所に足を運んで、時には長い列に並ばなければいけない以上、それをやるのは、最も情熱的な投票者。選挙広告も、トランプの意味をなさない発言も、その人たちの心を変えることはできないのだと言う彼は、さらに詳しくトランプが当選する5つの理由を挙げている。

理由その1:中西部のパワー

ムーアは、トランプが、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの4つの州に集中したキャンペーンを行うだろうと予測している。そこは、かつて工業地区として栄えた地域。「もし本当に工場を閉鎖し、メキシコに製造を移すなら、メキシコで作られた車がアメリカに送られてくる時、35%の税金をかけてやる」「iPhoneを中国で作るのをやめさせ、アメリカにそのための工場を作らせてやる」というトランプの言葉は、まさにここの住民が聞きたい言葉だったのだと、ムーア。彼はまた、「ここはイギリスのど真ん中と同じ。イギリスのEU離脱で起こったことが、ここで起こるのだ」とも述べている。

理由その2:白人男のあがき

“絶滅しつつある白人男”という種族は、自分たちが見守る中で女性が台頭していき、自分たちの力が衰えてきていることに不満を感じているのだと、ムーアは言っている。「8年間も黒人男に命令されてきたと思ったら、次の8年は女の言うことを聞けというのかい?その次の8年はゲイかよ?そしてトランスジェンダー?その頃には動物にも人間と同じ権利が与えられていて、ハムスターが大統領になるんじゃないか?ここで止めなければ」と言うのが彼らの心境だと、ムーアは分析した。

理由その3:ヒラリーの問題

「ヒラリーがイラク戦争に賛成した時、自分は絶対に今後彼女には投票しないと決めた」と言うムーアだが、「ファシストが僕らの軍を率いる人になることを防がなくてはいけないので、僕は自分に対して結んだ約束を破る」と、消極的ながら、今度の選挙ではクリントンに投票すると宣言している。続いて、今回の選挙の最も大きな問題は「トランプではなくヒラリー」と断言。自分が選挙に勝つことだけを重視している彼女は、古い政治の象徴だとし、「若者は彼女が嫌い。ミレニアルが彼女には投票しないと僕に言ってこない日は、1日たりともない。民主党支持者ですら、この11月8日、オバマの時みたいに、あるいはバーニーの名前が投票用紙にあった時みたいに、興奮に満ちて投票所に出かけることはしないだろう」と述べた。

理由その4:意気消沈したバーニー・サンダース支持者

まず、「サンダースの熱狂的な支持者たちがクリントンに投票しないというのは違う」と、自らもサンダースを支持していたムーアは言う。ただ、そこに、同じような情熱はない。「彼らはトランプに投票することはしない。もしかしたら第三政党に投票するかもしれないが、投票しない人も多いだろう」と予測(実際、サンダース支持者だったスーザン・サランドンやロザリオ・ドーソンは、クリントンではなく、第三政党に投票すると公言している)。クリントンが副大統領候補に年配の白人男性を選ぶという無難な策を取ったことも、若い人たちをさらに遠ざけることになったと、ムーアは分析する。

理由その5:ただ掻き回してやりたい

崩壊した政治システムに怒りを覚える人々は、「まるでパパとママを怒らせたいがためにりんごのカゴをひっくり返す子供と同じ」で、トランプに入れるのだとムーア。人は、操り人形を操る人になって、トランプを選び、それがどんなことかを見てみたいだけと彼は指摘した。「(彼に入れるのは)トランプに同意するからではない。彼のエゴが好きだからではない。そうできる力が、彼らにはあるというだけ」。ムーアはまた、90年代にミネソタでプロレスラーのジェシー・ベンチュラが州知事に選ばれた例を出し、「彼らがそうしたのは、そうできるから。それにミネソタの人はブラックなユーモアのセンスがある。ベンチュラに投票するのは、腐った政治に対する彼らなりのおふざけだったのだ。それと同じことが、トランプで再び起こる」と明言した。

「僕は、ここで書くことが実際に起きると信じている。それに向き合うために、まずは現実を認めなければならない。その後、もしかしたら、あくまでもしかしたらだが、僕らは、そのひどい状態から抜け出すための方法を見つけられるかもしれない」と、ムーアはこのエッセイで述べている。

そして今、この現実を認める以外に選択肢はない状況になった。ここから抜け出すための方法も、ムーアは予測してくれないだろうか。この次は、きっとみんな、彼の言うことに、より深い注意を払うはずだから。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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