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今年の「最もセクシーな男」はドウェイン・ジョンソン。この肩書きにどんな意味があるのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「People」の「生存する最もセクシーな男」、今年はドウェイン・ジョンソン(写真:ロイター/アフロ)

ドウェイン・ジョンソンにとって、2016年は、さらに忘れられない年になった。つい最近、「Forbes」誌から「世界で最も稼ぐ俳優」に名指しされたばかりの彼が(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160827-00061567/)、今度は、「People」誌の「生存する最もセクシーな男」に選ばれたのである。

この事実が発表されたのは、米西海岸時間15日(火)放映のトーク番組「Ellen」。ジョンソンのここまでの道のりを見せるビデオを上映した後、ホストのエレン・デジェネレスは、客席に向かって、「ここで初めて発表させてもらいましょう。『People』の『生存する最もセクシーな男』は、彼です!」と言い、まだ発売されていないその号の表紙を背景に映し出した。

「この肩書きを引き継ぐのは大変なことでしょうか」とデジェネスに聞かれると、ジョンソンは、「いや、楽だと思うよ。これからもトラックを運転するし、ジャスミン(生後11ヶ月の娘)のおしめを替えなきゃいけないのは同じ。かつ、最もセクシーな男でもあるわけさ」と言って、場内を笑わせている。

1985年に始まった毎年恒例の「生存する最もセクシーな男」特集で、有色人種が選ばれたのは、これが2回め。1度めは1996年のデンゼル・ワシントンで、なんと20年ぶりだ。“白すぎるオスカー”論議をはじめ、ハリウッドにおける人種の偏りが批判される中だけに、ジョンソンの選択は歓迎をもって受け入れられると思われる。

もっとも、「People」の「セクシーな男」は、オスカーなどと違って、そもそもがお遊びであり、真剣にとらえられるべきものではない。その時こそメディアを騒がせるが、来年になればまた別の人が選ばれ、昨年誰だったかなど、ほとんどの人は覚えていないものだ。しかし、本人にしてみれば純粋にうれしいだろうし、その人が主演する次回作を配給するスタジオやパブリシストにとっては、多大なる宣伝効果をもたらす、マーケティング上の貴重なツールである。

期待作が控える、勢いのあるスターが選ばれる

実際、翌年に期待の作品が控えている俳優がしばしば選ばれているところを見ると、スタジオやパブリシストからの売り込みも相当あると思われる。たとえばライアン・レイノルズが選ばれたのは2010年だが、彼は翌2011年夏に、彼のキャリアで最大の予算をかけたアクション大作「グリーン・ランタン」とコメディ映画「The Change-Up(日本未公開)」が控え、勢いに乗っていた。「セクシーな男」の肩書きを得て、彼の知名度はさらに高まるものの、皮肉なことに、2作品とも不発に終わり、彼のキャリアはこのあたりからしばらく低迷期に入ることになる。

2012年に選ばれたチャニング・テイタムも、この年、「君への誓い」「21 Jump Street(日本未公開)」「マジック・マイク」と、3本続けてヒットを出したところで、翌年にはアクション大作「ホワイトハウス・ダウン」が控えていた。2014年のクリス・ヘムズワースも、翌2015年に「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」「ブラックハット」「白鯨との闘い」という、まるでタイプの違う3つの主演作が控えていた上、「スノーホワイト」のスピンオフを、彼を主役に据えて製作する企画も進められていた状況だった。

ジョンソンが声の出演をするディズニーのアニメ「モアナと伝説の海」が来週23日に北米公開になることも、彼の選択と決して無関係ではないだろう。もちろん、説得材料は、ほかにも十分揃っている。「Central Intelligence(日本未公開)」はこの夏北米で1億2,700万ドルのスマッシュヒットとなっているし、来年は「ベイウオッチ」と「ジュマンジ」のリメイク2作のほか、「ワイルド・スピード」シリーズ8作目がある。テレビの「Ballers」も好調なら、ジョニー・デップやマット・デイモンを抜いて「世界で最も稼ぐ俳優」首位を獲得したのも、大きな後押しとなったはずだ。

つまり、正しくは、「最もセクシーな男」ではなく、「今、最もキャリアが順調な男」と呼ぶべきなのである。ただし、その名前だと、ここまで人の興味を引きつけられないのは言うまでもない。そもそも1985年にこれが始まったきっかけは、メル・ギブソンの特集を企画していた時に、編集部の誰かが「彼って生存する最もセクシーな男よね」と言ったことだと言われている。

選ばれた感想を聞かれた時、スターはどう答えるか

選ばれた俳優は、その直後からしばらく、インタビューで感想を聞かれるはめになるが、本人にとって、それはやや気恥ずかしくもあり、答えにくい質問のようだ。たいていは、軽いジョークを飛ばして受け流す。

たとえば、2006年に再び選ばれたジョージ・クルーニーは(彼は1997年にも選ばれている)、「(やはり過去に選ばれているブラッド・ピットらと)みんなで一緒にマット・デイモンを『最もセクシーな男』にしなければと、必死の努力を尽くしているんだよ」としょっちゅう答えていた。その甲斐があってか、あるいはその1年の間にデイモンが「ディパーテッド」「グッド・シェパード」「ボーン・アルティメイタム」でますますスターぶりを見せつけたせいか、翌2007年には、見事デイモンがその肩書きを手にした。

レイノルズは、「グリーン・ランタン」北米公開前の筆者とのインタビューで、「この話題が出るのはインタビューの時だけだから、普段は気にしたりしないよ。スーパーでミルクを探している時に、店員が『最もセクシーな男性さん、何をお探しですか?』と近寄って来ることなんかないし」とクールに交わしている。一方、ヘムズワースは、彼が選ばれてから2ヶ月後のインタビューで、本当に照れくさそうに、顔を真っ赤にして、「たぶん、(選んでくれて)ありがとうと言うべきなんだよね。そのおかげでもっと仕事をもらえるかもしれないんだし、それは家族を養えることにつながるんだし。でも、真剣に取るべきことじゃない。それに、僕の両親が僕を作ったんだから、褒めるなら僕の両親を褒めるべきだ」と答えた。ジョンソンはというと、自らツイッターで、「午前4時。ハードなトレーニングをして、赤ちゃんの世話をしている。セクシーにね。『People』とファンのみなさん、ありがとう。あなたたちの愛に感謝します」と、素直な喜びのメッセージを送っている。

ところで、これまでの受賞者は以下のとおり(受賞年順)。このうち、クルーニー、デップ、リチャード・ギアは、2回選ばれている。

メル・ギブソン、マーク・ハーモン、ハリー・ハムリン、ジョン・F・ケネディ・Jr.、ショーン・コネリー、トム・クルーズ、パトリック・スウェイジ、ニック・ノルテ、リチャード・ギア、キアヌ・リーブス、ブラッド・ピット、デンゼル・ワシントン、ジョージ・クルーニー、ハリソン・フォード、ピアス・ブロスナン、ベン・アフレック、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、マシュー・マコノヒー、マット・デイモン、ヒュー・ジャックマン、ライアン・レイノルズ、ブラッドリー・クーパー、チャニング・テイタム、アダム・レヴィーン、クリス・ヘムズワース、デビッド・ベッカム、ドウェイン・ジョンソン

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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