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ポール・ウォーカーの三回忌に、彼の言葉を思い出す

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

11月30日は、ポール・ウォーカーの命日にあたる。

3年前のこの日、ウォーカーは、感謝祭の連休で、「ワイルド・スピードSKY MISSION」を撮影していたアトランタからL.Aに戻り、自分のチャリティ団体のイベントに参加していた。しかし、午後3時半ごろ、彼と、友人でビジネスパートナーのロジャー・ロダスが運転するポルシェが電柱と木に激突し、ふたりは死亡。ウォーカーは、週明けにはまたアトランタで映画の撮影に戻る予定だった。

このニュースを聞いた時は、ショックを超え、信じられなかった。筆者は、その6週間ほど前に、アトランタの撮影現場で彼に会ったばかりだったのである。現場で、彼は、ジャスティン・リンに代わって監督を引き継いだジェームズ・ワンの仕事ぶりを絶賛し、今回挑戦する新たなスタントについて、ちらりと教えてくれたりもした。年明けにはロケ地がアブダビに移り、そこでまたすごいアクションをこなすはずだったのだ。

突然の不幸な出来事を受けて、「〜SKY MISSION」の製作は一時中断されたが、ウォーカーの弟ふたりとCGを使って撮影は続けられ、映画は、ウォーカーへの敬意、愛、友情、感謝の気持ちに満ちた、見事な傑作に仕上がった。「ワイルド・スピード」を見て泣くなどと、想像したことすらなかったが、あのラストでは涙が止まらなかった。

筆者は、10年以上にわたって、何度もウォーカーをインタビューしてきている。びっくりするくらいハンサムなのに、普通以上に普通な人柄で、言うことにはいつも正直さがあった。

中でも最も印象に残っているのが、シリーズ5作目「ワイルド・スピード MEGA MAX」の北米公開を数ヶ月後に控えた2010年末のインタビューだ。この日、彼は、写真撮影もこなすスケジュールで、呼ばれた場所は、L.A.ダウンタウンの東のはずれの倉庫街という変わったところだった。インタビュー部屋は、彼の控え室用にレンタルされたトレーラーである。

トレーラーのドアを開けると、雑種犬がしっぽを振って迎えてくれた。ウォーカーが3日前に保健所から引き取ったばかりの生後8ヶ月のオス犬だそうだ。彼の愛犬が寝そべるその狭い空間で聞いた彼の話は、過去のインタビューの中でも、とくに彼の人柄が表れているものだと思っている。ここで、その時の会話の一部を紹介したい。

この子には、保健所で出会ったんですか?

そうだ。この子のママは、この子を妊娠した状態で保健所に連れて来られたんだ。この子は保健所で生まれて、3日前まで、外の世界を見たことがなかったんだよ。わが家にはほかに4匹の犬がいるし、猫もいる。犬と猫の関係はそれぞれだよ。猫を追いかけるのが好きな犬もいれば、猫と一緒に寝る犬もいる。今のところ、この子は、猫を見ても何の反応もしないね。今の状態をただ幸せに感じているんじゃないかな。この子は、僕の旅の友になると思っているんだよ。すごくおとなしくて、甘えん坊でもあるけれど、ずっとかまってほしがることはない。ほかの犬は結構年を取ってきていて、飛行機に乗せるのはかわいそうだし、たぶん、この子をよく連れて行くことになるだろう。僕は旅の仲間がほしいんだ。ロケにも、たいてい一匹連れて行くんだよ。

飼っているのは、みんな雑種ですか?

いや、血統書付きもいるよ。オーストラリアン・キャトル・ドッグを2匹飼っているし、チェサピーク・ベイ・リトリーバーもいる。それに雑種が一匹。

オリジナルキャストが戻ってきた「ワイルド・スピード MAX」(2009)は、ファンから温かく迎えられましたね。あの映画が公開される前、あなたはどんな気持ちでしたか?

すごく不安だった。怖かったよ。長い時間がたった後だったからね。でも、僕は、(プロデューサーの)ニール・モリッツや、ユニバーサルのエクゼクティブたちを長年知っている。彼らは、僕に、「またやってもいいのでは」と思える理由をいくつも提示してくれた。ファンに対する義理もあったしね。僕が3作目に出なかったことで、ファンをがっかりさせてしまったんだ。「どうして3作目に出なかったんですか」と、今でも言われるんだよ。ファンにとっては、簡単に忘れられることではないんだ。彼らは、裏切られたように感じた。この5作目には、タイリース・ギブソンが戻ってくることもあって、また出ようと思った。僕は、彼も4作目に出るべきだと言ったんだよ。彼だって僕らと同じくらい、このシリーズの一部なんだから。

今作にはドウェイン・ジョンソンが新登場しますが、彼とは以前から知り合いだったのでしょうか?

2年ほど前にスーパーボウルで会っていた。僕らには共通の友達もいる。彼の良い評判は、聞いていたよ。実際、時間通りにきっちり現場にやってきて、やるべきことをやる、すごくプロフェッショナルな人だ。彼との共演は楽しかった。僕はもともと体を動かすのが得意だし、ボクシングやマーシャルアーツもやるけれど、ドウェインが相手だと、さすがにかなわないね(笑)。体の大きさは、関係あるんだよ。彼は本当にでかい。彼との勝負は避けるね(笑)。

4作目のインタビューでは、「昔と違って、もうあまり車のスタントを自分でやらせてもらえなくなった」と、ちょっと不満気でしたよね。今回はいかがでしたか?

今回は、4作目よりやらせてもらえたよ。4作目では、ジャスティン(・リン監督)と初めて組んだけれど、今回、彼は、僕にどこまでできるのかをわかっていてくれたから。でも、(撮影現場での運転のスタントは)、クルーに囲まれる中、鉄に閉じ込められているだけで、そんなに楽しくない。それよりも、屋根の上を走り回るとか、ビルから飛び降りるとか、そういうアクションのほうが楽しいね。ファイトシーンも好きだし、ケーブルワーク(宙に吊るされるスタント)も。テクニカルなことが好きなんだ。そういうのは秒刻みで正確にこなしていかないといけない。それだけじゃなく、スムーズに、自然に見せないといけないんだ。僕は、考え方もテクニカルなんだよ。分析するタイプ。だからアクションというジャンルに惹かれがちなのかもしれないな。僕は、自意識過剰になることなく、カメラがどこを映しているのかに注意していることができる。カメラに寄る感じで車が来ると、もっと速く見える、とかね。そういう科学的な部分は、楽しい。

ヴィン・ディーゼルとあなたの関係は、どんなふうに変わりましたか?

1作目の時、僕は、この世界の新人だった。ヴィンはすでに短編映画を監督していたし、「プライベート・ライアン」(1998)にも出ていた。だから、僕は、ちょっと彼に対して緊張していたんだよ。今は、もっと平等に感じる。僕らはお互いを尊敬している。僕らはまったく違うタイプだ。なのに、ある部分では、怖いくらい似ていたりする。僕は、映画界から完全に消えてしまった時期があったし、彼も彼で失敗をした。彼は、這い上がる必要があった。彼と時間を過ごせば過ごすほど、自分と似ている部分に気づくようになっていったんだよ。

1作目の時よりキャリアを積んだ今、この仕事について、どんな見方をしていますか?

どこを見るかにもよるね。この仕事をすごく好きだと思う時もあるし、ものすごく嫌いと思うこともある。その両方を経験した。だけど、自分は幸運だと感じているよ。この仕事をやっていなければ見られないものを見ることができた。食べ物はチーズバーガーとホットドックだけじゃないんだと知ることができた。娘が一番好きな食べ物は、インド料理なんだよ。「子供がインド料理?」と思うかもしれないけどね。娘はブタペストにも行ったことがあって、何かの時に「プラハを思い出す」と言ったりした。娘がそんな体験をできるなんて、素敵だよ。この仕事のせいで人生がちょっと複雑になったのも事実だが、それは小さな代償だ。

有名人のあなたに対して、知らない人がなんらかの意見を持っているというのは、辛いですか?

それを聞かないようにするのは難しくないよ。雑誌やテレビを見なければいいことだ。知らないというのは最高。自分で自分のバブルを作れる。長いことやってきたから、それは得意さ(笑)。難しいのは、無名の人に戻れないこと。自分はもう顔を知られている。波があるけどね。映画が公開される前は、またその波が来たと感じる。映画が上映されている時、それはピークを迎える。その後、すっかり去ったように感じるが、DVDになったとたん、また戻ってくる。いつだってそうだ。今じゃ、気持ちの準備をすることができるくらい。レオナルド・ディカプリオとかブラッド・ピットみたいな人は、どうしているのかと思うよ。僕にはとてもじゃないけど対処できないだろう。子供は別だ。子供が寄ってくるのは全然嫌じゃない。子供は素直で、話すのも簡単なんだよ。子供たちは、「ヴィン・ディーゼルに会ったことはありますか?」とか聞いてくる。「ああ、彼と5ヶ月一緒に仕事をしたよ」と言うと「えっ、本当ですか?」と驚く。「良い人ですか?」って聞くから「すごく良い人だよ」と答えると「すごーい!」って(笑)。かわいいんだよ。「南極物語」(2006 )は、その意味で最高だったね。「ジャックは本当の犬なんですか?」「ああ、本当の犬だよ」「本当にジャックっていう名前なんですか?」「いや違うよ、本当の名前はデューク」「じゃあどうしてデュークって呼ばないの?」。本当にかわいい。大人は違うよ。僕がガールフレンドと一緒にいる時に、「君ってジェシカ・アルバと共演できたんだよなあ。いいよなあ。彼女はホットだよねえ」「エヴァ・メンデスって本人もあそこまできれいなのかい?」とか言われると、「黙れよ!」と思う。その後、僕がガールフレンドに何を言われるのかを考えてほしいよ。

リラックスしたい時は、何をしますか?

自然の中に身を置くよ。ハイキングやトラッキング、サーフィンをよくする。旅も好きだ。僕の旅は、豪華リゾートなんかじゃないよ。第三諸国、第四諸国みたいなところで、寝袋で寝るのさ。僕の人生は、(そばにあった小さなバックを指して)あの中に全部入る。どこに行くにも、あのバッグひとつだ。

来日もされていますよね。最近では4作目のプロモーションで来日したかと思いますが。

ああ、でもあの時は、すごく短い滞在だった。今年4月には、娘を連れて、休暇で日本を旅行したんだよ。京都や奈良にも行った。娘が住むハワイには、日本人がたくさんいて、親しい友達はみんな日系人なんだ。だから娘は日本食が大好きだし、ずっと、「パパ、日本に行ってみたい」と言われていたんだよ。娘はあの旅行をすごく楽しんでいたし、またふたりで行くつもりだよ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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