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現役大統領がTVのプロデューサーを兼任していいのか。シュワルツェネッガーの意見は「問題ない」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
トランプからリアリティ番組のホストを引き継ぐアーノルド・シュワルツェネッガー(写真:REX FEATURES/アフロ)

アメリカの大統領が、就任中に、特定のテレビ局の番組をプロデュースしてギャラを得ることに、問題はないのか。

年明けに始まる新番組「The New Celebrity Apprentice」で、NBCがトランプの名前をエクゼクティブ・プロデューサーとして残すことが判明して以来、メディア関係者の間でさまざまな意見が飛び交っている。米西海岸時間9日(金)、メディア監視団体Media Mattersは、NBCにトランプをエクゼクティブ・プロデューサーからはずすよう嘆願する署名運動を開始。12時間弱の間に、1万5,000以上の署名が集まった。Media Mattersのプレジデント、アンジェロ・カルソン は、声明の中で、ニュース番組ももつNBCが大統領と利害関係を共有することは、NBCのジャーナリストがトランプについて報道する上で規制を与えかねないと警告。「もしも報道に何の影響も出ないということになっても(それは考えづらいことだが)、NBCがトランプともつ特別な関係のせいで、人は彼らの報道に疑問をもつだろう」とも述べている。

トランプが番組から得る金額は、1回あたり最低1万5,000ドル

そもそも、不動産王のトランプがアメリカ国民みんなに知られる有名人となり、ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに星まで持てるようになったのは、彼と、リアリティ番組の大物プロデューサー、マーク・バーネットが生み出した「The Apprentice」のおかげである。番組は2004年にスタートし、2008年には、セレブリティが参加して競い合う「Celebrity Apprentice」が始まった。この「The New Celebrity Apprentice」は、2年ぶりに、新たなホストを迎えてデビューするものだ。

トランプからホストの座を譲り受けたのは、アーノルド・シュワルツェネッガー。しかし、トランプは現在もこの番組の所有権をもつひとりであり、番組が上げる収益をもらい続ける。関係者が分析するところによると、その額は、1回の放映あたり最低でも1万5,000ドルとのことだ。NBCは1月に始まるシーズンを13回で計画している。

昨年、NBCは、トランプとのビジネス関係を打ち切ると発表していた。現在、番組の表向きの所有権は、バーネットのプロダクション会社を買収したMGMが持っており、この番組でトランプが得るお金は、NBCがトランプに直接払うのではなく、NBCはMGMに払い、MGMがバーネットとトランプに払うという流れだ。それでも、彼が番組でお金を稼ぐことに変わりはない。

ほかにも問題はいくつか指摘されている。ひとつには、NBCの親会社で巨大企業のコムキャストが、政策に影響を与える立場になるのではないかということ(逆に、コムキャストはトランプの報復を恐れて、トランプを番組からクビにしたくてもしづらいのではないかという憶測もある)。大統領に気に入られたいがために、番組のスポンサーになる企業も出てきたりするかもしれない。さらに、一国の大統領がくだらないテレビ番組に関わっているという事実が、すでに欠如している信憑性に、さらなるダメージを与えるのではないかという懸念もある。

これらの報道を受けて、トランプは、アメリカ時間10日(土)、「私は『Celebrity Apprentice』と何の関係もない。マーク・バーネットと一緒にあれを生み出して、大きな所有権を持っているだけだ。あの番組にはまったく時間を費やさない」「私が大統領就任中に、多少なりともあの番組の仕事に関わると言ったCNNの報道はばからしいし、間違っている。嘘のニュースだ」とツイートした。トランプのキャンペーンマネージャーを務めたケリーアン・コンウェイは、CNNに対し、「現在の大統領がたっぷりと時間をかけてゴルフを楽しんだことを非難した人はいますか?自分の時間に好きなことをする権利は、大統領にもあるのです」と、トランプを弁護するコメントをしている。

シュワルツェネッガー、「州知事時代も僕の名前は『ターミネーター』に出ていた」

トランプから番組を引き継ぐシュワルツェネッガーも、トランプの味方だ。共和党に所属し、カリフォルニア州知事を務めた経験があるシュワルツェネッガーだが、選挙前、トランプへの支持を表明してはいない。しかし、彼が当選した時は、「電話をかけて祝福した」と、米西海岸時間9日(金)に行われたメディア向けイベントで明かしている。彼がエクゼクティブ・プロデューサーとして番組に関わり続けることも、「それは最初からわかっていたこと。僕がカリフォルニア州知事に就任している時も、『ターミネーター』に僕の名前はずっと記されていた。僕はそこから利益も受けた。同じことだ」と弁護した。

その説明にあまり説得力がないのは、言うまでもない。ソーシャルメディアには「これは利害関係の衝突。プロデューサーの肩書きは捨てるべき」「こいつは恥というものを知らないのか」「驚かないね。彼は金のためならなんでもするよ。ホワイトハウスの上に番組の宣伝看板を掲げるかも」「この家族はいったいどこまで金を欲しがるのか」「この番組のスポンサーの商品を全部ボイコットしよう。それがこれを止める一番の方法」「この番組は、絶対に見ないわ。私はドナルドに儲けさせることはしない」「大事なのは視聴率。テレビのリモコンを使って投票しましょう」などという抗議のコメントが多数寄せられている。一方で、「メディアはトランプを攻撃し、そのせいでトランプはツイッターに忙しくなって、国のために神経を集中できないでいる。メディアはトランプの失敗を望んでいるんだろうが、もしそうなったら国がダメになるんだよ。リベラルにはそれがわかっていないみたいだ」など、ずっとクリントン支持を表明してきたメディアを批判する声もある。

この論争は番組の宣伝になるのか

いすれにしても、この論争が、この番組の宣伝にもなっている可能性も否定できない。トランプは、クリントンの半分以下のお金しか使わずして当選を果たしたが、それは、彼のまめなツイートや、お騒がせしてメディアに取り上げてもらうという、お金のかからない戦略が功を奏したのだと見る向きは多い。今年9月のエミー賞授賞式で、ホストのジミー・キンメルが客席にいたバーネットを名指しし、「もしトランプが大統領になって壁を作ったら、最初に追い出すべきなのはこの人です」と言って、トランプと、「The Apprentice」でトランプを有名にした彼を批判した時も(バーネットはイギリス人である)、プレスルームで、バーネットは、「テレビでただで名前を宣伝してもらえて、トランプは今ごろキンメルに感謝のメールでも送っているんじゃないかな」と、笑顔で語っていた(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160920-00062374/)。

NBCも、同じ方法で最後に笑うのか。それとも、視聴者にボイコットされるのか。1月2日の放映開始日の数字が、それを証明する。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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