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トランプ就任式で抗議運動を起こす計画のマイケル・ムーア:「もし彼が宣誓したらテロが起き、戦争となる」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX FEATURES/アフロ)

米大統領選挙の4ヶ月前である7月にトランプの勝利を見事に予測していたマイケル・ムーアは(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161110-00064275/)、選挙後、テレビの討論番組への出演に忙しい。

それらの番組のうちのひとつで、「トランプ政権は4年持たない。彼にはイデオロギーがなく、あるのは自分に対するイデオロギーだけ。そんなナルシストだから、意図せずして法律を破るだろう」と述べたムーアは(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161113-00064382/)、最近、トランプが正式に就任するとは限らないという、小さな希望を示した。

「Hollywood Reporter」に対し、1月20日の大統領就任式で非暴力の大規模な抗議運動を企てていることを明らかにしたムーアは、「万一、本当にトランプが1月20日に宣誓をすることになったら、だけどね」と但し書きを付けているのである。つまり、それはないかもしれないということ。そう思う根拠として、ムーアは、「今回の選挙で僕らが学んだことが何かあるとすれば、普通なら起こることが必ずしも起こるとは限らないということだ」と述べている。

もしもトランプが無事に宣誓を済ませてしまった場合について、ムーアは、今週、Facebookに長いメッセージを投稿し(https://www.facebook.com/mmflint/posts/10154007461821857:0)、アメリカ国民に警告を出した。

「ドナルド・トランプのせいで僕らは殺される」というショッキングなタイトルを付けたその投稿で、ムーアはまず、トランプが、国家情報長官室やCIAから国際情勢に関する最新情報説明を受ける“インテリジェンス・ブリーフィング”(情報説明)をさぼっている事実を批判している。

実際、これは今週、アメリカのニュースで大きく取り上げられてきた注目のトピック。「自分は忙しすぎるから、毎回同じことばかりの報告を聞いている暇はない」と言うトランプは、その一方で、最近奇怪な行動を取り続けてはゴシップを騒がせているカニエ・ウエストをトランプタワーに招待してはうれしそうに写真を撮ったりしており、多くの国民と政治関係者に怒りと懸念を感じさせている。

避けられたはずの悲劇が起こった時、トランプは自分以外の全員を責める

ムーアは、この投稿でまず、「彼が選挙で勝ってから36回のインテリジェンス・ブリーフィングがあったのに、トランプは、それに2、3回しか出ていないと、自分で認めている。(中略)どの国であれ、一国のリーダーにとっての一番の仕事が国民の安全であるということには、ほとんどの人が賛成するだろう。この国にどんな危険が起こる可能性があるのかを知るミーティングは、大統領にとって最も重要なミーティング。だが、我々にとっては理解しかねることに、トランプは、諜報機関のトップが国の危険がどこにあるのかを説明する20分間を、面倒くさいと思うのだ」と批判した。「もちろん、この1年、このバカな男は理解しかねることをさんざんやってきたから、もう今さら驚かないという人も多いようだが」というムーアは、「サタデー・ナイト・ライブ」でアレック・ボールドウィンが自分を演じて笑いを取っている(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161007-00062983/)ことに激怒しているトランプが、怒りのツイートをに時間を費やしている事実も指摘している。

彼はこう続ける。「アメリカの仲間たちよ。みんなわかっているとおり、またテロは起こる。避けられたはずのその悲劇が終わった時、ドナルド・トランプは、自分以外の全員を責めるだろう。彼は憲法を無視し、危険かもしれないと思われる人をみんな吊るし上げて、宣戦布告をする。共和党も、それを支持するだろう。トランプが国家安全に注意を払っておらず、インテリジェンス・ブリーフィングを欠席してゴルフを楽しんだり、セレブリティに会ったり、朝の3時にCNNをけなすツイートをしていたことなど、もうみんな忘れてしまっている。彼は、インテリジェンス・ブリーフィングなど彼には不要だとすら言ったのだ。『私は頭が良いから、8年間も毎日同じことを聞かなくてもいいよ』と、12月11日、トランプはフォックス・ニュースに語った。来年、亡くなった方々を埋葬する時、その日にちを記憶にとどめていてほしい」。

ムーアは、過去にも同じ例があることを、読者に思い出させてもいる。

2001年8月6日、テキサスの農場で1ヶ月の休暇を取っていたジョージ・W・ブッシュは、「ビン・ラディンがアメリカ国内でテロを起こす決意をしている」という報告書を受け取ったが、それを一瞥するだけで釣りに出かけてしまった。その部分は、ムーアのドキュメンタリー映画「華氏9/11」(2004)にも出てくる。

「運転中に居眠りをする大統領は問題。だが、トランプは、運転すること自体を拒否する大統領。(中略)そのせいで、大勢の罪のない人が死ぬことになるのだ」。最後は、「アメリカ人を殺す計画が着々と進んでいる間、あなたは自分の真似をするアレック・ボールドウィンこそ最大の敵と思っていたことを、私たちは忘れません」という、トランプへの呼びかけで終わっている。

来週月曜日にドンデン返しはあるのか

米西海岸時間14日(水)午後1時現在、この投稿には4万近い「いいね」が寄せられ、2万2,000人にシェアされている。3,000ほど書き込まれたコメントには、「一度でいいからテレビのインタビュアーが彼に向かって『なぜインテリジェンス・ブリーフィングを聞かないんですか!自分は頭が良いからですって?頭が良い人はブリーフィングを聞きますよ!』と怒鳴るのを見たいものだ。でも、そうしたらその人はクビになるんだろうね」「おそらくトランプはADDで、20分は長すぎるのよ。そのADDは、自分以外のことには注意を向けられないという種類のものなの。インテリジェンス・ブリーフィングは、彼についてのことじゃないものね」「悲しいことに、トランプは、自分の会社に儲けが出るか、自分のエゴをくすぐってくれるか、プーチンに利益が出るかという目的を果たすミーティングにしか行かないんだよ」「本当は大統領になりたくなくて、ならなくてすむように、わざといろいろやっているのかもしれない」「マイケル、あなたはこの国と国民のことを本当に考えてくれています。あなたこそ次の大統領になるべきです」など、ほぼすべてがトランプ批判か、ムーアに感謝するものだ。

しかし、「選挙人の方々へ。彼のせいで人が死ぬ前に、それを止めてください」というように、選挙人たちに訴えかけるものも、多数ある。実のところ、トランプが次の大統領になるのは、まだ正式ではないのだ。来週19日(月)に、アメリカ各州でその州の選挙人たちが集まり、その人が大統領になることを承認するかどうかの投票を行うのである。普通、それはあくまで儀式にすぎないのだが、ムーアが書いているとおり、今回の選挙では、普通なら起こることが必ずしも起こってきていない。

来週月曜日、さらなるドンデン返しがあるのだろうか。そうなったら、「就任式に彼は来ないかも」というほうのムーアの予測が当たることになる。誰も予測していなかったトランプの勝利を言い当てていたムーア。この予測もどんぴしゃであってくれたら、本当にいいのだが。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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