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マイケル・ムーア、共和党選挙人に訴えかける:「トランプはどこかおかしいとわかっているはず」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
共和党選挙人に最後の嘆願をしたドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア(写真:Splash/アフロ)

12月19日(月)は、トランプが正式に大統領になるのを食い止める、最後のチャンスだ。米国時間の今日、アメリカのそれぞれの州で選挙人たちが集まり、あらためて投票をするのである。

基本的には儀式みたいなもので、普段ならばほとんど注目されない出来事だ。しかし、大統領選以来、トランプが世界各国に多数のビジネスを所有するのは利害関係の衝突ではという疑問や、彼がインテリジェンス・ブリーフを面倒くさがることへの懸念、また彼が選んできた閣僚の顔ぶれなど、彼が大統領になることへの不安は、増していくばかりである。テキサスの共和党選挙人のひとりは、自分は19日にトランプには入れないと宣言するエッセイを「New York Times」に寄稿した。そんな中、マイケル・ムーアは、アメリカ時間昨夜、選挙人に対する最後のお願いの手紙をFacebookに投稿している(https://www.facebook.com/mmflint/posts/10154020664436857)。

選挙人は、精神的に不安定なリーダーから国民を守る責任がある

「共和党選挙人の方々に、マイケル・ムーアからの個人的な嘆願」と題するその長い手紙を、彼は、「親愛なる共和党選挙人のみなさま。これが、僕マイケル・ムーアの書いたものだとわかっていてここまで読んでくださったということは、あなたがオープンマインドで、自分と意見の違う人にも耳を傾ける人だということでしょう」という文章で始まっている。ムーアは、自分がこれを書いているのは自分がヒラリー・クリントンに投票したからではなく、この国と、この国民を本当に愛するからなのだと説明。選挙人たちが集まり、投票を行うこの日に、「良識に従って投票してください。お願いですから、ドナルド・J・トランプを選ぶことで、この国を危険にさらさないでください」と訴えた。

続いてムーアは、選挙運動期間中、ロシアがハッキングを行い、結果に影響を与えた疑いに触れ、この投票は、その捜査が終わったから行うべきではないのかと問いかけている。選挙中、ロシアと接触を持ったことを自ら認めており、国家安全についての説明を聞くインテリジェンス・ブリーフィングを面倒くさがるトランプに対して、選挙人の人たちはちょっと待てよと思わないのかとも述べた。

「この男がどこかおかしいと、あなたは思っていると思います。クレイジーなコメントを次々にする彼が、(大統領に)ふさわしいとは感じられないはずです。精神的に不安定な人から僕らを守る責任が、あなたにはあるのではないですか?」と言うムーアは、次に「考慮してほしい4つの点」を挙げている。その要旨は、以下のとおり。

その1:そもそも、選挙人制度は、国にとって危険な人が、間違って大統領になってしまうのを防ぐための最後のステップとして導入されたものです。トランプは、選挙中にロシアがハッキングしたのを知っていました。仮に僕がクリントンを選んだ選挙人だったとして、後になってから、ロシアや北朝鮮やサウジアラビアが、彼女が勝つよう操作していたとわかったとしたら、僕は明日、彼女には入れません。あなたにも同じことをしてほしいのです。

その2:州によっては、州が選んだ人以外に投票するのを“違法”としていて、そうした場合、1,000ドルの罰金を取られることもあります。今日や(投票当日の)明日、あなたに払うことはできませんが、あなたが良識に従って投票し、その結果、罰金を課せられた場合、僕があなたにその分を支払います。それは法律に違反しません。

その3:それでも、自分の良識に従って投票することが違法になるのではと心配されている方。ハーバードのロースクールのローレンス・レシグ教授があなたの弁護士になってくれます。連絡先はここです。

その4:あなたも心の奥底ではわかっていると思いますが、トランプは、絶対4年持ちません。法律やルールを無視する彼は、いずれ間違いを起こします。共和党員であれ、民主党員であれ、政治家であれば、自分が個人的に得をするような決断ばかりするナルシストが大統領になることがいかに危険か、知っているでしょう。最初から任期をまっとうできる人に投票するべきではないですか?

選挙人の数では負けたが、国民の投票ではクリントンに入れた人のほうが300万人も多かった。ムーアは、「あなたたちの忠誠心は、アメリカ国民に対して向けられるべきです。彼らの大多数は、ドナルド・J・トランプに投票していません」と、その事実にも触れている。最後は、「僕のお願いに耳を傾けてくれてありがとうございます。いつかお返しをすると約束します。本当にアメリカを再びすばらしくするためには、政治的な立ち位置に関わらず、お互いの言うことにもっと耳を傾けていくべきなのです」という言葉で締めくくった。

結果を変えるのに必要な数は37人

この投稿には、西海岸時間19日(月)午前11時現在、5万1,000以上の「いいね」があり、2万1,000人がシェアをしている。ムーアはツイッターでもメッセージを送っており、その中のひとつでは、選挙人に直接訴えのメッセージを送ることができるリンクasktheelectors.orgを紹介している。このサイトによると、22万6,308人が、ここを通じて選挙人にメッセージを送ったそうである。

結果を覆すためには、トランプに入れた選挙人37人がクリントンに票を入れる必要がある。「L.A.TIMES」の報道によると、そうなる可能性はきわめて低いようだが、反トランプ派は希望を捨てていない。票はワシントンDCに送られ、1月6日に正式開票が行われて、米国上院を統括するジョー・バイデン副大統領が正式結果を発表する。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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