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マライア・キャリーがNY大晦日ライブで大失態。2016年の終わりにふさわしい?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
大晦日のタイムズスクエアに、最後のシンガーとして登場したマライア・キャリー(写真:ロイター/アフロ)

タイムズスクエアに集まった大勢の人々が、翌年に向けてカウントダウンをする様子を生中継で見るのが、アメリカの大晦日の過ごし方。東海岸と西海岸では3時間も時差があるので、ニューヨークで年が明ける時、L.A.はまだ午後9時なのだが、それでも大晦日の夜は、どの家庭も、この映像をテレビで見る。

おなじみのこの番組が、今年は、カウントダウン直前のパフォーマンスのせいで、普段にないレベルの注目を集めることになった。2016年の幕を閉じるシンガーとして現れたマライア・キャリーが、とんでもない失態をやらかしたのである。

キャリーは、午後11時35分ごろ、「蛍の光」で華やかに登場。だが、次の「Emotions」が始まると、「どうしたの」「聞こえないわ」とつぶやき、うろたえた表情を見せる。一瞬、歌おうと試みるも、すぐにやめてしまい、伴奏とバックコーラスが流れ、後ろでダンサーが踊り続ける中、肝心の歌手が舞台の上を意味なく歩き回るという、なんともまぬけな状況となった。その次の曲「We Belong Together」では、最初こそ大丈夫かと思えたものの、途中、彼女がマイクを離している時にも歌声が流れてしまい、リップシンクであることがバレてしまう。最後はさすがに彼女も、「もう降参」といったようなポーズを見せて、しらけた様子で舞台を去った。

キャリー側によると、イヤーピースと、彼女が歌詞を読むためのプロンプターが正しく機能しなかったのが、トラブルの原因らしい。キャリーは、本番前にその問題を番組のプロダクションカンパニーであるディック・クラーク・プロダクションに伝えていたのに、何もしてくれなかったということだ。

彼女に恥をかかせることで視聴率アップを狙ったディック・クラーク・プロダクションの企みだとキャリーは言うが、多くのアメリカ人は、彼女の言い訳に納得していない。ソーシャルメディアには、「自分の歌の歌詞すら覚えていないのか」「どんな状況でもパフォーマンスをするのがプロだろう」「ただお金が欲しくて出てきたんだね」といったような、彼女に対する批判のコメントが飛び交っている。同時に、「マライアは2016年が望んだパフォーマンスではなく、2016年に値するパフォーマンスをやったのかな」「マライアが2016年を最低の形で終わらせてくれたおかげで、来年は良くなる一方だね。自己犠牲をありがとう」などといった、これはむしろドナルド・トランプが大統領に選ばれるという狂った年の幕を閉じるのにふさわしかったとの皮肉も聞かれる。

キャリーの1年も、十分に狂っていた。

1月、キャリーは、たった半年程度の交際を経て、オーストラリアで4番目の金持ち、ジェームズ・パッカーと婚約し、ニュースサイトを賑わせる。当時はまだ、キャリーも、パッカーも、前の配偶者との間に離婚が成立していなかった。結婚を急ぐキャリーは、元夫ニック・キャノンに、離婚条件の合意書に早くサインをしてくれと急かす。だが、それがかなった直後に、突然パッカーから婚約を破棄された。パッカーとのいざこざが起こしたストレスのせいで、キャリーは南米のツアーを途中でキャンセルすることに(パッカー側は、キャンセルの真の理由はチケットの売れ行きの悪さにあったと主張している)。婚約破棄の代償として、キャリーはパッカーに5,000万ドルを要求したが、パッカーは、結婚していなかったのだから彼女にお金を払う法的な理由はないと拒否し、話し合いは行き詰まっている。それらのニュースに合わせて、彼女とパッカーが結ぼうとしていた尋常ではない婚前契約の内容の一部(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161107-00064161/)や、彼女の浪費ぶりなど、彼女のイメージ上、望ましくない情報も浮上することになった。

先月放映開始になったリアリティ番組「Mariah’s World」のプロデューサーも兼任するキャリーは、番組で、婚約者パッカーとの熱愛ぶりを見せつけるつもりでいた。しかし、この展開を受けて、パッカーの部分をカットし、代わりに新恋人でバックダンサーのブライアン・タナカを入れるべく、急遽、編集を変えている。先週の回では、キャリーの誕生日パーティで、ケーキの中から上半身裸のタナカが飛び出してきて、キャリーを相手にセクシーな動きをする様子が放映され、これまたいろいろなコメントを集めた。

昨夜のパフォーマンスの後、キャリーは、「2017年、もっと(ニュースの)見出しを飾ることに乾杯」と、やや自虐的なツイートしている。実際、13歳年下のタナカとの恋やパッカーとの争いの行方など、今年も彼女はいろいろと話題を提供しそうな気配である。しかし、かつて彼女は、7オクターブの声やアルバムの売上げ、数々の受賞、ギネスブック入りなどで見出しを飾った人。昨夜のパフォーマンスを見て、その頃を懐かしく思い出したファンも、少なくないだろう。

アメリカの娯楽業界は意外に寛大だ。大きな失敗をしたスターが這い上がるカムバック物語は、むしろ温かく受け入れられる。大恥をかいて年を明けた彼女が驚くべき成功を収めてみせたという見出しを、今年の暮れに、見ることはできるだろうか。そうなれば、素敵である。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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