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ハリウッド離婚:「今」なのはお金が理由。タイミングで変わる、いくら取れるか、取られるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
離婚申請をしつつ躊躇をしていたハル・ベリーとオリヴィエ・マルティネスがついに離婚(写真:ロイター/アフロ)

ハル・ベリーが、またもやシングルに戻った。3度目の夫オリヴィエ・マルティネスに離婚申請をしたはいいが、その後1年以上も迷い続け、裁判所から「このまま手続きを始めないようなら申請を却下します」と警告されていた彼女が突然にして行動を起こしたのは、先月28日。その書類の1ページめで、ベリーは、1月1日までに離婚を片付けてしまいたいと明言している。

新しい年に新しいスタートを切りたかったのかと思いきや、彼女の背中を強く押したのは、そんなありきたりの発想ではなかったらしい。もらえると決まったギャラを相手にいっさい渡したくないという、シビアな金勘定だったようなのだ。

年内にとする理由について、ベリーは、「今、仕事の契約をいくつか結ぼうとしているところで、もしこの日までに離婚が決着していない場合、ほかに大量の書類を用意することが必要になってしまいます」と記述。さらに、「これらの仕事に関する交渉はすべて、別居してしばらくたってから始めたものです」とも強調している。

マルティネスも素直に応じたようで、ベリーの願いどおり、迅速に離婚に至ることができた。財産分与の話し合いはこれからだが、別居後にオファーを受けたという仕事のギャラは、100%ベリーのものとなる。

一方、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」で悪役オーソン・クレニックを演じたベン・メンデルソーンの妻は、映画公開の1週間後の先月下旬、離婚を申請した。この場合、今作で彼がもらったギャラは、財産分割の対象となる。

「タイタニック」公開直後に離婚したキャメロンは58億円を払った

カリフォルニアでは、離婚の原因がどちらにあったかは関係なく、結婚している間に築かれた財産は基本的に二分割される(金持ちが自分より収入の少ない相手と結婚する時は、離婚時に払う額を最小限にとどめるべく、個別の婚前契約を結ぶことが多い。だが、これらにも絶対的な効力があるとは限らない)。多く稼ぐほうにとって不公平に見えるかもしれないが、ひとりがロケで遠くに行っている間、家で子供の面倒を見てくれているのは配偶者であるし、イベントにカップルで出席するのが普通のハリウッドでは、映画のプレミアで、配偶者も着飾ってレッドカーペットに立つことが期待されたりもする。つまり、それらの仕事がもたらした収入は、夫婦で稼いだものだという考え方なのである。

ジェームズ・キャメロンがリンダ・ハミルトンと離婚する時、結婚期間がたった1年半だったのに、5,000万ドル(約58億円)という大金を彼女に払ったのも、結婚中にキャメロンの「タイタニック」が公開されたからだ。「タイタニック」が映画史上2位の世界興収(21億8,600万ドル)を稼ぎ、その後DVDやブルーレイも爆発的に売れて、2012年には3D版も公開されたことを考えると、5,000万ドルはむしろ安かったと言えるかもしれない。

その意味で、ハリソン・フォードの2番目の妻メリッサ・マシスンは、もっとラッキーだった。21年も結婚していた彼女は、2004年の離婚時、8,500万ドルをもらうほかに、「スター・ウォーズ」2作と「インディ・ジョーンズ」3作からフォードが将来得るレジデュアル(映画がテレビ放映されたりDVDが売れたりするたびに発生する再使用料)も、ずっと受け取れる合意を取り付けたのである。「スター・ウォーズ」が3作でなく2作なのは、ふたりの結婚が、エピソード4「新たなる希望」(1977)より後の1983年だったからだろう。エピソード5「帝国の逆襲」(1980)の公開も結婚前で、本来ならば1作でよかったのではないかとも思えるが、いずれにせよ、「フォースの覚醒」「ローグ・ワン」で過去作を見直す人が増えた今、彼女の懐はさらに潤っているはずだ。

「ラ・ラ・ランド」(2月日本公開)のデイミアン・チャゼル監督のケースも、興味深い。昨年8月のヴェネツィア映画祭、9月のトロント映画祭などで映画はすでに上映され、大絶賛を浴びていたが、12月のL.A.プレミア直前になって、エクゼクティブ・プロデューサーとしてチャゼルの元妻の名前を入れるべく、エンドロールに手が加えられたのである。

離婚は2014年だが、ふたりはハーバード在学中に知り合った仲。チャゼルは、ブレイクのきっかけとなった「セッション」 (2014) の前から「ラ・ラ・ランド」の構想を持っており、実現のために努力をしていた。その間、チャゼルを支えていのが、彼女だったのだ。

あの段階でエンドロールを修正するのは、かなりお金がかかることらしい。そうやって手をかけても、気付く人はほとんどいないだろう。だが、もはや結婚していなくても、エクゼクティブ・プロデューサーの肩書きをもらった以上、彼女には、この映画が生み出す収益の一部が、将来にわたって入ってくることになったのである。それが彼の彼女に対するさりげない愛の証であれば、なんともこの恋愛映画にぴったりのエピソードだ。もちろん、ふたりの間で実際にどんな話し合いがあったのかは、本人たちにしかわからない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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