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トランプの就任演説は、「ダークナイト ライジング」ベインのセリフのパクリか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
就任式で演説をするトランプ(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ、その日がやってきてしまった。

ワシントンDCで東海岸時間正午にドナルド・トランプが宣誓をした20日(金)、反トランプ派がほとんどを占めるハリウッドは珍しくどしゃぶりの雨で、まるで空も泣いているようだった。就任式を見ると落ち込むから見たくないという人も多かったが、早朝からニュースはそのことばかり。映画業界サイトですら、就任式の模様をライブストリームで流す中、反トランプ派は、ソーシャルメディア上で、就任式に集まった群衆がオバマの時の半分にも満たないとからかったり、就任式に現れたヒラリー・クリントンの様子を話題にしたりしていた。

だが、そのうちに、あるツイートが登場。トランプの就任演説が、「ダークナイト ライジング」のベイン(トム・ハーディ)のセリフのパクリではないかというものだ。

発端のツイートをしたのは、「Deadspin」の編集者ティモシー・バーク。バークは、トランプが演説で「Giving it back to you, the people(あなたたち市民にお返しします)」という部分と、映画でベインがまったく同じセリフを言うシーンを並べた合計10秒の映像を投稿したのだが、間の取り方といい、口調といい、そっくりなのだ。その少し後には、別の人が、トランプの映像にベインのセリフを重ねたものを投稿している。

その前の部分を入れたトランプの言葉は、「今日の就任式は、特別な意味を持ちます。今日、私たちは、ただひとつの政権から次の政権に受け渡すのではなく、権力を、ワシントンDCからあなたたち市民にお返しするのです」というもの。ベインのセリフは、「腐敗した奴ら!金持ちの奴ら!チャンスをくれるとうそぶいてずっと君たちを抑圧してきた奴ら。僕らは君たちにこれを返そう。ゴッサムは、君たちのものだ」。同じではないものの、言っていることは似ている。単なる偶然かもしれないが、昨年の共和党全国大会で、メラニア・トランプがミシェル・オバマの演説をパクったことがばれて大恥をかいたのは、記憶に新しい。

もちろん、これからトランプが本当に何をするのか(あるいは全部口先だけで結局何もやらないのか)という恐怖に比べれば、彼がハリウッド映画を参考にしないとスピーチもできないのかどうかなど、どうでもいいことだ。反トランプ派にとっては、これもまた、不安を紛らわすための軽いネタのひとつにすぎない。クリス・ロックの「今晩、時計を300年前に戻すことを忘れないように」、ジョン・レジェンドの「過去2回の就任式は人でいっぱいだったのに、今回はがらがらだね」など、ツイッターには、なんとかジョークで乗り切ろうとするセレブのメッセージがいくつも見られる。

一方で、就任式前夜のニューヨークでの反トランプ集会でもトランプの真似をして笑わせたアレック・ボールドウィンは、就任式後、「ジョークやコメディはさておいて、今、僕らがどんな状況にあるのかをしっかり考えよう。この国は失われた。この国は、大きなトラブルに見舞われている」とまじめにツイートしている。ゾーイ・サルダナは、「この就任式を見ていて心に浮かぶのは、『後退』という言葉ね」、オリヴィア・ワイルドは「彼は私たちのために働くのよ。それが民主主義。情報と関心を持ち続け、声を上げましょう」、ジャド・アパトーは、「彼はやりたいことを結局何もできないよ。無知な人たちをだましただけだ」とつぶやいた。デイン・デハーンは、「今、アメリカにすごくがっかりしている」と書き、リアーナはオバマの写真の下に「こんなに辛い別れはないわ」とのメッセージを寄せている。

4時間にわたる前夜のニューヨーク反トランプ集会には、マイケル・ムーア、マーク・ラファロ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリアン・ムーア、シェイリーン・ウッドリー、シンシア・ニクソン、シェールなどが出席し、スピーチをした。寒い中、トランプ・インターナショナル・ホテル&タワーの前に集まった2万5,000人のニューヨーカーと、ライブストリームでその集会を見ている全米の人たちに対し、ムーアは、これから毎日、自分の地区の上院議員と下院議員に電話をするのを日課にしようと語りかけている。

ドナルド・トランプ政権は、今日が初日。それはまた、ムーアが呼びかけ、ハリウッドの多くも賛同する「100日の抵抗」の第1日目でもあるのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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