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ライアン・ゴズリング、売れない頃は「友達の家のカウチで寝させてもらったことも」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ラ・ラ・ランド」でオスカー主演男優部門に候補入りしているライアン・ゴズリング(写真:REX FEATURES/アフロ)

ライアン・ゴズリングが、今また勢いに乗っている。

2013年の「オンリー・ゴッド」以来、しばらくスクリーンから遠ざかっていた彼は、昨年のオスカーにノミネートされた「マネー・ショート 華麗なる大逆転」に主要キャストのひとりとして出演。そして昨年は、コメディ「ナイスガイズ!」がカンヌ映画祭で、「ラ・ラ・ランド」がヴェネツィア映画祭でプレミアされて、注目を浴びることになった。「ラ・ラ・ランド」はその後、数々の賞に輝き、現地時間26日のアカデミー賞にも最多部門でノミネートされている。ゴズリングも、主演男優部門に候補入りした。「Half Nelson(日本未公開)」(2006)以来、10年ぶりにして2度目のオスカーノミネーションだ。

「ラ・ラ・ランド」は、彼にとって初めてのミュージカル映画。今作のためには、これまでほとんど習ったことがなかったピアノの猛特訓を受けている。歌とダンスもあるが、こちらに関しては、13歳の時、ディズニーチャンネルの「The All New Mickey Mouse Club」で、当時まだ無名だったジャスティン・ティンバーレイク、ブリトニー・スピアーズ、クリスティーナ・アギレラと共演した経験をもつ。

彼らが歌の道に進んだのに対し、ゴズリングは着々と俳優としてのキャリアを積んできた。今年は「ブレードランナー 2049」も控え、その後には「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督によるニール・アームストロングの伝記映画「First Man」に主演することも決まっている。

私生活では、ふたりの女の子のパパ。母親は、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012)の共演で出会ったエヴァ・メンデスだ。長女の出産があったこと、「ロスト・リバー」で監督に初挑戦したこと(メンデスも出演している)が、しばらくごぶさたした理由。その時期を、「僕にとっては非常に生産的だった」と、彼は語る。プライベートな話題は避けたがる彼だが、先月のゴールデン・グローブ授賞式の受賞スピーチでは珍しく彼女に感謝の言葉を贈った。

キャリアも私生活も絶好調のゴズリングも、若い時には、「ラ・ラ・ランド」の主人公たちのように苦労を経験している。映画の舞台となるL.A.で、その頃を振り返ってもらった。

写真/Dale Robinette
写真/Dale Robinette

「ラ・ラ・ランド」でエマ・ストーンが演じるミアは、無名の若手女優。コーヒーショップでバイトをし、3人のルームメイトと住んでいます。あなたにも同じような時期があったのでしょうか?

ああ、僕も十分、ああいう典型的な経験をしているよ。ルームメイトと住んだこともあるし、友達の家のカウチで寝させてもらったこともある。そういうのはたっぷりやった。だが、僕は、そこから抜け出す幸運に恵まれた。幸運に出会えるためにはもちろん努力を積まなければいけないが、同時に、運そのものに恵まれている必要もある。

ミアがオーディションでひどい扱いを受けるシーンがいくつか出てきます。ああいう思い出もありますか?

デイミアンは、僕らの過去のオーディションの思い出を教えてほしいと言ってきたんだよ。僕の経験のひとつは、映画に生かされている。最初のほうで、ミアがオーディションをしている途中に、キャスティングをする人のうちのひとりに電話がかかってきて、出るというやつだ。僕がオーディションでやらされたシーンは、かなり感情的なシーンで、前の夜は寝ないで練習をしたんだよ。だが、やっている途中、電話が鳴って、その女性は電話を取った。僕はそのまま続けるべきかどうか迷ったが、彼女は「続けて」としぐさで告げてきた。それで、僕は、誰も聞いていない中、泣きながらせりふを言うはめになった。彼女は電話の相手と、どこでランチをするか相談していたよ。

それで、その役はもらえたのですか?

いや、まだ答を待っている状態さ(笑)。

「ラ・ラ・ランド」への出演は、どのように決まったのですか?

僕はその前にデイミアンに会っていた。この映画とは全然関係がない状況でね。その時に、彼が映画に対してとてつもない情熱をもつ人だとわかっていたよ。彼と話していると、自分もすごく興奮するんだ。僕はとくにミュージカルのファンではない。でも、彼が作ろうとしている映画は、誰もが共感できる映画だと感じた。これは、ふたりの男女の関係を描くもの。それなら僕にもできるかもしれない。さらに、相手はエマだという。すでに知っている人と共演するのは、一から関係を築き上げなくていいから、うれしいことなんだよ。

チャゼル監督によると、あなたが演じるジャズピアニストのセバスチャンは、最初の脚本で、もっと初々しく楽観的な男性だったとのこと。しかし、あなたが、彼をもう少し現状に疲れた皮肉っぽい面をもつ人にするべきだと提案し、そのように書き換えられたとのことです。

僕が演じるのであれば、年齢的にもそのほうが正しいと思ったからさ。彼はトライし続けては否定され、失敗し、疲れているはずなんだ。そういう状況にいる彼のほうが、興味深いと僕は思った。映画の最初で、彼は不満と怒りに満ちている。だが彼女に出会い、彼はそこから救われる。そういう変化を演じられるのは楽しかったよ。

写真/Dale Robinette
写真/Dale Robinette

ピアノはかなりの挑戦だったようですよね。念のために監督はピアノの代理を用意していたのに、その人の出番はいっさいなかったのだとか。

ピアノを弾けるようになりたいとはいつも思っていたが、その努力をしたことはなかった。今作が、その機会をくれたんだよ。せっかくだから、これからも続けたいと思っている。僕の実例を通じて、いくつになっても遅くないんだというメッセージを人々に伝えられればとも願っているよ。35歳の僕が、3ヶ月か4ヶ月必死になった結果、信じられない結果を得られたんだ。本気になったら、人は思いもかけなかったことができるもの。「もうちょっと若かったらやったんだけどな」と言うのは違うんだ。

今作が大絶賛を受けたことを、どう感じていますか?

今作に関わった僕らはみんな、これがすごく特別な映画だと感じていた。古き良きハリウッドミュージカルなんて、もはや作られないと思っていたからね。だけど、観客にもここまで受け入れられたことに、正直、驚いている。もちろん、うれしい驚きだ。この映画には、多くの優れた人たちが貢献している。ポスターに出ているのは僕とエマだけど、作曲家、ミュージシャン、それらの歌を歌ったシンガー、踊ったダンサー、そういった才能ある人々のおかげで、この映画があるんだ。彼らの仕事ぶりを見てもらえることも、今作が成功したことに喜びを感じる理由のひとつだよ。

「ラ・ラ・ランド」は24日(金)全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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