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オスカー授賞式:作品賞の発表間違いハプニングはなぜ起きた?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
封筒が間違っていたと知った「ラ・ラ・ランド」製作者とウォーレン・ベイティ(写真:ロイター/アフロ)

「あいつらは政治にばかり気を取られていて、最後にあんな間違いをやらかしたのだ」。

オスカー授賞式から一夜明けた米時間27日(月)、トランプ大統領は、そういって得意げにハリウッドを攻撃した。

トランプの言う“最後の間違い”が何なのかは、もう言うまでもない。作品賞が「ラ・ラ・ランド」だと発表され、製作者やキャストが舞台に上がった後、本当に受賞したのは「ムーンライト」だとわかったのである。同僚プロデューサーが受賞スピーチをしている間、すでにスピーチを終えてそばに立っていたジョーダン・ホロウィッツは、関係者に封筒を取り上げられ、事態を理解。「間違いでした。作品賞は『ムーンライト』です。舞台に上がってきてください。冗談を言っているのではありません」と、「ムーンライト」の製作者たちを壇上に呼んだ。さらに、ホロウィッツは、「ほら、『ムーンライト』です」と正しい封筒の中身を会場に見せている。

プレゼンターのウォーレン・ベイティの説明で、原因は、間違って主演女優賞の封筒が渡されていたことだったとわかった。封筒を開けた時、「エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』」と書いてあったため、ベイティは隣に立っていたもうひとりのプレゼンター、フェイ・ダナウェイに見せたのだが、ダナウェイは「ラ・ラ・ランド」という部分だけを見て、発表してしまったのである。

プレゼンターに封筒の手渡しを行うのは、過去83年間、オスカーの集計作業を任されてきた会計コンサルティング会社プライスウォーターハウス・クーパーズ(PwC)のマーサ・ルイスとブライアン・カリナンだ。本番前に受賞結果を知っているのは世界でこのふたりだけで、ふたりは結果を暗記もしている。受賞結果が入った封筒は、同じものがふたつずつ作られ、授賞式当日は、それぞれが1セットずつ持って、舞台の両側の袖に控える。プレゼンターが右から入って来るのか、左から入って来るのかによって、そちら側にいるほうが、封筒を渡す。つまり、受賞発表が行われた部門に関しても、封筒はひとつ残るのだ。そしてどうやら、ベイティは、すでに発表があった主演女優部門の封筒を渡されてしまったようなのである。

封筒のデザインが変わったのも悪かった?

絶対に起こってはいけない間違いで、PwCは、即座に「原因を追求する」と自分たちの非を認める謝罪の声明を発表した。一方で、今年から封筒のデザインが変わったのも良くなかったのではないかとも指摘されている。昨年まで使われていたのはゴールドの封筒で、表には、白地に黒の字で、「主演男優賞」「作品賞」などと部門が書かれたものが貼られていた。新しいデザインは赤で、その上に直接、部門がゴールドの字で書かれているため、読みづらくて、間違った部門のものであるとすぐにはわからなかったのではないかというのである。

ベイティの対応もよくなかったとの声もある。封筒を開けた時、彼は明らかに迷ったような表情になっており、この時にホストのジミー・キンメルに言うべきだったというのだ。しかし世界中が見ている生番組で、思わぬことが起き、とっさに冷静な判断ができなかったとしても、責められないかもしれない。

追悼映像にも間違いが

いずれにしても、これは、「ラ・ラ・ランド」に対しても、「ムーンライト」に対しても、失礼な大失敗だ。間違いだとわかる前に、「ラ・ラ・ランド」のプロデューサーたちは、3人も、感謝のスピーチをしていたのである。後ろではエマ・ストーンが涙ぐむような表情にもなっていた。それが、まさに文字通り、抱えていたオスカー像を、「ムーンライト」側に手渡すことになったのである。「ムーンライト」のほうにしても、感動の瞬間が損なわれてしまった。いくらもらえたことに変わりはないとはいえ、オスカーの受賞は、一生に何度もあるものではない。

また、これとは別のミスが起こっていたことも判明している。お悔やみの映像の中で、オーストラリア人の衣装デザイナー、ジャネット・パターソンの部分に使われていた写真が、本人のものではなく、彼女の友人で今も生存するジャン・チャップマンのものだったのである。これについては、今のところ、何の説明もなされていない。

こんなふうに大騒ぎのあった授賞式だが、実際に見た人は少なかった。視聴率は昨年に比べ9%ダウン。広告主が重視する18歳から49歳の層では13%ダウンした。視聴者の数は3,290万人(アメリカでは、視聴率を%では表示しない)で、過去9年で最低となっている。こんなありえないハプニングが起こったとあれば、見ておけばよかったと思っている人もいるだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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