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リドリー・スコット、イーストウッド、ウディ・アレン:平均寿命を超えても、次々映画を作り続ける秘訣

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
79歳のリドリー・スコットは、今もばりばり働いている(写真:REX FEATURES/アフロ)

リドリー・スコットに、充電は無用。

ほぼ2年に1本のペースで映画を監督し続けてきているスコットは、最新作「エイリアン:コヴェナント」を、つい最近完成させた。だが、映画が北米公開となる5月にはもう次の映画の撮影に入ることが、急遽決まっている。「All the Money in the World」というタイトルで、70年代に起きたジョン・ポール・ゲティ三世誘拐事件についての映画だ。

本来、スコットは次に、ドン・ウィンズロウのベストセラー小説にもとづく「ザ・カルテル」を監督する予定だった。だが、こちらの脚本がまだ完全ではなく、ならばその合間にもう1本撮れると思ったらしい。キャストも未定で、現在、ナタリー・ポートマンに母親役を持ちかけているようだが、それにしてもすごいエネルギーである。

映画を監督するのは大変な仕事で、「監督はやってみたいけれども、1本に2年もかかるし、その間、ずっときつい。俳優は1年に3つ映画を作れるから、そのほうがいい」と言うハリウッドスターもいる。だが、スコットには、まるで苦痛ではないようだ。SFホラー大作から間髪おかずに実話映画のイタリアロケを決行できてしまうのも、お見事としか言いようがない。

81歳のウディ・アレンは年1本のペース

スコットは現在79歳。アメリカの男性(彼はイギリス人だがL.A.を主なベースにしている)の平均寿命78.74歳を、すでに超えている。普通ならば悠々自適の引退生活を送っていてもいいはずなのに、若手顔負けに仕事をしている映画監督には、彼のほかに、クリント・イーストウッド(86)や、ウディ・アレン(81)などがいる。

アレンは年1本、イーストウッドも最低でも2年に1本のペースで、2014年には「ジャージー・ボーイズ」と「アメリカン・スナイパー」の2本を公開した。 筆者が、アレンとのインタビューで、そのエネルギーはどこから来るのかと聞いた時、彼は、「いや、エネルギーなんて必要ないよ。土木作業員が1年間毎日仕事するのだとしたら、それは大変だろうけど。脳外科医みたいに難しくもないし、月に人を飛ばすわけでもない。2ヶ月で脚本を書いて、俳優を雇って、ロケ場所を見て、撮影するだけのことだ。4ヶ月に1本作るならさすがにきついだろうが、僕は1年に1本だよ」と、お得意のユーモアを持って答えている。

全体の製作ペースも早いが、本番の撮影も同じだ。

「僕はテイクが少ない。ひとつのシーンを全体から撮ったら、次に行く。ほかの監督みたいに、まず全体、次にこっちの人のクローズアップ、そしてあっちの人のクローズアップ、それから二人一緒のショット、みたいに、何回もやる我慢強さは、僕にはないんだ。リハーサルはやらない。退屈だから。それに、僕はコメディを作るが、リハーサルを1、2回やってしまうと、もう可笑しくなくなる。いや、可笑しいのかもしれないが、わからなくなる」。

共通するのは、無駄のない撮影方法

スコットとイーストウッドも、テイクが少ないことで有名だ。

「オデッセイ」でスコットと組んだマット・デイモンは、彼が同時に複数のカメラを回し、必要なショットを効率良く撮ってしまうことに驚かされたと語っている。「『もう1テイクやらせてもらえますか?』と聞いたら、『どうして?君はみんなの時間を無駄にしたいのか?』と言われちゃったよ」とも言って笑った。

スコット本人いわく、彼のテイクは、基本的に2回 。

「僕はテレビ番組の監督からこの業界に入った。そこでは しっかりリハーサルをやるという昔ながらの伝統が守られていたが、僕はリハーサルしすぎることの危険を、その経験から学んだんだ。何度もやると、俳優の自然な直感が失われてしまう。だから、僕は4つのカメラを使って、俳優がまだ直感と、少しの恐れを抱いている瞬間をとらえるんだ」。

イーストウッドも、「俳優が、まだ多少の迷いを持っている、最初のテイクが好き」と語っている。 「(泣くシーンで)俳優はプロだから、何度でも泣ける。でも、何回も繰り返すと自然さがなくなるし、何回もやらされるだろうとわかっていると、最初からセーブするようになる」というのも、テイクをやりすぎない理由の一つだ。

「J・エドガー」で初めてイーストウッド映画に主演したレオナルド・ディカプリオは、「クリントは、今ので良いと思ったら次に行く。すごく速いペースで進むんだ。あそこまで自分の直感を信用する監督を、僕は見たことがないよ。俳優を常に緊張させておきたいと言う意図もあるみたいだ。彼は俳優に自由にやらせるが、伝えたいことをどう伝えれば良いかもわかっている。だから僕らはすぐ理解できる。クリントとまた仕事をしたくてたまらないよ」と、彼のやり方を絶賛している。

不必要に長い時間をかけないことで、自分も楽ならば、俳優やクルーも喜び、「またこの人の現場で仕事をしたい」と思ってくれる。そうやって最高の才能を集められれば、その人たちにそれぞれの分野を安心して任せることができ、やるべき仕事が減るという好循環なのだ。

原動力は、仕事への愛

もちろん、手際が良いだけで、こんなに次々と、しかも素晴らしい作品を作り続けることはできない。原動力は、仕事への愛だ。

「僕は物を読むのが好きで、面白い話に出会ったら、語りたくなるんだよね。『ジャージー・ボーイズ』みたいな話であれ、アクションであれ、変わった人生を送っている人についてであれ、素材を本当に気に入っているからこそやるんだよ」とイーストウッド 。一方、毎回、脚本から自分で書き下ろすアレンは、アイデア不足に陥ったことなどないという。

「僕の頭の中には、ひどいアイデアがいっぱいある。それらを思いつくたびに紙に書き出し、時々、広げて並べてみるんだ。中には、そこから良くなっていくアイデアもあれば、別のアイデアにつながっていくこともある。悪いアイデアを映画にしてしまって、ひどい作品を作ってしまうこともある。でも、アイデアだけはたっぷりある」。

アレンは、最近、ケイト・ウィンスレット主演の次回作「Wonder Wheel」を撮り終えたところ。イーストウッドは、次に、実話にもとづく「 Impossible Odds」を監督することが決まっている。スコットは、先に挙げた2作を監督するほか、この秋公開の「ブレードランナー2049」をはじめ、多数の映画やテレビ番組にプロデューサーとして携わっている。

「引退したら僕は何をするんだろう、ゴルフでもするのかなあと漠然に考えたことはある」と言うイーストウッドは、「ゴルフは好きだが、ゴルフをしないといけない状態は嫌い」とも語る。

「今の僕に、引退するつもりはない。中には早く引退して、それを楽しんでいる人もいる。仕事がなくて、やむなく引退する人もいる。フランク・キャプラも60代でやめてしまった。90代まで生きたのに、どうしてそんなに早くやめたのかなあと、いつも思っていたよ。単にやりたくなくなったのか、それともテーマがなくなったのか。かと思えば、ジョン・ヒューストンのように、最後の映画『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』を、酸素ボンベをつけて車椅子に乗って作った人もいるよね。あれはとても良い映画だ。つまり、ここには決まったルールなんかないんだよ」(イーストウッド)。

今のところ、「このまま突っ走る」が彼ら自身のルールらしい。この人たちがどんどん映画を作り続けてくれるのなら、映画ファンとしては、もちろん大歓迎だ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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