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厚労相さえも理解できない派遣法改正案の中身~そのゴマカシの“歯止め”措置

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

派遣法改正案をめぐり、国会は異常事態が続いております。

「異常な国会運営」野党欠席 派遣法改正案 衆院厚労委

よくこういうのって、「野党が戦術としてやってんでしょ?」って冷めた見方をする人がいると思いますが、今回ばかりは野党が怒るのも無理はないのです。

塩崎大臣さえも理解していない法案

もともと塩崎厚労大臣は、自分のところの出した法案の内容さえ十分に理解できていないことが指摘されていました。

「大臣が派遣法の中身を全く理解していないことこそ、法案の本質的欠陥」枝野幹事長

まぁ、対決法案でないなら分かりますが、派遣法改正案は今国会における最注目法案の一つですからね。

大臣ももう少し勉強しないとダメでしょう。

で、トドメがこれでした。

厚労省、派遣法巡る大臣答弁を「訂正」 野党は抗議

塩崎大臣は誤った理解の下、法案内容と異なる説明をしていた!

問題となったのは、5日の衆院厚労委の答弁。労働組合が反対しても企業が派遣労働者の受け入れ期間を延長した場合について、塩崎氏は「企業内の民主主義が成り立たず、労働局が指導をすることは当然だ」。

ところが厚労省は6日、組合の反対に「(企業が)対応方針を説明しなかったような場合」を労働局が指導する条件とする文書を厚労委の理事懇談会に提出した。企業が組合に事情を説明しさえすれば、派遣の受け入れ期間の自由な延長が事実上可能となる内容だ。

出典:朝日新聞デジタル

これは「訂正」ってレベルではありません。もともとは反対意見を無視して期間延長をしたら「指導」としていたのですから。「説明しなかったから」とは話が全然違います。

当然ですが、労働局の「指導」には法律の裏付けが必要です。労働局が法律に書いていないのに、勝手気ままな判断で「指導」はできないのです。

ところが、大臣は、「指導することは当然だ」としてしまったのです。

そもそもどういう内容になっている?

今回の改正案では、派遣先が使っている派遣社員が、派遣元と有期労働契約をしている場合、3年を超えて派遣を利用しようとする際に、過半数労組等から意見を聴く義務が盛り込まれています。

一応、趣旨としては、こうすることで正社員が派遣社員に置き換わることを防ごうという目的です。

たしかに一見すると、「労働側の意見を聴くんだから、歯止めになるじゃん」となりそうです。多分、あくまでも多分ですが、塩崎大臣もこのように思ったのでしょう。

ところがどっこい、これはただ意見を聴きさえすればいいだけなので、過半数労組等が反対意見を述べても、派遣先企業は「あいつらが反対するけど、派遣は必要」と判断すれば、意見を無視して派遣を利用し続けられます。

もちろん、塩崎大臣が「訂正」したように、派遣先企業は労組等に「説明」が必要です。しかし、説明すりゃいいだけですので、な~んの歯止めにもなっておりません。

という、こんなゴマカシの歯止め措置なのです。パッと見た印象と中身はかけ離れているんですね。

塩崎大臣の純真な答弁

「意見を聴くのに、無視できる?! なにそれ、おかしいじゃん!」と思いますよね。

多分、あくまでも多分ですが、塩崎大臣もそう思ったのでしょう。

だから、過半数労組等が反対しても、派遣先が派遣の受け入れ期間を延長した場合について

「企業内の民主主義が成り立たず、労働局が指導をすることは当然だ」

と答弁したんだと思われます。

これは、とても純真無垢な普通の感覚です。

塩崎大臣さえ騙してしまったゴマカシの歯止め措置

この「普通の感覚」では通じないのが、このたびの派遣法改正案なのです。

労働者側の意見を聴く、という耳触りの良い言葉で国民を欺こうとしていたのですが、まさか自分のところの大臣まで騙してしまうとは、この法案を作った人たちからすれば、快心の一撃だったのではないでしょうか。

その意味で、野党側が「大臣が欠陥法案だと認めた」というのはもっともな言い分なのです。

にもかかわらず、与党がこの派遣法改正案を通すように手続を強行すれば、そりゃ野党も反発しますよね、ということです。

ですので、「戦術」というよりは、政府・与党のいい加減さと強引さが生み出した異常事態だと言えるでしょう。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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