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<残業代ゼロ制度>「時間でなく成果で評価される」という大ウソ~ただのブラック企業合法化制度

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

政府は、1月16日、「今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)」を公表しました。

この文書でいわゆる「残業代ゼロ制度」と呼ばれている制度の骨格が記載されました。

政府が付けたその制度の名前は・・・

特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)!

伝説のネーミング「家族団らん法」ではなかったようです!(>_<)

とはいえ、いかにも労働者を煙に巻こうとしているわかりにくいネーミングだと思います。

「時間でなく成果で評価される」という大ウソ

政府は、なぜこんな特定高度何ちゃらとかいう制度を導入しようとしているのでしょうか。

この点、報告書骨子案では、こう述べています。

引用

時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため

出典:今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)

こんなニーズが法律を変えなきゃならんほどあるのか?!という点は措くとして、「時間ではなく成果で評価される働き方」がこの制度の導入で達成できるか、見てみましょう。

というわけで、項目別に見てみると・・・

(本文については原文をお読みください)

(1)対象業務

うんうん。何が対象業務になるかということね。とりあえず、わかりにくいし、省令で定めるんじゃ、国民に見えにくいところで拡大されちゃうよね。

(2)対象労働者

ほうほう。これが例の1075万円の話ね。経団連は400万円が本音だから、制度が入れば絶対下がるってやつね。しかもこれも省令ね。

(3)健康管理時間、長時間労働防止措置(選択的措置)、面接指導の強化等

へいへい。なんか罰則もなくて実効性に疑問が措置のオンパレードだが、こういうの入れてごまかそうとしているんだね。唯一罰則が検討されている面接指導って、ほとんど意味ないんだよね。

(4)対象労働者の同意

そうそう。労働者の同意を要件にしておけば会社は責任逃れできるよね。会社が本気出せば、労働者の同意なんていとも簡単にとれるのにね。

(5)労使委員会決議

はいはい。制度の導入の要件に労使委員会の決議が必要とする形ね。これは既に裁量労働制である制度だよね。これもまたあまり意味ないんですよね。

(6)制度の履行確保

はあはあ。対象労働者の適切な労働条件の確保は、厚生労働大臣が定める「指針」でやるのか。罰則とかで強制するんじゃないんだ。ゆるゆるだね。

(7)年少者への適用

ふむふむ。さすがに年少者への適用はしないのか。当たり前か。

以上、おわり。

・・・・・。

あれあれ?

「成果で評価される」という点が、どこにも全く書かれていないぞ。

なんでこの制度を導入したら、成果で評価されることになるのだろう?

最初の「ニーズ」に全然答えてないじゃないか。

実は、書いてないのも無理はないのです。

なぜなら、成果で評価される働き方って、残業代をゼロにしなくても導入できるからです。

現行法でも、使用者が、成果を上げた労働者に対し、時間と関係なく十分な賃金を払うことは、誰も禁止していないのです。

逆に、法定時間を超えて働いた場合は割増賃金(残業代)を払うことが強制されています。

さてさて。

この制度の導入で何が使用者に強制されるのでしょうか?

実は、成果で評価することや成果に応じた賃金を払うことは全く強制しておらず、逆に今まで使用者に強制されていた残業代の支払いが免除されることになるのです。

そう、それがこの制度の最大の狙いなんです!

ただのブラック企業合法化制度だったんです!!

ガ━━(゚д゚;)━━ン!!

長時間労働をなくすことと今ある残業代不払いを是正することこそ大事

今やるべきことは、まん延する長時間労働、それによる過労死・過労うつが起きないような法制度を作ることです。

この報告書の前半には、「働き過ぎ防止のための法制度の整備等」が書いてありますが、はっきり言ってぬるすぎます。

本末転倒のこの制度を導入されないよう、法案になってしまう前に、ぜひ反対の声をあげていただければと思います。m(_ _)m

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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