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1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいい?~残業代ゼロ制度の笑えない「健康確保措置」

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

またまた「残業代ゼロ」制度(「定額¥働かせ放題」制度)のお話です。

今回は「残業代ゼロ」制度の健康確保措置を少し注意深く見てみましょう。

前回、八代尚宏先生の署名記事を批判した拙稿(過労死を促進させる「残業代ゼロ」法案を「過労死防止法案」と呼ぶべきとする珍論について)でも指摘しましたが、「残業代ゼロ」制度には、健康確保措置というものがあります。

健康確保措置

内容は、次のとおり。

<健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置(選択的措置)>

・ 健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置について、具体的には、制度の導入に際しての要件として、以下のいずれかの措置を労使委員会における5分の4以上の多数の決議で定めるところにより講じることとし、決議した措置を講じていなかったときは制度の適用要件を満たさないものとすることが適当である。

(1) 労働者に24 時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること。

(2) 健康管理時間が1か月又は3か月について一定の時間を超えないこととすること。

(3) 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104 日以上の休日を与えることとすること。

出典:今後の労働時間法制等の在り方について(報告)

これを見ると分かる通り、(1)~(3)のどれか1つを導入すればOKということになります。

「そっかぁ、どれか1つ取ってくれるのなら、ま、いっかぁ(^~^)モグモグ」

と、のんきに思っている場合ではないんですね。

これは労基法の一部の適用を除外する制度

そもそも、「残業代ゼロ」制度=「定額¥働かせ放題」制度は、報告書で次の法的効果を持つと記載されています。

(6) 法的効果

・ 以上の要件の下で、対象業務に就く対象労働者については、労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用除外とすることが適当である。

出典:同前

これは、どういうことかと言いますと、

(労働時間)

第32条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

出典:労働基準法

という1日8時間、週40時間という労働時間制限の規制や、

(休憩)

第34条  使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

出典:労働基準法

という6時間を超えて働かせる場合の45分の休憩、8時間を超えて働かせる場合の1時間の休憩を取らせなければいけないという規制や、

(休日)

第35条  使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

2  前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

出典:労働基準法

という週1回の休日や4週4回の休日に関する規制、

こういった規制の全部が適用除外されるということです。

もちろん、「残業代ゼロ」制度と呼んでいますとおり、割増賃金に関する条文(労基法37条)も適用除外です。

そうなるとどういうことになるか

ここで民主党の山井衆院議員のツイッターを見てみましょう。

厚労部会。残業代ゼロを議論。高度プロフェッショナルで残業代ゼロ制度の対象になれば、年間5日間さえ有給休暇をとらせれば、毎日16時間勤務、360日連続勤務も合法になる。との厚労省からの説明「そんな働き方をしたら死ぬ」と一同、唖然。#fb

出典:山井和則衆議院議員ツイッターより

はい。こういうことになります。

先ほどの健康確保措置のうち、

(1) 労働者に24 時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとし、かつ、1か月について深夜業は一定の回数以内とすること。

これを選択します。

たとえば、この「一定の時間」が8時間だったとします。

すると、規制としては、仕事の終業時刻から次の仕事の始業時刻まで8時間を空ければいいわけですので、最大1日16時間まで働かせることが可能となります。

そして、あとはフリーとなります。何の規制もございません。

となれば、使用者が労働者に有給休暇を最低限5日は取らせることが義務化されたと仮定したとしても、

1日16時間、360日連続勤務も合法となるわけです。

これがこの制度の破壊力です。

他には?

他にもこういうパターンが考えられます。

先ほども3つのうち、

(3) 4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じ104 日以上の休日を与えることとすること。

を選択したとします。

そして、あとはフリーとなります。何の規制もございません(2回目)

従いまして、1日24時間働かせても何ら問題ございません。

まぁ、24時間は極端だから、少なく見積もって、その半分の12時間くらいにしてみましょうか?

そうすると、

365日-(104日+5日)=256日

256日×12時間=3072時間

1カ月あたり256時間労働。労基法の規制があれば、これはおよそ月間80時間の時間外労働となります。

「ブラック法案によろしく」より
「ブラック法案によろしく」より

はい。そうです。過労死基準突破ですね。

おわりに

以上が、「残業代ゼロ」制度=「定額¥働かせ放題」の健康確保措置の正体です。

1日24時間働くのと、1年360日働くのと、どっちがいいですか?

と言われても、どっちも嫌ですよね。

しかも、これが健康確保措置だと言われたら笑うしかないかもしれません。

いや、笑えないですね。

悪い冗談にしか思えませんが、こんな制度が今、作られようとしているのです。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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