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「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その3

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

さて、その3です。

まぁ、八代教授のフリップの3番目

女性・若者・高齢者が活躍しやすくなる

というのは、そもそも八代教授自体が説明できていないので、無視します。

そしてついに私が出したフリップです。

本シリーズの「その3」で、やっとこ初登場です!(^。^)

BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より
BS11 報道ライブ21 INsideOUT 3月3日放送より

私は、この3つを「残業代ゼロ」制度のデメリットとして挙げました。

過労死・過労自死が増加する

まず、過労死や過労自死が増加すると考えます。

既に過労自死は増えています。

また、過労死は減っていません。

岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より
岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より

グラフから分かるとおり、過労自死の労災請求件数は右肩上がりです。

そして、特に過労自死は、いわゆるホワイトカラーに多いと分析されています。

それは次のグラフを見ると明らかです。

岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より
岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より

ホワイトカラー労働者の過労自死の請求件数が顕著に右肩上がりであることがわかると思います。

さらに、ショッキングなことに過労自死は若者に多いと分析されています。

岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より
岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)より

20代、30代の過労自死の多さは過労死を大きく上回っていることが分かると思います。

これが現状です。まず、この現状認識が必要だと思います。

そこに、この制度が導入されるとどうなるでしょうか?

ある調査で、雇用形態による労働時間の長さを調査したものがあります。

それは、「働く場所と時間の多様性に関する調査研究」というもので、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2009年に実施した調査です。

これによると、次の結果が導かれています。

時間管理のない労働者(1カ月の労働時間)

* 221時間以上が43.4%

* 281時間以上が21.2%

これは管理監督者扱いをされ、残業代が出ない労働者が該当します。

裁量労働制・みなし労働(1カ月の労働時間)

* 221時間以上が50.8%

* 281時間以上が17.7%

こちらも一定の残業時間をみなした労働者が該当します。

この制度の場合、一定の時間以上働いても残業代は増えません。

ちなみに、221時間以上は、法定労働時間を基準とすると、およそ50時間ほどの残業時間となります。

281時間以上となると、100時間超の残業時間となります。

では、他方で、通常の勤務時間制度の労働者はどうでしょうか?

彼らの時間外労働に対しては残業代が払われます(払わないと違法です)。

通常の勤務時間制度(1カ月の労働時間)

* 221時間以上が25.2%

* 281時間以上が 5.6%

全然違いますね。

一目瞭然といってもいいでしょう。

こうした調査結果を見れば、時間管理を労働者の「自主性」にまかせて、定額賃金とする制度の労働者の長時間労働が際立つわけです。

にもかかわらず、同じような新しい制度である「高度プロフェッショナル制度」とか訳の分からないネーミングをして導入しようとしているのです。

こうした調査結果に加え、先に指摘した過労自死が増加している現状、そのうちホワイトカラー労働者の自死などが多いことを合わせれば、私がこの制度について指摘した

過労死・過労自死、過労による精神疾患が増加

というデメリットが当てはまることをご理解いただけるかと思います。

そして、こうした制度を作らせてはいけないと強く思うところです。

【参考文献】

岩波ブックレット『いのちが危ない 残業代ゼロ制度』(森岡孝二ほか)

(その4へ続く)

「残業代ゼロ」法案(定額¥働かせ放題)推進派との議論で見えてきたこと その4(了)

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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