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やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換か? 派遣法改悪案が衆院通過の危機!!

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

維新の党が採決を受け入れる姿勢に転じたため、派遣法案の衆院通過が見えてきてしまいました。

改正派遣法:今国会で成立へ…維新、採決受け入れ

派遣法改正案、衆院採択へ…維新と自公折り合う

上記の報道によれば、維新の党が提出している「同一労働同一賃金」の議員立法の成立に、与党が協力するということで、これまでの「徹底審議」という姿勢を一転して、採決容認に転じたということです。

なお、採決では維新の党は反対する予定とのことです。

6月8日追記

与党、国会運営に乱れ 安保・派遣 審議遅れる

この日本経済新聞の記事によれば「維新が応じれば」との記載になっていますので、維新の党としては本決定をしたわけではないようです。その関係でタイトルを変更しました。

旧「やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換したため派遣法改悪案が衆院通過の危機!!」

新「やばい!維新の党が徹底審議の方針を転換か? 派遣法改悪案が衆院通過の危機!!」

素人目に見ても「無理筋」な政治取引に応じてしまった維新

しかし、この維新の党の姿勢には首を傾げざるを得ません。

維新の党は、労働政策について、

同一労働・同一条件の徹底により、正規雇用と非正規雇用の垣根の解消。

出典:維新の党「基本政策」

と掲げています。

これが維新の党の基本政策ですから、この政策の実現の確約が取れたというのであれば、与党と妥協する政治もあるのだろうと理解できます。

ところが、報道によると、今回は「施行後3年以内に法制上、財政上、税制上の措置」などを講じるとの文言を入れることで満足してしまったといいます。

言うまでもありませんが、同一労働同一賃金を実現するためには、使用者にそれを義務づけしないといけませんが、これについては「企業への同一賃金の義務づけなど必要な法制上の措置は今後の検討課題にとどまるため、実現するかどうかは不透明だ。」と毎日新聞が報道するとおり、全く確約は取れていません。

私は政治の世界の駆け引きについては全くの素人ですが、素人目に見ても、この程度で妥協するのは、維新の党はいいように与党に利用されているだけにしか見えません。

反対するのなら徹底審議の姿勢を崩しては筋が通らない

維新の党は採決では反対する姿勢は崩さないようです。

反対するほど問題のある法案だという認識があるのでしたら、最後まで徹底審議して、抵抗するのが筋だと思います。

そもそも、これでは派遣法案成立推進派からも支持されませんし、もちろん、反対派から見れば、成立に手を貸した「戦犯」であり、やはり支持を得られません。

誰得なの?と思わざるを得ません。

少なくとも維新の党に支持が集まる政治姿勢とは言えません。

もっとも、維新の党といえども一枚岩ではなく、いろいろな考えの議員がいるものと思います。

維新の党の良識ある議員は、この派遣法案の成立にこういう形で手を貸すことについてどう思っているのでしょうか。

今からでも遅くありません。引き返す勇気も必要です。

もう一度、徹底審議の構えをとってほしく思います。

法案は派遣労働者にメリット全くなし

そもそも、派遣という働き方が臨時的・一時的でなくてはならないのは、間接雇用ゆえ、中間搾取が存在するからです。

もし派遣に期間がなければ、労働者の賃金から永遠と中間マージンが抜き取られ、本来は労働の対価としての賃金が派遣元業者に永遠に「天引き」されることになります。

この構造が臨時的・一時的であれば許容される、というのがそもそもの派遣法の始まりだったはずで、期間の限界なく派遣されることは、本来はあってはならない形でした。

今は「派遣」という働き方が広く浸透していますので、想像しにくいですが、元来、派遣先で長期に働くのであれば、単なる人材紹介でよく、派遣である必要はないのです。

現行法下にも、専門26業務と呼ばれる業務についての派遣には期間の限界はありません。

ただ、これも一応「専門」だからという言い訳があります(もちろん、その26業務の中には「専門」といえるのか疑問であったり、実際は専門的でない仕事をさせているという例もあって、これだけでも問題は多いのですが・・)。

いずれにしても、長期間、同じ派遣先で働くことを前提に労働者を供給することは、これまでは否定的に考えられていました。

しかし!

今回の派遣法改正案は、これを完全に転換し、派遣元と派遣労働者が無期の労働契約を結べば、期間に関係なく派遣先で働くことができることになります。

その間、派遣労働者は中間マージンを取られ続けます。

期間の限定無く人を送り込むのであれば、人材紹介でよく、何も派遣にすることはないはずですが、派遣先はいつでも切れる労働力がほしく、派遣元も送り込む分だけ売上になるといううま味があるので、こういう形を作ることは悲願だったのでしょう。

他方、法案では、派遣労働者と派遣元が有期契約を結んでいる場合は3年という限定がつきます。

したがって、人をコロコロ変えながら同じ業務に永遠に派遣社員を使い続けることができます。

そのため、派遣先としては現行法の「業務単位」の制限がなく、ずーーっと派遣労働者を合法的に使えることになるので、派遣労働者が直接雇用される機会は激減することが想定されます。

「一生ハケン」と批判される所以はここにあるのです。

政府も直接雇用の契機が現行法より減ることは重々承知しており、派遣元に派遣先へ直接雇用を「頼む」ことを義務づけています。

しかし、派遣先には何らの義務もないので、ほとんど無意味です。

そもそも派遣元的にも派遣労働者が直接雇用されてもメリットはないので、どこまでがんばって「頼む」のかも疑問があります。

お願いが2つ

一つは、今、派遣労働者の方々への緊急アンケートを行っています。

是非、ご協力ください。

【派遣労働者の皆様へ】★緊急アンケート★派遣で働く労働者の不安を国会議員にぶつけるためのアクション

もう一つは、この法案成立のカギを握る維新の党へ、徹底審議の姿勢を崩して採決に応じることを考え直すように声を届けてください。

下記URLのフォームから声を届けられるようです。

ご意見・ご質問

何とぞよろしくお願いします。m(_ _)m

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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