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【派遣法改悪】専門26業務で「雇い止め」続出が見えているのに成立を急ぐ必要はない

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
6月9日に行われた派遣法「採決反対」緊急集会(日本労働弁護団主催)

私も前回の記事で協力をよびかけましたアンケートの結果が発表されたようです。ご協力いただいた派遣労働者の方々、ありがとうございます。

派遣労働者300人の声「アンケート回答者のほぼすべてが派遣法改正に反対」

さて、上記の記事で特に強調されているのは、専門26業務の方が、今回の派遣法案が成立すると職を失う可能性についてです。

これは、毎日新聞の記事でも指摘された比較的最近発覚した新たな問題点です。

専門26業務で働いている派遣労働者の雇用喪失問題

なぜ失うのか、その構造は以下の通りです。

現行法では専門26業務と呼ばれる職種についての派遣には期間制限がありません。

そのため、派遣労働者は派遣先でずっと働いています。

しかし、今回の派遣法案では、この専門26業務という区分をやめます。

法案では、派遣先で期間制限なく働き続けられるか否かは、派遣元と派遣労働者の契約が有期か無期かによって変わるということになります。

現在、専門26業務の方が、法案成立後に派遣元と無期の労働契約を結んでいれば問題ありませんが、有期の労働契約となると最長3年で派遣先で働けなくなるのです。

そのため、現在専門26業務で長く働いてきた派遣労働者に対する雇止めが頻発することが容易に想定されるのです。

現に、派遣労働者の方の声に、法案が成立すれば雇用を打ち切ると予告されている方までいます。

ですので、専門26業務の方々が不安に思うのも、もっともだと思います。

本来すべき改正はなんだったのか

本来、派遣という雇用形態は臨時的・一時的であるべきです。

ですので、現行法において、専門26業務だからといって、ずっと派遣社員という立場で派遣先で働くという構造そのものが、異常といえます。

専門26業務の派遣労働者は、その意味で、現行派遣法の下でも、例外的で特異な扱いを受けてきたのです。

前の記事でも言いましたが、臨時的・一時的でない場合は、派遣である必要はなく、職業紹介でもこと足ります。

しかし、派遣元・派遣先のメリットのため、こうした派遣のあり方が「専門」だからという言いわけの下、肯定されてしまっているのが、専門26業務です。

本来は、このような場合は、臨時的・一時的利用という目的を外れるのですから、派遣先が直接雇用するべきなのです。

真の意味で、派遣法を改正するのであれば、それを義務づける改正こそが求められるところでした。

派遣労働者の雇用がどうなろうとおかまいなしの派遣法案

ところがです。

今回の派遣法案は、そういう矛盾はどうでもよく、もっぱら派遣業界の要請に答える内容になっています。

ですので、現在、専門26業務で働いている人の雇用がどうなろうと、全くおかまいなしです。

今回の法案の一番の目玉とされるのは、派遣先が派遣労働者を使う期間について、「業務単位」の縛りから解放されて、派遣という労働力を永遠に使えるようになるという点です。

要するに、要らなくなったらすぐ切れる派遣労働者を、期間を気にせず使い続けられるという、派遣先にとってかなりおいしい話なわけです。

もちろん、そこには派遣労働者の視点はありません。

派遣元としても、「人」さえ変えれば、永遠に派遣労働者を送り込めるので売り上げアップです。

また、無期雇用すれば1回送りこみさえすれば、あとは自動的に中間マージンゲットなわけです。

要するに、規制産業である派遣業界にとっては、市場が一気に開放される、おいしい法案なのです。

もちろん、そこには派遣労働者の視点はありません。

法案は、専門26業務で働いていた派遣労働者についての配慮は一切ありません。

むしろ、現行法では専門26業務の派遣労働者が、3年を超えて同じ派遣先で同じ仕事をしている場合、その派遣先が新たに労働者を直接雇用しようとするときは、その派遣労働者に雇用契約の申込みをしなければならない(派遣法40条の5)という規定がありますが、法案では削除されてしまいます。

このように今回の派遣法案は徹頭徹尾、派遣労働者を無視し、業界の要請に答える形になっています。

直接雇用を「頼む」義務を派遣元に与えてお茶を濁す

さすがに、あまりにひどいと法案作成者は考えたのか、一応、派遣元が派遣先に対し、派遣労働者を直接雇用するように「頼む」ことを義務づけています。

しかし、「頼む」だけでOKですので、頼まれた方は、断るのは自由ですから、ほとんど意味はありませんね。

衆院通過をしてしまいそう

報道では、衆院厚労委は、委員長の職権により、派遣法の審議を再開するようです。そして、12日の採決を狙っています。

派遣法改正案審議、10日再開 衆院厚労委

年金の情報流出問題で、審議するたびにそのずさんさや、新たな問題点が発覚しているにもかかわらず、その審議を止め、それほど急ぐ理由もない派遣法案の審議をするのも、やはり、派遣業界の要請に応えるものなのでしょう。

とはいえ、まだ分かりません。

少なくとも、専門26業務の方の問題は何のケアもされていないのです。

徹底審議を望みます。

<こちらもお読みください。>

【派遣法改悪】今出されている派遣法案を通しちゃいけない5つの理由(佐々木亮) - Y!ニュース

日本労働弁護団が開催した参院議員会館内で行われた集会で「採決反対」を掲げる参加者
日本労働弁護団が開催した参院議員会館内で行われた集会で「採決反対」を掲げる参加者
弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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