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与党が派遣法案の成立を急ぐ理由はこれだ!~違法派遣の合法化~

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
国会議事堂の裏側

ついに明日(6月12日)、与党+維新の党により、衆議院厚労委員会での派遣法案の採決となりそうです。

ここに来て、与党は維新の党を上手に取り込み、維新の党もこれに応じました。

そして、一気に採決へと突き進んでいます。

(6月12日9:07追記)

ただし、今日(6月12日)の採決を先送りにするとの報道が出ています。

委員会採決を来週以降に先送り 派遣法改正案

(6月12日18:19追記)

審議を打ち切りましたが、本日の採決は見送られました。

労働者派遣法改正案 “きょうは採決せず”

なぜ法案の成立を強引に進めるのだろう?

しかし、なぜここまで派遣法案の成立を急ぐのでしょうか。

これは派遣業界からの強い要請に基づくと言われています。

今回の改正の目玉は業務単位の派遣期間の制限撤廃にあります(これがなされると直接雇用が減り、派遣労働者が激増するというのは、別の記事に書いてますのでご覧下さい→今、提出されている派遣法改正案が成立すると派遣社員が激増する理由)。

これが成立すれば、派遣業界としては派遣労働者が増え、事業拡大できます。要するに儲かります。

労働者を派遣する事業を、労働者供給事業と言いますが、これは規制産業ですので、規制が緩和されればされるほど事業者側はビジネスチャンスが増えるわけです。

とはいえ、ちょっと急ぎすぎじゃない?

なんで、そこまで拘るの?

今でもけっこう儲かってるでしょ?

こんな声も私の脳内に聞こえます。

そう、なぜ派遣業界は急ぐのでしょうか。

それは「10.1問題」があるからです。

「10.1問題」って何?

この「10.1問題」を説明するためには、平成24年の派遣法改正までさかのぼらねばなりません。

平成24年10月1日、改正派遣法が施行されました。このときの改正派遣法が現行派遣法です。

このときの改正の目玉の1つとなっていたのが「労働契約申込みみなし制度」でした。

何のこっちゃ?と思うかもしれませんが、これはこういう制度です。

派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度

要するに、違法な派遣があった場合、派遣先と派遣労働者の間に、直接労働契約を成立させるよ、ということです。

派遣法内においては珍しい派遣先に責任を取らせる制度です。

ここで「違法」とは、次の4つです。

1、派遣禁止業務の派遣

2、無許可・無届の事業主からの労働者派遣の受入れ

3、派遣可能期間を超えての労働者派遣の受け入れ

4、脱法目的で行われた偽装請負等

この違法が1つでもあった場合、派遣先企業は派遣労働者を直接雇用することを申し込んだとみなされます。

たとえ違法状態が解消されても、そこから1年間はその申込みを撤回することができないという、派遣先にとってはキツイお仕置きです。

この制度により、違法な状況下で使われていた派遣労働者が救われることになります。

ちなみに、この制度がないと、違法状態を解消されると派遣労働者が仕事を失うという構造になっていました。

まことに変な話ですが、違法状態を労働局に申告した派遣労働者が、逆に仕事をなくすという事態がけっこう発生しているのです。今も。

この制度ができれば、違法状態下にあった派遣労働者は、派遣先に対し、労働契約を結びます!という意思さえ示せば、派遣先に直接雇用されることになるのです。

ただ、この制度は派遣先にとって厳しい制度だったので、当時の与党であった民主党と、野党だった自民党、公明党などの話し合いによって、施行日が他の改正部分と異なり、3年先に延ばされていたのです。

そうです。平成24年10月1日から3年後・・・、

平成27年10月1日

が、この制度の施行日なのです!!

そして、この10月1日だから、「10.1問題」なんです!!!

へー。で? 何が問題なの?

と、思うでしょう。

では、先の「違法」の場合をおさらいしてみましょう。

1、派遣禁止業務の派遣

2、無許可・無届の事業主からの労働者派遣の受入れ

3、派遣可能期間を超えての労働者派遣の受け入れ

4、脱法目的で行われた偽装請負等

これですね。

このうちの1と2と4は分かりやすいですね。

問題は3です。派遣可能期間を超えた場合です。

実は、現行派遣法の下でも、派遣先がいつでも切れる労働力として派遣労働者をずっと使い続けたいという欲求から、派遣労働者が従事する業務をちょこっとだけ変更するなどの工夫を施して、派遣期間を延ばしている例があります。

でも、実際は同じ仕事をし続けているため、裁判になると違法とされる可能性があります。

そして、違法となれば、上記の3に該当し、直接雇用の問題が生じます。

同様に、現行派遣法の下で、専門26業務があるところ、この業務の場合は期間制限がありません。

しかし、期間制限がないことに目をつけた派遣先が、本当は26業務に該当しない業務や、ちょっとだけしか26業務をさせておらず、ほとんどは別の仕事をさせていることなどがあります。

もし、裁判で派遣労働者の業務が「専門的ではない」とか、「別業務していた」などと認定されると、3年以上派遣労働者を使っていた場合は、たちまち期間制限違反になります。

その場合も、上記の3に該当し、直接雇用の問題が生じるのです。

派遣業界は、これをもっっっのすごく嫌がっています。

ところが、どうでしょう。

今回の提出されている派遣法案の目玉を今一度確認しましょう。

今回の改正の目玉は業務単位の派遣期間の制限撤廃です。

そうです。この法案ができれば、違法な期間制限違反はなくなります。

今だと違法になる期間制限違反が合法化する魔法のような法案が今回提出されている派遣法案なのです。

結局、こんなに急いでいるのは違法なものを合法にするためなわけです。

このような派遣法案には正当性はありません。

派遣労働者にとっては厳しい状況が続きますが、まだ成立したわけではありませんので、是非、反対の声を強めていただければと思います。<m(__)m>

ちなみに、派遣業界のこの考えを代弁するペーパーを厚生労働省が配っていたのが

「『10・1問題』ペーパー」事件

です。

これについては、下の記事の1つめの理由のところで触れています。

【派遣法改悪】今出されている派遣法案を通しちゃいけない5つの理由

また、詳しくは渡辺輝人弁護士の記事をご覧ください。

違法な派遣企業を救済するための派遣法改正法案だった

これに対する日本労働弁護団の声明も合わせてお読みください。

厚生労働省「10・1問題」ペーパーの「大量失業」虚偽宣伝を糾弾する  厚生労働省は違法派遣の是正責任を果たせ

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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