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自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール(日本労働弁護団)

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

7月17日、日本労働弁護団が「自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール」を発表しました。

自衛官の法的地位との関係から『安全保障法案』の廃案を求める緊急アピール

ちょっと難しいところもあるので、超訳します。

7月16日、自民党・公明党が、衆議院本会議で『安全保障法案』を強行採決してしまいました。

ところが、衆議院での審議内容をみると、この法案によって重大な影響を受ける自衛隊員の立場についての検討が全然されてないのです。

日本労働弁護団は、過去60年もの長い間、民間の労働者とか公務員労働者の権利を守るためにがんばってきたわけですが、自衛隊員の一人一人の権利や義務について何も話し合いをせず、適当に放置したままで『安全保障法案』を成立させることは、絶対許せません。

特に、つぎの3点が問題なので、絶 対 廃 案 !

第1点 一人一人の自衛官は憲法擁護義務を負うこと

憲法99条には、公務員が「この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と書いてあります。

自衛隊員も公務員なので憲法擁護義務の担い手です。

そして、たくさんの憲法学者が指摘してるように『安全保障法案』は違憲なのです。

そうすると、違憲な法律に基づいた上官の命令も違法となり、各自衛隊員がその命令にしたがってしまうと、それが憲法擁護義務違反になります。ここが最初に抑えるべきポイントです。

第2点 一人一人の自衛官の同意なしに集団的自衛権行使のための出動を命じ得ないこと

憲法18条は、誰であっても奴隷のような拘束を受けないこと、そして、自分の意思に反する苦役を強制されないことを保障しています。

そのため、自衛隊員を含む公務員に対して、死ぬ危険、ケガする危険がある仕事を命令することができる範囲は、前もってその本人が同意している部分に限られ、それを超えて危険な仕事を命令することはできないのです。

実は、このことは、昔の公共企業の労働者についての事案で、最高裁判決として確立しているのです。

もちろん、この判決は、自衛隊員を含む公務員にも当てはまります。

こういうこと言うと、「自衛隊員はそもそも自衛の戦争があれば命や体に危険があることを前もって同意しているよね?」と言われそうですが、でも、その同意の範囲は、これまでの政府の見解、つまり、個別的自衛権の行使の場面しか想定できないときの同意ですよね。

今回、解釈変更で認めてしまった集団的自衛権行使を前提に自衛隊員になった人はいないのですから、今の自衛隊員に対して、集団的自衛権行使にかかわる仕事をするように命じることは、時系列的に許されないことになるのです。

これが2点目のポイントです。

第3点 国は一人一人の自衛官に対し安全配慮義務を負うこと

最高裁判所の判決では、国は、公務員に対して、公務員が安全に仕事ができるように配慮する義務を負っています。

もちろん、これは自衛隊員に対しても同じです。

なのに、この法案の作成の途中で、集団的自衛権のために出動する自衛隊員に対し、どうやって安全配慮義務を尽くすのか、検討した様子はミジンもありません。

集団的自衛権行使のために命や体を危険にさらすことにつき、一人一人の自衛隊員から改めて同意をもらってもいないで、安全配慮義務を尽くすこともしないで、政府が、自衛隊員に対し集団的自衛権行使のための出動を命令するなんてことは、自衛隊員の意思、命、身体を軽く扱うもので、到底許されることではないのです。

これが3点目です。

以上を踏まえて、最後に

日本国憲法は行政裁判所や軍法会議とか、特別裁判所を設置することを許していません。

なので、一人一人の自衛隊員は、違憲の法律に基づいてされる命令に対し、自分の権利などを確保するために、これに対し提訴し、最終的に最高裁判所の判断を仰ぐ権利を有しているといっていいでしょう。

そして、この一人一人の自衛隊員の提訴する権利を国が妨害してはならないことはいうまでもありません。

政府が、もし万が一にも大多数の国民の反対を押し切ってこの『安全保障法案』を成立させるという強引なことをしたときには、少なくない自衛隊員が、憲法擁護義務を根拠にして、また、外国の軍隊などのために命や身体を捧げることに同意してはいないことを根拠に、そして、国が安全配慮義務を尽くさず自衛隊員の生命身体を危険にさらすことは許されないことを理由に、『安全保障法』に基づく命令に従う義務のないことの確認を求めて提訴することが想定されます(そうなってほしい)。

そのときには、日本労働弁護団は、日本全国の心ある多くの憲法学者・行政法学者・労働法学者と連携して、労働弁護士の総力を挙げて、外国に奉仕するための『戦死者』『戦傷病者』を自衛隊員から出さないために、日本の歴史上最大級の裁判闘争を展開する決意です!

それをここに表明して、こういうことになる前に『安全保障法案』をさっさと廃案にすることを強く求めます!!!

最後のほう、熱いですね。ほぼ原文どおりです。

是非、原文も読んでくださいね!

では!

【参考判例】

千代田丸事件

最高裁判所第三小法廷判決昭43・12・24民集22巻13号3050頁/判時542号31頁

この事案は、1956(昭和31)年に電々公社所属の海底線敷設船千代田丸が日韓海底線に生じた故障の修理のため、朝鮮海峡に出動を命ぜられたのですが、当時、韓国連合参謀本部が李承晩ラインを超える日本船舶を対象とする「撃沈声明」を発していたことから、全電通労組本社支部の役員が船員の安全確保のために当局と交渉を行い、千代田丸の出航を25時間遅らせたことに関して、公共企業体等労働関係法(当時)17条違反を理由に解雇されたというものです。

最高裁判所は、米海軍艦艇の護衛が付され安全措置が講じられたにせよ、実弾射撃演習に遭遇する可能性もあり、海底線布設船の乗組員の本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではない等の理由を挙げ、「労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」と判示して、解雇を無効としました。

自衛隊工藤事件

最高裁判所第三小法廷昭50・2・25民集29巻2号143頁/判時767号11頁

この事案は、自衛隊八戸駐屯地の車両整備工場において、車両整備作業中の自衛官が、大型自動車に轢かれて死亡した事件について、国が自衛官に対して安全配慮義務を負うか否かが争点となった事案です。

この点について、最高裁判決は、次のとおり判示しました。

「国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法76条)、治安出動時(同法78条以下)又は災害派遣時(同法83条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。」

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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